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死後の世界で小さな恋

作者: ちーずん


  「・・・・・・伝えなくちゃ」


  夕暮れに染まる橋を渡りながら、私は隣にいる彼に気付かれないように呟いた。

  ここは行き交う人どころか、車も動物も何一つ無い。

  ただ、この世界にあるのは真っ赤に染まる太陽と1人の少女と少年と人の気配がしない、おもちゃの様な町並みだけだった。


  「・・・・・・暑いな・・・・・・」


  今日も昨日と同じ言葉を繰り返しながら彼は呟く。

  肩から掛けたスポーツバックはボロボロで破れているところもある。

  それは、彼が3年間使い続けたバスケ部のバックだった。


  「そうだねー」


  と私が返すと彼は苦笑いをしながら話をする。

  すべて、昨日と同じ。正確には、一昨日もそのまた一昨日もずーっと繰り返し続けてきた会話だった。


  「俺は、お前とずっと友達でいたいよ」


  不意に私の前に立ち、夕日をバックに彼はそう言って彼は「用事あるから、先帰るな」と私に手を振って夕日に向かって走り出していた。


  きっと、私達の想いが交わることはない。

  私の気持ちと、彼の気持ちは別々だ。


  「ばいばい・・・」


  もう、既に見えなくなった彼の後ろ姿に向かって手を振る。


  君の影が遠くなるのは嫌。だけど、変わってしまう明日も嫌。

  そんな矛盾した感情を抱いたまま、1人変わらない明日を待った。



  「このままじゃ嫌だよ・・・・・・!」



  弱虫で傲慢で自分勝手な私を許してくれますか?

  私が抱えている秘密をいつか君に話すから、それまでは今のまま、君の隣にいさせてください




  「・・・暑いな・・・」


  今日も、昨日と同じ場所で会話。

  きっと、彼の隣にいる限り私が幸せになることなんてないんだと思う。


  「・・・変わりたいよ・・・・・・変えたいよ」


  私の呟きは、彼に聞こえているはずなのに彼は気づいていない様に一人で話し始める。


  「俺は、お前とずっと友達でいたいよ」


  また、そう言って彼は私に背を向ける。

  今度こそその背中を掴みたくて手を伸ばすが届かない。


  ・・・手を、伸ばせなかった。

  中途半端に宙に浮く手は彼を掴もうとしなかった。


  私に、彼を手に入れる資格なんかない。

  彼を創り出し、留めてしまっているのは私なのだから。


  そんな風に言った所でどうにも出来ないのは分かっている。だけど、私はそうやってするべき事から目を逸らし続けなければ自分が消えてしまいそうだと感じていた。


  タイムリミットは近づいているのに。




  「・・・暑いな・・・」


  今日は8月の最高気温らしい。

  夕方にも関わらず、私を照りつける太陽に目をすぼめていた帰り道だった。


  「そうだね」


  カラカラに乾く喉と緊張でそれしか言葉が出ない。

  そんな私のありきたりな言葉ですら、彼は笑ってくれた。


  「俺は、お前とずっと友達でいたいよ」


  私の時は止まる。


  「じゃあ、用事あるから、先帰るな」


  彼はそう言って橋をかけてゆく。

  頭は回らなくて、ただ一つだけ胸には大きな穴ができた。





  それからは記憶がない。

  ずっと、「今日」を繰り返している。

  理解していたのだ。


  私は死んでいる


  と

  私がずっと今日を繰り返す度に彼は笑って隣に立ってくれる。

  彼はこの場所にはいない。

  ここにいる「彼」は私が作り出したものだった。

  何度でも何度でも蘇る、鮮明な記憶。


  目の前に迫った地面に目の前が暗くなった。

  頭が回らなかった。

  ただ、断末魔のように響く甲高い悲鳴と腹部を突き刺す様な痛みだけが理解出来た。



  気づけば私は何も無い橋の上で夕日に照らされながら1人、佇んでいた。

  目がジンと熱くなり、涙を流しながら私は彼の名を叫んでいた。

  何も無い、寂しい死後の世界の中、私は彼を探していた。


  「まだ、まだ、伝えたいことあるのに・・・好きだって言いたい・・・・・・ごめんね、、って謝りたいッ! 離れたく、、ないよ、、」


  隣に君がいないのが当たり前のはずなのに君をひきずってしまったね。

  バイバイしなきゃいけなかったのに、、ごめんね


  私はとめどなく流れる涙を隠すように顔を覆い、その場にうずくまって泣いた。


  そのうち来てしまう明日に、涙を流さなくても良いように--




  「・・・暑いな・・・」


  また、繰り返されてしまう今日。


  「暑いねぇー」


  私は、満面の笑みで答えた。

  すると彼は、笑って--


  「・・・・・・」


  しばらくの沈黙。

  私は少し後ろに立ち止まっている彼を振り返る。

  彼は、目を見開いていた。


  「・・・・・なんでかな? 懐かしいよ、その笑顔」


  彼は見開いていた目を優しく閉じ、大切な物を見るような目で私を見つめた。


  「・・・今日は、用事あるから、先帰るな」


  そう言って彼は私にセを向ける。

  最後は、笑うって決めていたから。

  君を縛り付けるのは止めるんだって決めたから。

  だから、彼のあんな顔なんて見たくなかった。


  離れたくない


  もっと一緒に居たい。


  でも、ダメだから。だから、私は思いっきり息を吸い込んだ。



  「私、1人でも大丈夫だから」



  叫んだ声はかすれていて、涙で歪んでいたかもしれない。

  私の叫び声で振り返った彼はもう透けていた。


  「ばいばい」


  精一杯の笑顔で笑うと彼は消えていった。



  彼の最後の顔は、


  笑っていたように見えた



  私に、明日が来る。いつもとは違う、少し寂しくて少し進んだ明日が。

ちょっとファンタジーな話になった・・・

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