3 ゲオルグとギュウダの塔
ゲオルグは、西の国にあるガイアの里に生まれた。
ガイアの里の男達は、生来頑健で大柄なのであった。
がっしりとした骨格に固い筋肉が発達し、青年期には見るからに屈強な身体となる。
内臓も強く、酒にも病にも打ち勝つ耐性を備えていた。
また、勤勉で鍛錬を惜しまぬ性質もなお良く、男たちの戦闘力を高めた。
ガイアの里は、戦士の里という別名を持つ。多くの名だたる戦士たちを輩出している里なのであった。
西の国は強靭な戦士を多数有する。
その中心を成す戦士のほとんどが、ガイアの里の者なのであった。
ゲオルグは、そういった里にあっても目立つ存在であった。
幼き頃より頭角を現し、めきめきと力をつけた。
十の年には、大人にもひけをとらない強さを身に着けていた。
その年で魔獣討伐の隊に入ることを許され、実際に数々の魔獣を打ち倒した。
実戦を経験するごとに戦闘技能は磨かれていった。
平素、山のようにどっしりとして静かな顔を見せている。しかし、戦闘時には鬼神のごとき身動きを見せる。
戦士の里ガイアを体現するゲオルグは、将来を嘱望されていた。
その証のひとつとして、ゲオルグには美しき乙女が与えられた。
十四になったら結婚の儀を執り行うことが決められた。
十の年に出会った同い年の許嫁マナは、隣のレアの里の里長の娘であった。
レアの里の女は美しいことで有名であった。
ご多分にもれず、マナは大層美しかった。
ぬばたまの黒髪、黒真珠のような輝く瞳、小ぶりの鼻と柔らかそうな唇。
初対面。凛々しく男ぶりの良いゲオルグに、マナははにかみ笑いをして見せた。
何とも初々しいマナを、ゲオルグはまぶしく見つめたものであった。
マナは美しいだけではなく、不思議な少女であった。
元気に立ち働く老爺がいる。それを見たマナは、あのお爺様お気の毒に、と言う。数日後、その老爺は石につまずき転んで腰を痛めてしまうのであった。
鳥の卵が巣に五つある。マナは、この子が一等賞、と微笑む。翌日、その卵から雛が孵るのであった。
時々、寂しげな目をしてゲオルグを見上げるマナを、ゲオルグは真摯に愛した。
婚儀となるはずの十四の年、許嫁のマナは去った。
いや正しくは、ゲオルグの目の前から連れて行かれたのである。
神秘の塔ギュウダ。
天災を鎮め、ヒトに行く先を示し、救いを与える、神々との交信者たちが住まう塔である。
ギュウダの塔は、北の国、南の国、西の国、東の国の真ん中にある広大な森の中にある。
森の中心にギュウダの塔はあるのだが、周りは断崖に囲まれている。
どのようにしてそこにたどり着くものなのか、橋など見当たらないのであった。
マナは稀有な能力者として、ギュウダの交信者に発見された。
ヒトの安寧と世界の平安のために、マナの人生は神々との交信に捧げられることとなった。
国々の王すら不干渉を貫くギュウダの塔の決め事である。ゲオルグごときにできることはなかった。
「運命が導くならば、私とあなたは再会する」
使者に連れられながら、マナはゲオルグを見て言った。
十四のゲオルグはその眼差しと言葉に、胸を撃ち抜かれた。
戦士ゲオルグは家を捨て、里を出て、ギュウダの塔を目指すことに決めた。
ゲオルグは己の腕に自信があった。
権威に対しては畏怖よりも反発が勝る年頃でもあった。
すべての反対を押し切った。
路銀を得るために、戦士として働いた。
生死をさまようこともあれど、変化に富む旅の生活は、ゲオルグにとって悪くはなかった。
ゲオルグは圧倒的な強さを身につけていった。
ゲオルグは権力者に気に入られ、そうこうするうちに、西の王に謁見していた。
やがて、西の王の面倒事を秘密裡に始末することに成功した。
ゲオルグに西の王から褒美が与えられた。
こうしてゲオルグは、ギュウダの塔への行き道を知ったのである。
ガイアの里を出てから実に、五年目のことであった。