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1 邂逅

恋愛モノっぽいので、七夕に始めたかったあまり、若干荒いかもですが、読んでいただけるとうれしいです!比較的さっくり終わる予定です。

「どこ行った!」

「ヨーマかもしれねえ!」

「てめえら、絶対逃がすな!」


 夕暮れ時の森に、男たちの声が響いた。

 ファイは木立に身を隠しながら走り、岩陰に滑り込んだ。

 夕暮れ時であったことが幸いした。

 男たちはファイを見失った。


 五人の男たちは毛皮をまとい、大ナタを構えていた。


 岩陰からそっと窺い見たファイは、ため息をついた。

 男たちはおしなべて大柄で粗野。


 対するファイは、華奢な少女であった。

 紫苑色のつぶらな瞳と髪は神秘的。するりと伸びた手足は真珠のような肌。

 簡素な布の服を着ていても尚、近隣の美姫を越えた美しさ。


 ほとほとうんざりという顔をするファイの顔に、手が伸びた。

 口をふさがれ、さすがにファイは目を見開いた。


「俺だ。ネオンだ」


 ファイの口をふさいだのは、赤茶色の髪の若い男だった。

 人の良さそうな、そばかす顔の男は、険しい顔で声を落として尋ねた。


「探したぞファイ、どうして里を出た? 里が嫌になったのか? どこかへ行くのか?」


 ファイはもごもごと言った。

 ネオンは慌ててファイの口をふさぐ手を離した。


「ファイ、ごめん」

「里を出たのは、何となくだよ。何となく」


 ファイはあっけらかんと答えた。

 ネオンはそう答えたファイの様子を見て、がくんと肩を落とした。


「そうか。いや、ならいい。いや、よくないが」

「なんかめんどうなことになったねえ」

「おまえが言うな。くそ。あいつらに姿を見られたのか。何とか里に戻らないと」


 ネオンは肩にかけていた弓を持ち直し、矢をつがえた。


「いや。里に戻る前に、あいつらを始末しないと、ファイのことが知れ渡る」

「困ったね」

「おまえが言うな」


 ネオンはすうっと呼吸した。


「ファイは身を隠していろ。俺がやつらをやる」

「はあい」


 ネオンの緊張感など我関せず、ファイは簡単に返事をした。

 ネオンは一人目の男に向かって矢を射かけた。

 夕闇の迫る森の中にも関わらず、木立を抜けて矢は飛び、一人の男を仕留めた。


 慌てふためく別の男に、次の矢が的中した。

 残り三人。


 矢の来た方向を見定めた男たちは、ネオンの姿をとらえた。

 見事な脚力で山を駆け、三人はネオンに襲いかかった。


 ネオンは剣を抜き、応戦した。


 ネオンは一人を斬り捨てた。

 しかし、地の利とネオンの驚異的な集中力による優勢もそこまでだった。とうとう、敵の振るった大ナタが、ネオンの腿を切り裂いた。

 そこから連続して腕も斬られた。


「大丈夫?」

「ばか! 隠れてろ!」

「そこにいたか! 見ろ、あの髪」

「間違いねえ。ヨーマだ。本物だ」


 血濡れながらもネオンはファイを庇うように、手を広げ立ちふさがった。


「早く逃げろ! 早く!」


 叫ぶネオンをあざ笑うように、男どもの大ナタが振りあげられた。それは、当たれば致命傷であると、ネオンに直感させる動きだった。


「ん?」


 ファイが首をかしげた。

 ファイの視線の先、二人の男たちの後ろに、もう一回り大きな人影が現れた。

 驚くべきことに、ここに至るまで気配はなかった。


 夕日を背にした大きな人影が、動いた。

 ぐがっ

 音のような、うめきのような響きとともに、たちどころに二人の男たちが沈んだ。


 ネオンは血を流しながら這い進んだ。

 沈んだ男たち一人ずつに、短刀をひと突きしていった。

 矢じりと同じ毒が塗られている。

 当初現れた五人の男たちは、こと切れた。


 ネオンの視界が霞んだ。

 血を流し過ぎた。

 最後に現れた小山のような人影を見上げた。


 見知らぬ若い男だった。


 黒眼黒髪の日に焼けた男は、とにかく大きかった。

 固い筋肉で鎧われた体に、布の服を身につけている。

 年季の入った外套からも、旅慣れた印象を受ける。

 手にした大剣とその扱いを見れば、手練れの戦士であることが分かる。


 殺気はなく淡々としている。

 先程の太刀筋を思えば、男が敵であればすでに自分の命はないはず。


 そこまで考えて、ネオンは限界を迎えた。

 ネオンは気を失った。



 ファイが岩かげからひょっこり姿を見せた。

 ファイは男を見上げた。


 大きな男は、大剣を背中の鞘におさめながらファイに言った。



「このあたりにある隠れ里を探している。知っているか」

「私もネオンも里から来た」



 ファイはあっさりと答えた。

 男はネオンを左肩に担ぎ上げた。



「運ぼう。里に案内してくれ」

「私も疲れた」



 男はファイに歩み寄った。

 男は、左肩にネオンを担ぎ上げたまま、ファイを軽々右肩に乗せた。

 ファイは男の短い黒髪をつかみ、バランスをとった。


「あっち」


 ファイが示す方へ男は歩いた。

 山道は険しいのだが、大剣も荷物もネオンもファイも肩に置いて、男は易々と進むのだった。



「私はファイ。あんたは?」

「ゲオルグだ」



 低く落ち着いた声で男は答えた。

 ゲオルグ、と口の中で転がすように、ファイは言った。


「ゲオルグ」


 ファイはしっかりと発音し直し、ゲオルグの硬質な髪の毛に頬をうずめたのであった。


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