迷宮案内人カンナ の 面接
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久々の投稿なのであらすじとなります。
……とりあえず、手短に終わる話ではなさそうだ。
早朝の喧騒の最中とはいえ、このまま立ち話をしていては、悪目立ちしてしまうに違いない。
私はそう考え、エイミーに着席するよう促した。
少女は大人しくそれに従い、ぎこちない動作でぺこりとお辞儀をしてから席に着く。
こうして、――一人はとりあえず食事をしながらのようではあるが――質疑応答が始まった。
◆
私は腕組みをして椅子にもたれ掛かると、エイミーに向けて問いかけた。
「ふむ……それで、パーティに入れてくれというのは? 別に、仕事が欲しいだけならゴードンに頼み込むだけでもいい気がするが」
かつて行動を共にした冒険者から教えてもらったのだが、この街の子供たちが孤児院に在籍していられるのは十歳までの間らしい。
そして、それ以降は世話になった恩返しとして給金の余りを孤児院に仕送りをしていくのだとか。
パッと見たところ、エイミーも年齢としてはそれぐらいである。
故に、彼女も就職先を探し求めているということは容易に類推出来た。
……しかし、だからこそ私たちを頼る理由がわからない。
私とハルワタートは、案内人と冒険者。
ふとした油断や想定外であっさりと命を落としかねない職業なのだ。
エイミーは昨晩の一件で、『お姉ちゃん』と呼び慕う冒険者――レミリアを通じ、そのことを痛感したはず。
だというのに、昨日の今日で冒険者を志すなんて、あまりにも不自然なことだった。
そもそも、仕事が欲しいだけなら迷宮に潜る必要などない。
この街は『カテドラル』のおかげで常に賑わっていて、万年人手不足なぐらいである。
貧富の差も大きいとはいえ、少女一人の食い扶持を稼ぐぐらいは難しいことではなく、ゴードンに頼み込めば幾つかの仕事を紹介してくれるだろう。
……そんな意味合いを込めての言葉だったのだが。
「……いえ、冒険者がいいんです」
エイミーはふるふると首を横にするだけである。
「もしかして、昨日の報酬のことを気にしているとか? それなら、臨時収入があったから平気だけど」
ハルワタートが食事の手を止め、自身の食べかけの皿を指差して言った。
彼の手元には朝食とは思えないほどの皿があり、現在の懐具合を伝えるにはあまりにも的確だろう。
もっとも、このペースで毎食食べられたらたまったものではないが。
「勿論、その点に関しては本当に感謝していますし、ちゃんとお礼をしなきゃって考えてます。……でも、違うんです」
とはいえ、返ってきたのは頑なな否定だけだった。
……はて。
どうしたことだろうか。
エイミーは同年代と比べてみても華奢な少女である。
力仕事などに向いていないのは明らかだし、迷宮探索などもっての外。
だというのにここまで探索を望むあたり、余程の事情があるのは間違いないのだろうが……。
益々事情がさっぱりだ。
私は首を傾げ、彼女の次の言葉を待つしかなかった。
すると、エイミーは心を落ち着けるように小さく深呼吸。
そして、意を決したかのように口を開き語り始めた。
「……お姉ちゃんは命に別状はなかった。さっき、私はそう言いましたよね」
「……ああ」
「でも、お医者様によると、それは以前と同じように暮らせるって意味じゃないみたいなんです。継続的に治療を受けても後遺症はどうしても残ってしまうし、激しい運動をするのはまず無理だろう……って」
……なるほど。
先ほどから彼女の顔に暗い影が落ちているのはそういうことか。
レミリアの命は救われた。
だが、彼女の冒険者生命はまず間違いなく絶たれてしまったのだ。
……この街には様々な仕事が溢れている。
しかし、それはあくまで健常者に対して。
身体が不自由なものが就ける職というのは驚くほど少ないし、あったとしても魔法の知識などが要求されるものが殆ど、それ以外は雀の涙ほどの金しか貰えないはずだった。
そんな中、多額の治療費を抱えたレミリアが生きていくのは難しいに違いない。
『サンライズ』ほどの冒険者であれば貯蓄も相当なものだったのだろうが――彼女はその分を孤児院に寄付し続けていた。
考えなしの蛮勇だったと嘲笑うものがいるかもしれない。
だが、それによって救われたものがいるのもまた確か。
「お姉ちゃんは、私たちに仕送りをするために身を粉にして頑張ってくれました。だから、今が恩返しをするときなんじゃないかって思うんです」
だから、エイミーには金が要る。
全ては、今まで借り受けた恩を返すために。
そうなると、成功さえすれば冒険者ほど手っ取り早く金を稼げる職業はない。
どうやら、エイミーはそれに賭けるつもりらしい。
「どうか、お願いします! えっと、どんな危ないことでもしますから、私をカンナさんのパーティに加えてくださいっ!」
彼女は膝の上できゅっと拳を握りしめ、緊張した面持ちで私を見つめてきた。
私も無言でエイミーへと視線を返す。
――少女の瑠璃色の瞳は曇りなく澄んでいて、冒険者に対する憧憬や、富や名声への野心は宿ってはいなかった。
ましてや、恩人を傷つけたという迷宮への憎しみさえも。
端的にいうならば、それは必ずことを成し遂げるのだという決意。
――その瞳を前に、私が覚えたのは既視感だった。
胸の奥がざわつくような、奇妙な感覚である。
……私は、彼女を肯定するべきなのだろうか。
それとも、否定するべきなのだろうか。
ただただ、わからない。
「……これは私のパーティではないのだから、ハルワタートが許可するなら構わない」
気が付くと、私は目を反らし、ぼそりとそう呟いていた。




