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52.蛮勇の子・中

「……キミは俺には勝てない」


 そう断言したロランのその目の、同情に満ちたかのような眼差しはジュードの胸をざわつかせた。


「ッ――ざけんなあぁッ!!」


 ジュードは再びロランの方へ斬り掛かると、ぶんぶんと剣を振り回す。

 しかしその一つ一つをロランはかわしながら、話していた。


「お前のその野性味を帯びた剣を生かそうと思えば、圧倒的に卓越した力が、速度が、キレがいるよな」


「くそっ……このっ……!!」


 剣を振りながら、ジュードは嫌な予感を覚えていた。

 そんなジュードに、尚もロランは話す。


「圧倒的な差が無ければ、野性味は瞬く間に、ただの粗削りとなってしまう」


「黙れッ、黙れよ……!」


 ジュードが認めたくないその事を、とうとうロランはズバリと言っていた。


「お前のその《精霊喰い》が持つ効果は、ヘルファイアだけじゃない。身体能力の底上げも含まれていたんだな」


「畜生があァァッ!!」


 ジュードが最後に振り下ろした剣も、ロランは避けていた。

 ゼーゼーと肩で息をするジュードと、その一方でロランは一分たりとも息切れをする様子が無い。


「この剣を剣王が、何故『ジュード対策だ』と言っていたのか……ようやくわかったよ」


「ふざけるなッ!!」と、ジュードは叫んでいた。


「俺こそが親父の真の息子なんだッ!! この剣を親父は俺にくれたんだ!! 親父はそれだけ俺に期待を掛けてくれていたんだッ!!」


「…………」


 沈黙するロランに、ジュードは尚も叫ぶ。


「エルフの里を襲う許可もくれたんだ!! それは俺がそれだけ特別だったからだッ!! 特別だったから……――」


 それからジュードは、うっうと泣き始めていた。


「畜生……何故だ。何故だよ、親父……」


 ジュードは剣をガラリと床へ転がり落とすと、そのままへたり込んでいた。


「そんな剣をこいつに渡したということは……――親父は、初めから俺を始末するつもりだったのかよ……」


 ジュードのその言葉を、ロランは黙って聞いていた。


「クソッ……!! なんだっていうんだッッ!! 俺は、親父の何なんだよ……?!」


 ジュードは涙を零しながら、悔しげに拳を振り下ろすと、床を叩いていた。


「こんな“妾のガキ”の方が良いというのか?! 世の中の女共ってのは、親父を取り上げて……その上、俺の存在まで踏みにじりやがる!! 泣いて恨み言を言うしか脳が無いクセに!! 男の玩具になるしか脳が無いクセにッッ!!」


「……それは」


 ロランはじっとジュードのことを見据えると、漸く口を開いた。


「……全て“お前の父さん”がやったことだよ。お前の父さんがよその女を選んだし、よそに子供を産ませたし、泣いて恨み言を言わせたのも、玩具にしたのも全てお前の父さんがやったことだ」


「うるさいッッ!!」


 ジュードはロランの言葉を否定していた。


「俺を産んだ女は城の奥で毎日泣いていたんだ!! 俺が顔を出すと必ず泣くんだよ!! 俺を産んだくせに俺を憎んでいた責任感の無い女!! 俺には親父しか居なかった……!! どうせ恵まれた環境に生まれている貴様に何がわかるっていうんだ!!」


「…………」


 ロランは黙り込んだまま、一歩も動かなかった。

 ……否。動けなくなってしまっていたのだ。

 今なら、ジュードを斬り伏せるタイミングが、幾らでもある筈なのに。


(……ジュードも結局、被害者なんだな)


 そんな風に考えると、同情心が沸き起こってきてしまって。

 確かに自分には愛してくれる母親が居た。父親は稀にしか顔を出さなかったが……その間だけでも、優しい仮面を被ってくれていたのだ。

 しかしジュードはどうだ。何なんだ。父親の真の姿を見て、母親に疎まれて。


(……虚無だ)


 ロランはそれを感じ取っていた。

 結局ジュードはこれまでの間、縋りつけるわずかなモノに縋りついて生きてきたのだろう。それはきっと、父親と――剣王の息子という座だったのだ。


(もし、変わることができるなら……。ジュードの――兄の未来は……)


 そんな一抹の可能性が胸をかすめ、ロランの剣を握る手はいつの間にか震えていた。


(――俺が今、ここで命を絶ってしまえば)


 …………彼はもう二度と変わることができないのだ。


(……本当に、それで良いのか?)


 ロランは自問自答していた。

 ロランがすっかり黙り込んで動かなくなってしまったのを観客席から見て、イルヴァは嫌な予感を覚えていた。

 それはクレハやシャルロッタまでも同様だった。


「……やっぱり」と呟いたのはクレハだった。


「ロランは躊躇っているんだよ……殺めることを」


 イルヴァは立ち上がると、バンッ! と石造りの手すりを叩いていた。


「ロランッ!!」


 イルヴァは叫んでいた。


「そんなヤツの戯言に耳を傾けてはいけないわ!! そんなものが免罪符になるわけがない!! そいつは私の親兄弟を殺し尽くしたのよ!! これまで多くの里に不条理な災厄を与え、多くの命を奪ってきたの!! 自分が不幸だからって、他人の幸せを奪う権利なんてどこにも無いわよッッ!!」


「……イルヴァ」


(……そうだよな)とロランは思い、剣を握り締める手の力を強めていた。


(こいつはイルヴァの……仇敵!! 全てを奪い付くし、イルヴァの人生を破壊的なものへと変えてしまったんだ)


「……俺が殺すと約束したから」


 ロランは正面にジュードの姿を見据えていた。


 しかし……足が動いてくれないのだ。

 自分とそっくりの顔立ちを持つ目の前の兄の姿。

 自分がその立場なら……自分だってそうならない保証は無い。


「……クソエルフが」と、ジュードは呻った。


「貴様に俺の気持ちがわかるものか!! 貴様らは殺されて当然の種族だろ?!」


 ジュードはイルヴァを睨み付けると、怒りを叩きつけるように叫んでいた。


「とうの昔にヒューマン族の寿命の何倍も生きてるだろうがよ!! そんな枯れ切った命のどこに価値があるというんだ?! 貴様だって既に、ヒューマン族だとしたらとっくに死んでいる命だ。そんな古臭いモノに縋りつくことの方がどうかしている! 何百年も生きている分際で、命乞いをするとは図々しいんだよ!!」


 ジュードがイルヴァに対して言い放ったその言葉を聞いて、ロランは確信していた。


(こいつの中では……――命の重さというものは不平等なんだ)


 ロランは剣を構え直すと、腰を落としていた。

 そんなロランの様子に気付き、振り返って来たジュードの形相は――まさにサテュロス(悪魔)そのもの。今自分の命を穿とうとする敵の気配に気付き、煮え滾るような憎悪を覚えたのだろう。


 ――何故ならジュードにとって、自分の命という物が、世界で最も重く崇高な物だから。


「認めん……俺は認めねぇぞッ!! 俺が最強だ!! 俺こそが親父の息子だッッ!!」


 ジュードは剣を改めて握り直すと、がむしゃらにロラン目掛けて飛び掛かってきた。

 そして、先ほどまでの出来事は間違いだったのだと言わんばかりに。夢だったのだと否定せんばかりに、力いっぱい剣を振り下ろし、振り払う。


 しかし、その渾身の一撃一撃を受け止め、かわされ続け……――やっと我に返ったのだ。


 ……――俺のこの剣は、どこまでも矮小だったのだと。


「なんでだよ……なんで、当たらないんだよ……なんで、斬れないんだよ……!」


 唖然としながら己の剣を見つめるジュードの元に、ロランは歩み寄っていた。


「……斬れるわけがないよ」


 ロランは静かな声で言っていた。


「お前のその剣は、何の鍛錬の跡も見えない。これまでただ弱者に対する殺戮を繰り返していただけなんだとわかる、粗雑な剣だ。ただ乱暴なだけで……――芯が無い。通るべき一本の筋が通っていない。真っ直ぐに見えて、ぶれている。これまでは仮初めの剛力でぶれる間もなく振り払えていたからこそ、斬れたんだろうが――……それも結局、他人から与えられた力だったんだな」


 ロランは剣を上段に構えていた。

 そんなロランの姿を見て、ジュードはヒッと息を飲んだ。


「ま、まさか、本気で殺すって言うんじゃねぇだろうな……?!」


「だったら?」


「ま、待てよ! お前は誰も殺した事が無いんだろッ?! 殺めない主義なんだろッ?!」


 完全に勝てないとわかれば、途端に怯えた目を向けるジュードの姿に、ロランはため息を吐き出していた。


「……お前がこれまで殺してきたやつらも、お前と同じような目をしたんだろうな」


 そして次の瞬間。

 ヒュンッと、ロランの剣が振り払われた。


「待ってく……――」それがジュードの最後の言葉だった。


 剣はまっすぐに逸れることなく、ジュードの頭上から足元へと軌道を描いて行く。

 すうっと、まるで空気を裂くかのようにジュードの体の中心線を走り抜けた後、ピッ。と、切っ先が床の上で止まった。次の瞬間。


 ばっと血しぶきを撒き散らしながら、左右に分かたれたジュードの体がごろっと床の上に転がり落ちたのだ。

 血にまみれながら恐怖に彩られた錆色の瞳が、床の上からロランを見つめていた。


「っ……う……」


 ロランは体中に返り血を浴びながら、頭を手で抑えて、思わず一歩、二歩とよろよろ後退っていた。


『今――決着が着きましたあぁぁッ!!』


 ロランの感情を無視するかのように、空気を切り裂くような歓声が一気に沸き起こった。


『勝者――アブソリュートソード!! アブソリュートソードのロラン・ノールドが今、真の頂に立ち、また、真の剣王の後継者であることを明かしました!!』


 そんな審査人の声と聞くなり、観衆席の人々が次々と立ち上がって「ロラン!」「ロラン!」というコールを始めるようになった。

 歓喜に満ち溢れたその声を遠くに聞きながら、ロランはいつまでも立ち尽くし、ジュードの眼差しから目が離せなくなってしまっていた。


 やがて気分の悪さを堪え切れなくなったロランは、込み上げてくるものを抑えきれずに剣を取り落とすとしゃがみ込んでいた。

 そして、「うっ、うう……!」と呻き声を上げながら、胃の中の物をぶちまけた後、そのまま意識を失くすようにして、ジュードの血の海の中へと倒れ込んでいた。


 ロラン! ロラン! という、胸の悪くなるような歓声が、いつまでも止まなかった。





「貴様がこの俺を殺した!!」


 ジュードが憎憎しげにロランを睨み付けながら、叫んできた。


「貴様の剣が! この俺を……真っ二つに切り裂いたのだ!」


 ジュードの体の真ん中からだらだらと血が流れ落ちて行く。

 そこはコロッセオ(闘技場)の舞台の上だった。

 ロランはそこに立ち尽くすと、観衆たちからの「人殺し!!」という声を聞いていた。


「お前が殺した!」


「人殺しめ!」


「お前がジュードの未来を壊したのだ!」


 大勢の観衆たちが一斉にロランを攻め立てる中で、ジュードの体が二つに割れて地の上に伏すようになる。

 憎悪に燃えた目が血の海の中からロランを睨み付けていた。


「許さない……絶対に許さないからな……!!」


 呻るように喋ったその形相が――やがて、恐怖の色へ染まり行く。


「おい、本当に殺すやつがあるかよ……お前のせいで。お前のせいで俺はッ……!」


 ロランは頭を抱えると、蹲っていた。


 そうだ。俺のせいなんだ。

 俺が殺したせいで、ジュードが死んだ。もしかしたら、別の未来があったかもしれないのに……!!


 そんなロランの耳に、観衆の声が聞こえた。


 「ロラン!」「ロラン!」


 自分の名前を高らかに呼ぶ声だった。

 その声はやがて入り交じり、ぐにゃぐにゃと歪み、ジュードの声へとすり替わる。


「ロランッッ!!」という、憎悪に満ちた声に。





 次の瞬間、ハッとロランは目を覚ましていた。

 いつの間にか高ぶっていた息遣いをハァハァと納めた後、額の冷や汗をぬぐうと周りを見回す。

 そこは薄暗くなった部屋だった。


 時刻はいつの間にか夜になっているようだ。

 石造りの滑らかな天井は、ここ最近になってからやっと見慣れてきた光景だ。


 ここはソードパレス文官省会館にある、客室だった。

 文官から借りているこの部屋のベッドに、ロランは寝かされていたのだ。

 それに、いつの間にか服も着替えさせられていた。武具を身につけていなかったし、今の自分は見慣れない生成りの絹の部屋着を着せられていた。


(……誰かが運んでくれたのかな?)


 上体を起こすと、目の前を一つの魔法光球(ライトボール)がふわふわ横切っていくのが見えた。

 カーテンが閉ざされているのに部屋が漆黒でなかった理由は、この、魔法で出来ている球にあったのだ。


(……ということは)


 ロランが視線を巡らせていくと、そこに案の定の人の姿があった。

 イルヴァが椅子に腰掛けて、うつらうつらと舟をこいでいたのだ。

 ずっと傍に居てくれたのだろう。こんな夜遅い時間にも拘らず、部屋着に着替えた様子も無く、昼間と同じ魔導士のローブを身につけている。


「……イルヴァ」


 ロランが声を掛けると、イルヴァはハッとした様子で目を覚ますようになった。

 そして顔を上げてロランと目が合うと、彼女はホッとした様子で胸を撫で下ろすようになった。


「良かった……ロラン。目が覚めたのね」


 イルヴァの安堵の声を聞き、ロランは微笑むと同時に引け目を感じていた。


「……ああ。ごめん、心配掛けて」


 口ではそう言いながら、(……俺にそんな目を向けないでくれ)と考える。


 そんなロランに対して、「ううん」とイルヴァは首を横に振って、それから感極まった様子でロランにぎゅっと抱きついてくるようになった。

 ロランの温もりを感じながら、イルヴァは震えた声を吐き出す。


「良かった……本当に。良かった……」


 イルヴァの声はすっかり涙声になっていた。


「あなたが倒れた時、そんな事はないとはわかっていたけれど……それでも不安だったの。もう二度と目を覚まさない気がして……すごく、すごく心細かった……」


 そんなイルヴァの声を聞いて、ロランは目を細めていた。


(……そうだよな。彼女には俺しか居ないんだ)


 ロランはそっとイルヴァの背中を抱き締めていた。


(……こんな人殺しであったとしても……彼女にとっては、俺だけしか)


 ロランは意を決すると、優しく話し掛けていた。


「……言ったろ? 俺がキミを守るって」


 ロランの言葉に、イルヴァはこくんと頷く。

 そんなイルヴァの髪に手を伸ばすと、ロランは優しく撫でたつもりだった。

 ……しかし、その手は小さく震えていたのだ。


 ハッとなって咄嗟に手を引くロランと共に、イルヴァもまたその事に気付いた様子だった。

 イルヴァはそっと体を離すと、ロランの両手を包み込むように握り締めていた。


「……怖かったわよね」


 ぼそっと呟いたイルヴァに、慌ててロランは首を横に振っていた。


「大丈夫だよ、これぐらい」


「……強がらなくても良いわよ」と言ってイルヴァは微笑んだ。


「確かに昔の私なら……今のあなたに、軟弱者だとか……腑抜け者だとか言っていたかもしれないわ。……けれど、これは本当なら私のモノ」


 そう言ってイルヴァはロランの手を優しく撫でる。


「あなたが今感じている、苦しみや痛みや辛さは……本当なら、みんな私が背負うべきモノだった。それをあなたが全て引き受けてくれたからこそ……私はこうやって楽になれたの。――だから」


 イルヴァはロランの手にちゅっと口付けを落としていた。


「――ありがとう。私の全てを終わらせてくれて」


「……イルヴァ」


 ロランは気の抜けたような表情を浮かべるようになったが、それでもどこか苦しげだったから、イルヴァは彼の手を引き寄せていた。


「――やっぱり、簡単には割り切れないわよね」


 溜息交じりの声と共に、彼女自身の手によって、やがてロランの手はイルヴァの細く白い首筋へと掛けられるようになる。


「……――」


 ハッと息を飲んだロランに、イルヴァは微笑みかけていた。


「苦しいなら、辛いなら、いつでも私を殺しても良いのよ」


 イルヴァは穏やかな声で、ハッキリとそう言った。


「私はあなたになら殺されても悔いは無いし、傷付けられても構わないと思っているのよ。だって、あなたの苦しみを作ったのは、この私なのだから」


 透き通った紺碧の瞳が真っ直ぐにロランを映している。

 ロランの両手を自らの首に掛けたまま、イルヴァは安心しきったような眼差しを彼に向けていた。


 そんな彼女の目を見て、やっとロランは安堵していたのだ。


(そうか……俺は、やっとイルヴァを助け出すことができたんだよな……?)


 その事に気付いたからだ。


「……馬鹿なことを言うなよ」


 やがてロランはイルヴァの手を振りほどく形で手を首筋から離していた。


「キミの事が大事だから、俺は誓ったんだよ。キミを守ることも、ジュードを殺すことも。それは――キミの事が心から大切だったからだ。それなのにこんな事をしたら、意味が無くなってしまうだろ?」


「……うん」


 戸惑いながらも頷いたイルヴァを、ロランは今度は自ら彼女の事を抱き寄せていた。


「だから――俺がキミに言ってほしい言葉は、こっちだよ。“これからは一緒に背負っていこう”って。“苦しみも悲しみも共有しよう”って。それでやっと俺は、前に進める気がするんだ」


「……ロラン」


 イルヴァはぎゅっとロランの胸にしがみ付いていた。


「本当に良いのよね? 私なんかで……。私は、なんにもできない弱いエルフなのに」


「良いんだよ、キミで」とロランは穏やかな声で答えていた。


「キミのおかげなんだよ。俺がここまで来ることができたのは。キミが居てくれたからこそ、今の俺があるんだ。俺のこの魂がここまで強くなれたのは、キミの魂の輝きがあったからこそなんだ」


「何を言っているの」とイルヴァは微笑んで首を横に振っていた。


「私こそ、あなたにどれだけ救われたことか。最初はね、あなたの事を腑抜け者と言っていたけれど……本当は違ったのよ。私なんかには眩しくて、純粋に見えて……。あなたの魂の輝きが、今の私を助けてくれた」


 それから、イルヴァの手がゆっくりと持ち上げらるようになる。


「だから、あなたは私の――」


 ロランもまた手を持ち上げると、イルヴァの手と手を重ね合わせていた。


「だから、キミは俺の――」


 二人の手が合わせられると、どちらからともなく指を絡め合わせるようにしてぎゅっと握り締めていた。


「《他に二つと無い、唯一の輝き》」


 声を重ねて言った後、二人はどちらからともなく顔を寄せ合うと、唇を重ねていた。

 そんな二人の重なり合う影を、ふわふわとたゆたいながらライトボールが照らし出す。

 そのまま、いつまでも二人は離れようとしなかった。

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