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17.蒼髪の嫌疑・下

 現場であるという町外れの森は、思いの外離れた場所にあった。

 鍛錬で普段通っていた場所と方向は同じだが、更に二時間ほど行った先の場所にあった。

 そこでは、一人のトサカ付きの兜を被った衛兵が腕組みをして地面の方を見下ろしていた。

 彼が見下ろす先には、上から布が被せられている人らしきものが伏せている。


「あれが死んでいたっていうジャン・コータスだね」

 クレハが言った。


 衛兵に手を引っ張られる形で歩み寄ると、草を踏む音に気付いた様子で、トサカ付きの衛兵が振り返ってきた。


「兵長」とロランの手を引いている衛兵が話し掛けた。


「うむ、ご苦……――」


 兵長は、最後まで言葉を言う前にロランの左右に居る二人の少女を見て、絶句していた。

 しばらくの間の後。


「す、すす、スカーレットデーヴァのクレハ・タチバナ?!」


 裏返った叫び声が上がった後、びし! と兵長はロランを指差してきた。


「アイアン・ティターニアは噂に聞いていたから諦めたのに! ななななんで貴様がスカーレットデーヴァまで!!」


 兵長の必死の形相に、ロランたち以前に衛兵までもあっ気に取られた表情を浮かべるようになっている。


「あ……あの? 兵長?」


 怪訝そうに声を掛ける衛兵を、兵長がキッと睨み付けた。


「まさか貴様! 知らんのか?! クレハちゃんを知らんのか?!」


「は……はあ。あの、俺、剣闘士には疎くて……」


「なんだと?!」


 兵長はもはやロランではなく、衛兵に怒りを向けていた。


「何故知らんのだ! 一般常識だぞ!」


「そ、そうですか……」


 めんどくせえ。と言いたいのを堪えながら、衛兵はコクコクと頷いていた。


「で……貴様があの、ラッキーソードのロラン・ノールドか」


 兵長は、今度はジロリとロランの方を睨み付けていた。

 ……怖え。と、ロランは思って、つい苦笑いを浮かべていた。


「は、はい。そうですが……」


 一応返事をすると、兵長はずかずかとロランに歩み寄ってきた。


「俺は貴様が嫌いだ!!」


 兵長はロランを指差すなり第一声、そう高らかに宣言していた。


「は……はあ」


 ポカンとするロランに向けて、兵長は拳を握り締めると熱く語り始めた。


「アイアン・ティターニアは至高だったのだ! 俺みたいな剣闘士マニアにとって、イルヴァちゃんは天使! いや女神! ゴッド! 二つ名は女王様だけど! そこらの異国の王族なんかよりも、よっぽど偉大な! そんな存在だったのだ! それが、それが……!」


 兵長の話の途中で、ついロランは食いつくようにして身を乗り出していた。


「わかります! イルヴァの戦いはすごいですよね! 真っ直ぐ正面から! 正々堂々と、圧倒的な力量で打ち負かす! 惚れ惚れしますよね!」


「おお、なんだ。話のわかる男じゃないか!」


 兵長とロランは、ガッチリと握手し合っていた。ここに男の友情が芽生えたのだ。


「……あのー二人とも? 本人目の前にしてそういう話はやめてくれない?」


 ボソ。と、若干引き気味でイルヴァがぼやいていた。

 それで、ハッとロランと兵長の二人は我に変えると、手を離していた。


「……オッホン。話を戻そう。とにかく、そういうことで、俺はアイアン・ティターニアの事は諦めることにして、クレハちゃんに乗り換えたのだ。それが、それが貴様は!」


 兵長は再び腹立たしくなってきた様子で、またも声を荒げるようになった。


「クレハちゃんにまで手を出すつもりか?! ルーキーのくせに! こんな男のどこが良いんだ?! なあ、イルヴァちゃん、クレハちゃん!」


 真剣な顔をして兵長に話を振られたため、イルヴァとクレハはそれぞれ反応していた。

 イルヴァは溜息をつき、クレハは苦笑いを浮かべるようになった。


「舞台に上る度胸も無い一般人のクセに何様のつもり?」


 容赦の欠片も無く面倒臭そうにそう吐き捨てたイルヴァに対して、クレハはというと。


「んー……まあ、可愛くてほっとけないトコロかな?」


 にこやかに、そんな風に答えていた。


「くそー! 羨ましい! 羨ましすぎるぞ! 牢屋にぶち込みたい!」


 兵長に再び睨まれて、ロランは大きく首を横に振っていた。


「そんな理由はあんまりです!」


「うるせえ! 投獄するぞ!」


 そう言い返した兵長に、「兵長、兵長」と声を掛けたのは衛兵だった。


「そろそろ仕事の話を……」


 ゴニョゴニョ言う衛兵を見て、「そうだったな」とやっと兵長は平静を取り戻していた。


 それから兵長は死体の方を振り返ると、ロランたちに背を向けたまま話し始めた。


「彼……ジャン・コータスの姿が見えなくなったのは、昨日の朝からだ。最後に目撃されたのは、修練のために町を出る姿だったようだ。そして遺体が発見されたのは、丸一日が経過した今朝。背中には剣で両断されたような切り傷が残されている……。ロラン・ノールド。貴様も剣士だったな?」


 兵長は振り返ると、ロランを睨み付けていた。


「そ、そうですが」


 ロランは困り果てていた。


「だからって、俺を疑われても困ります。大会中の今なら、俺以外にも剣士は幾らでも居るじゃないですか」


「確かにそうだが、貴様には疑われるような理由が存在する!」


 腕組みをしてキッパリ言った兵長に、「理由?」とロランは尋ねていた。


「そうだ!」と兵長は頷き、そして言った。


「それは、貴様が明日の対戦相手であるということ。それから、貴様がイルヴァちゃんをはべらせているということ!」


「いや! 後者は全然関係無いじゃないですか! 動機と無関係ですよ?!」


 慌てて言い返したロランを指差して、「俺が個人的にむかつくんだよ!」と兵長は断言していた。


「不条理だ!」


 ロランは思わず頭を抱えていた。


「まあ、俺の個人的な気分はさて置いて」


 ごほん。と咳払いの後、改めて兵長はロランに聞いていた。


「対戦者が舞台に現れなければ、不戦勝になるからな。戦わなくて済むのはさぞかし楽だろう?」


 ニヤニヤ笑う兵長にムッとしたのは、ロランではなくてイルヴァだった。


「ロランはそんな卑怯者じゃないわよ。その上腑抜け者だから、誰かを闇討ちするなんて真似できる筈が無いじゃない」


 すると兵長は面食らった様子になった。


「イルヴァちゃん! なんでこんなやつ庇うんだ!」


「か、庇ってなんていないわよ。私はただ、公正でなければ気が済まないだけ」


 少しだけ動揺した様子を見せながらも、イルヴァはそう言い返していた。

 それが気に食わなかったか、兵長はロランを睨み付けていた。


「ふん……貴様を疑う理由はこれだけじゃない。もう一つ、あるんだからな!」


「もう一つ? 一体なんですか」


 他の理由が思いつかなくて、ロランは聞いていた。

 すると兵長はロランを真っ直ぐ見て、こう言ったのだ。


「目撃者が居るんだ。……昨日の朝、ジャン・コータスの後に森へ出掛けていった剣闘士が居たそうだ。そいつは、蒼い髪をしていたらしい」


「……?!」


 ロランとイルヴァは驚いて目を合わせていた。

 まるで身に覚えが無かったからだ。大体、朝は外出するわけがない。


「昨日の朝なら、俺は外出すらしていませんよ」


 そう言ったロランに同意するようにイルヴァは頷いた。


「そうよ。ちゃんとロランは私と一緒に居たわよ」


「そうだよね」とクレハもまた頷いていた。


「二人はイチャイチャするのに忙しいもんね。今朝だって――」


「違うわよ!!」


 イルヴァは慌てて否定していた。


「け、今朝のは、たまたまだから! たまたま!」


「へーホント?」


 疑いの眼差しを向けるクレハに「ホントだって!」とイルヴァは耳の先まで真っ赤になりながら言う。

 そんな二人の姿を見て、兵長は崩れ落ちていた。


「な……なんてことだ……そんな……」


 ガックリと膝をついて真っ白になる兵長に代わって、衛兵がロランの腕を握る力を少しだけ強めながら聞いてきた。


「あー……兵長のことは気にしないでくれ。それで……昨日の朝は外出していないというのは、本当なのか?」


 じっと衛兵に見据えられ、ロランは頷いていた。


「本当です。大会でも無い限り、出掛けません。だって、俺とイルヴァにはある“習慣”がありまして」


「習慣?」


 聞き返した衛兵に、「はい」とロランは答えていた。


「朝はいつもチェスで遊んでるんです」


 堂々としたロランの言葉に「ぶっ」と噴き出したのはクレハだった。


「な、なに? あなたたち、チェスなんてやってるの?」


「なによ。悪い?」


 ムッとしたイルヴァに、「悪いというか……」とクレハは苦笑を浮かべた。


「全然イメージじゃなくて……。えーと。剣闘士だよね?」


「剣闘士である以前に私はエルフなの! 頭を使わないと思ったら大間違いなのよ!」


 そう言うイルヴァに対して、ロランは「あはは」と笑っていた。

「あの戦略じゃ、頭を使ってるようには見えないけどな」


「……なんですって?」


 イルヴァに睨まれて、ロランは慌てて口を噤んでいた。


「なるほど。では、昨日の朝は二人で外出せずにチェスをしていた、と」


 衛兵は冷静な態度で頷いていた。

 兵長よりもこちらの方がよほど聞く耳を持ってくれそうだ。


「ねえねえ、それよりもさ」


 クレハは衛兵に歩み寄ると、おもむろに話を切り出していた。


「そこの死体は見せてくれないの? 切り傷とか見たら、なにかわからないかな? ロランは私と同じ東方の剣術を使うの。だから、斬り方に特徴があるハズだから、見れば何かわかるかもしれないよ」


「それもそうよね」


 イルヴァは納得して頷いた後、衛兵に目を向けていた。


「見せてもらって良いかしら?」


 透き通った紺碧の瞳をじっと向けられるのは誰でも緊張するのか、衛兵はわずかに頬を赤くしていた。


「わ、わかった」


 それから衛兵はいまだに崩れ落ちたままでいる兵長の方を振り返って声を掛けていた。


「兵長。遺体を」


「…………」


「兵長!!」


 衛兵に大声で呼びかけられ、ハッと兵長は我に変えるとガバリと立ち上がっていた。


「決めた。貴様を投獄してやる!」


 びしっ! とロランは指差され、ギョッとしていた。


「なんでそうなるんですか!」


「投獄よりも先に、兵長。彼らに遺体の確認をさせてあげてください」


 淡々と衛兵に話しかけられ、兵長は頷いていた。


「良いだろう。ただし、絶対に遺体には触るなよ」


 そう言うなり兵長は遺体の方へ歩いていくと、掛けていた布を取り払っていた。

 それを見たとき、ロランとイルヴァとクレハの三人は目を見開いていた。


 そこにうつ伏せの形で倒れていたのは、灰色の肌をしたエルフ族……のような男だった。エルフ族のような、というのは、確かにエルフ族の特徴である尖った耳を持っているのだが、肌の色が灰色である上に筋肉質な体つきをしているせいだ。


「……ハーフエルフ」とイルヴァが呟いた。


 イルヴァの言う通り、彼はエルフとオーガ族のハーフなのだろう。両者の特徴が見て取れる外見をしている。

 剣闘士をやるだけあって、エルフ族らしい品性よりもオーガ族らしい肉体の屈強さが自慢なのか、上半身は裸で、下半身と腕部分だけ防具が付けられている。

 戦った痕跡があるようで、投げ出された右手には、メイスが掴んだままになっていた。

 クレハは遺体の傍へ歩み寄ると、背中の真ん中に深々と刻まれた切り傷を見て頷いていた。


「うん……これ、ロランじゃない。こんなの誰だってわかるじゃない。明らかに違うよ。だって、これ」


 クレハは背中の切り傷を指差していた。


「切り口が、炭化したみたいに真っ黒になってる。そもそも普通の剣で斬られたようには見えないよ。これは明らかに、魔剣のようなもので斬られてる」


「……なんですって?!」


 思いの外反応したのはイルヴァだった。

 イルヴァは遺体へ駆け寄ると、切り傷を自分の目で確かめた。そして改めて死体の様子を見て、すぐに確信したのだ。


「……――ジュードッ!!」


 イルヴァの口からその名前を聞くのは久しぶりだった。

 イルヴァはすぐに血相を変えてきびすを返すと走り出したので、ロランは慌てていた。


「イルヴァ、待て! 今のキミになにが出来るっていうんだ!」


 このままじゃまずいと思った。

 何しろ、イルヴァは武器も防具も何も身に付けていないのだ。そんな状態なら勝負を挑んだところで結果は見えている……!


「くそっ……!」


 ロランは衛兵の手を強引に振り払うと、イルヴァを追いかけるために走っていた。


「えっ。ろ、ロラン、待ってよ!」


 慌ててクレハも翼を広げるとロランの後を追いかける。


「おい貴様らっ、待たんか!!」


 慌てた様子で兵長もロランを追いかけることにした。


「お前、後を頼む!」


 衛兵に短く告げてから、兵長はロランを追いかけるために走っていた。





 イルヴァは森の中を駆けていた。

 やがてロランが彼女に追い付き、なんとか腕を捕まえていた。


「イルヴァ。待て!」


 強い口調でロランに言われ、イルヴァは足を止めたものの、ロランの手を振り払おうとして腕を上げていた。


「離してッ! 追わなくちゃ……!」


「どこに追いかけようっていうんだ! 殺されたのは昨日なんだぞ!」


 ロランに言われて、ようやくイルヴァは振り返っていた。


「それでも追いかけなくちゃ! まだ近くに居るかもしれないのよ?!」


 イルヴァはロランを睨み付けたが、ロランも負けじとイルヴァを睨み返していた。


「少しは冷静になれよ! 見つけたとして、武器も無い鎧も無いでどうする気なんだ!」


「ッ……」


 それでイルヴァはやっと現状に気付いて、歯噛みしていた。


「でも……私ッ……」


 泣きそうな表情になって俯くイルヴァの腕を掴んだまま、ロランは言っていた。


「良いから……落ち着くんだ。取り乱しちゃ相手の思う壺だろ?」


「…………」


 黙り込むようになったイルヴァの元に、追い掛けてきたクレハが空から降りてきた。

 そのすぐ後に、兵長もまた追いついてきた。


「はぁ、はぁ。すばしこいやつらめ。まだ嫌疑は晴れてないんだぞ!」


 そう言った兵長に言い返したのはクレハだった。


「だからロランじゃないって言ったでしょ?! ロランの持っている剣じゃ、あんな風に真っ黒な傷跡にはならないよ!」


「ふ、ふむ……」


 戸惑う兵長の目はクレハに向けられた後、イルヴァの方へ向けられた。

 イルヴァはずっと俯いて黙り込んだまま、拳をギリギリと握り締めていた。

 彼女の様子がただ事では無い事が誰にでも見て取れたからだ。

 クレハはロランの方へ歩み寄っていた。


「ロラン……イルヴァはどうしちゃったの?」


「あ、ああ……」


 ロランはクレハの方を振り返った後、口を噤んでから、まるでイルヴァを隠すようにして立ち塞がった。

 咄嗟に思ってしまったのだ。今のイルヴァに誰にも触れてほしくないと。


「大丈夫、なんでもない。後でまた……。兵長さん、もう帰って良いですか?」


 ロランに問い掛けられ、兵長はムッとしたものの頷いていた。


「仕方ない……貴様の剣によるものではないと言うなら、いつまでも拘束してもどうにもならんか……。どうも、アリバイもあるようだしな……」


「……すみません」


 ロランは頭を下げていた。


「まあ、気に食わんがな!」


 兵長はそう言い足していた。


 ロランはそれに対して何も返さないまま、他人の目から隠すかのようにイルヴァの肩を抱くと背を向けていた。

 小声で、「帰ろう」とイルヴァに耳打ちをした。


 イルヴァは何も返事らしい返事をしなかったが、ロランに従っていた。


「…………」


 クレハは無言になって二人を見送っていた。

 やがて見えなくなる頃に、険しい表情になって「……ふうん、そういうことか」と呟いていた。





 宿の部屋に戻ってやっと、イルヴァは口を開いていた。


「……ありがとう」


 小声でイルヴァが言ったのはそれだった。


「私のこと……誰にも言わないでいてくれて、ありがとう」


 そう言った後、イルヴァはふらふらと窓の方へ行って、ロランと目を合わせないまま、ぼんやり窓の外を眺めるようになった。


「もう大丈夫か?」


 ロランが声を掛けると、イルヴァは小さく頷いた。


「うん……少しだけ、冷静になったわ。今も腸が煮えくり返りそうだけれど……」


 ぎゅっ。とイルヴァは拳を握り締めていた。


「確かに、あなたの言う通りよ。どうしようもない……。でも……」


 イルヴァは振り返ると、ロランに目を向けてきた。

 まるで沼の底へ沈み込んだかのように、暗く淀んだ眼差しをしていた。


「……止めないでほしい。鎧を着て武器を持ったら、私は行くから。何を言われても良い。誰に何て思われたって良い。このままジッとしているぐらいなら、死んだほうがマシよ!」


「イルヴァ」


 ロランは厳しい目をすると、足早にイルヴァの方へ歩み寄っていた。


「それでも行っちゃダメだ」


「どうして?」


 イルヴァの疑問に、ロランは答えていた。


「だって、キミは――まるで死を覚悟したかのような顔をしているじゃないか……!」


「っ……――」


 イルヴァは驚いて息を飲んだが、それも刹那の事だった。

 ロランをキッと鋭く睨み付けると、ハッキリ言ったのだ。


「それがどうしたっていうの……私はこの日をずっと待っていたのよ! ずっと、ずっと……! 行かせて! そうでなければ、これまで生きてきた意味が無い……!」


「イルヴァ!」


 ロランは強い口調になると、イルヴァの腕をグッと掴んでいた。


「俺はキミの主人だ。慣例を無視する気か?!」


「慣例ですって? なにを今更。そんなもの気にした事なんて無いクセに!」


「ああ、気にしなかったよ。でも今は気にする。行くな、イルヴァ。これは命令だ!」


 ロランの鋼色の瞳が真っ直ぐにイルヴァの目を見据える。

 イルヴァは一瞬言葉を失くしたが、すぐに腹が立ってきた。


「あなたは、相変わらず偽善者ね……!」


 イルヴァはロランの手を振り解こうとして腕を持ち上げていた。


「この手を離しなさいよッ……大体、今更何なの?! これまで慣例を守らせようとしなかったクセに!」


「ああ、そうだよ! けれど今は無理矢理でも守ってもらう!」


「それなら、私だって無理矢理でも行かせてもらうから!」


 言うが否や、イルヴァの紋様が輝きを放ち始める。


「っ……――この、分からず屋……!!」


 カッとなって、ロランは咄嗟に手を出していた。

 ゴッ。と、鈍い音と共に、ロランの拳がイルヴァの顎の下を掠めるように叩き込まれる。


「な――んで……ロ……ラ……」


 イルヴァはあ然とした表情と共に、意識を手放したようでガックリとロランの方へ倒れこんできた。

 それと共に輝き始めていた紋様の輝きが、すうっと消えていくのを、腕に抱き止めながらロランは見つめていた。


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