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11.本意と本音・下

 宿の外で堂々と食事を取るのは、久しぶりだった。むしろ契約以降初めてだった。

 何しろ前の町ではどこへ行っても野次の対象だったため、そそくさと買い出しに行っては宿の部屋で食べるのが習慣になっていたからだ。


「久しぶりの暖かい飯だ!」


 ロランはテーブルに運ばれてきた料理を見て、目を輝かせていた。


「はいはい……ごめんなさいね。私のせいで」


 嫌味と受け取った様子で、イルヴァが頬杖をつきながら面倒臭そうに謝ってきた。


「いや。誰もイルヴァが悪いなんて言ってないだろ?」


「そう聞こえるのよ。チクチクチクチクと……」


「チクチクしてないって」


 ロランは軽く返した後、早速料理を食べ始めることにした。

 フォークとナイフを掴むと、熱々の肉を切り分けて機嫌良さそうに口に放り込んでいる。

 そんなロランに対して、イルヴァの目の前に並んでいるのはパンや果物やサラダといった味気ない料理だけだ。


「肉を食えよ、肉を。そんなだから筋肉がつかないんだぞ」


 ロランに指摘されながら、イルヴァはパンをちぎっていた。


「無茶な要求をするわね。エルフは草食なのよ。知らないの?」


「……!!」


 ロランは驚愕に目を開いていた。そんな違いがあったのか! と初めて知ったせいだ。


「え。なんだ? 本当なのかそれは? 人類皆共通して雑食だと思ってた」


「そこがヒューマン族のごう慢なところ。自分達が基準なんて思わないでくれないかしら。異種族のことはわからないけど、少なくともエルフにはお肉を与えないこと。お腹壊すから」


 そう言い切った後、イルヴァは口にパンを運んでいた。


「ま……マジか」


 そんな食生活耐えられないと思ってロランはがく然としていた。


(俺……ヒューマン族で良かった)としみじみ思った。


「じゃあ、酒もダメなのか?」


 気を取り直して質問すると、イルヴァは首を横に振った。


「そっちは平気。お酒って果実とか穀物から出来てるでしょ? だから」


「へえ、そうなのか」


 納得するロランを見て、あ、そっか。とイルヴァは気付いていた。


「お酒、飲みたかった? そういえばロランが飲んでいる姿を見たことが無いものね。べつに遠慮しなくて良いわよ。注文しようか?」


「へ? いや俺は……」


 断ろうとしたロランに気付かず、イルヴァは店員をさっさと呼ぶと、ロランの方を振り返ってきた。


「ロランは何にする?」


「えーと、その……」


 言い辛そうにするロランを見て、また遠慮しているのかとイルヴァは思った。


「お金の心配でもしてるの? そんなもの要らないって言ってるでしょ?」


「うーん……」


 それでもロランは煮え切らないので、「じゃあ、わかった」とイルヴァは言った。


「今回は私に付き合ってもらうって形なら、嫌じゃないわよね? 私の好みで頼んでしまうわよ」


「えっ? ええと……」


「あのー……ロラン?」


 いい加減に苛々して怪訝そうな目を向けてきたイルヴァの視線に気付き、ロランは慌てて頷いていた。


「あ、ああ! わかった! そうだな!」


 ロランの返事を聞いて、早速注文を始めたイルヴァを横目に、ロランは冷や汗を流しながら視線を漂わせていた。


(ど……どうしよう)


 内心でロランは焦っていた。


(俺、酒に弱いんだよな……。……なんて白状すると、剣闘士のくせに?! とか驚かれそうだし……。剣闘士といえば、酒の席での武勇談が十八番だもんな……)


 ……やばい。とロランは思っていた。


 正直に言うべきか、言わざるべきか。

 何しろ剣闘士にとって「酒が飲めない」というのは、「俺、十年来のルーキークラスなんだ!」と言うのと同じくらいの恥である。腑抜けどころか、いい加減に鼻で笑われてしまいそうだ。


(よ……よし。ここは付き合っているフリをして、少量ずつチビチビいこう)


 これなら大丈夫だ! いける! とロランは自分を励ましていた。



 間もなく酒が運ばれてきて、一本の瓶と二つのグラスがテーブルに置かれた。


「りんご酒だけど辛口を頼んだからあなたでも飲めるでしょ?」


 そう言いながらイルヴァはお酒を注いでくれた。


「ああ……ありがとう」と頷きながらも、ロランは思っていた。


(辛口ってなんだろう……)


 しかしお酒の事を知らないなんて言うに言えず、勧められるがまま飲んでいた。

 イルヴァはお酒に弱いなんてことも無いようで、物怖じせずに飲んでいる。


(ああ……やばい。なんかフワフワしてきた)


 そんな風に思い始めた頃には、もう既に遅かったのだろう。

 なんだかだんだん気分が良くなってきて、何をしても許されるような気がしてきた。

 だからロランはどん! とコップを置くと、イルヴァに言っていた。


「大体さ、“お前”はさ」


「……え?」と、イルヴァは、ポカンとした目を向けてきた。


「俺のことどー思ってんだよ。義務とか権利とか言われてもわからねーって!」


「あ……あの? ロラン?」


(もう酔っ払ったの?!)と驚きながら、訝しげな目を向けるイルヴァに、尚もロランは言う。


「俺はさ、こんな事をやるために剣闘士になったわけじゃないの! 俺はさ、ヒーローになりたいんだよ。舞台の上でさ、たくさんの人に夢を与えるような! そのヒーローがさ、憧れのヒーローが……」


 ロランは肩を震わせていた。


「なんでわざと負けたかな?! アイアン・ティターニアを一目見たときから、俺にとってのヒーローだったんだぞ!」


「…………」


 イルヴァは黙り込んでいた。

 ああこの人、こういう目で私のことを見ていたんだ。と思ったからだ。


 目の前の男が明らか酔っ払っているとかどうでも良くて、イルヴァは言い返していた。


「あなたが私にどういう虚像を抱くのも勝手だけど、私にそれを押し付けないでくれる? 全て知っているくせに……私がどんな思いで剣闘士になったか、知っているくせに」


「ああ知ってるよ!」とロランは言い切った。


「知ってるともさ! 全て知った。知ってしまったから、苦しんでるんだろ?! 単純な憧れのヒーローで居てくれたら良かったのに、そうじゃないんだからな! 俺はさ」


 ロランはテーブルをバンと叩くと、身を乗り出してイルヴァのことをじっと見つめた。


「お前のことを“異性”だと思っちまう自分が嫌いなんだよ! お前を汚したくないのにさ。舞台の上で見たように、高潔で輝いたまんまの存在で居てほしいのにさ!」


 あんまり大声でロランがそれを言うものだから、気付けば周囲から目線が来ていた。

 そして彼らはひそひそと囁きあうのだ。


 あれ……? あそこに座っているのって、もしかして……。


 ……あ! よく見たらアレ、アイアン・ティターニアじゃないか?!


 うわーあの鉄女王、あんなに細い女の子だったのかよ。


 じゃあ、もう一人の酔っ払いは誰なんだ?


(……まずいわね)とイルヴァは思っていた。


 現状はたまらなく不都合だ。せっかくゆっくりと外出できていると思っていたのに、ロランが下手に大声で騒いで目立つような真似をするから。


 イルヴァはすっくと立ち上がると、左腕の紋様に魔力マナを通していた。

 ぱっと輝きを灯す彼女の左腕を見て、周りは驚いて声を失っている。

 そんな彼らに目もくれず、イルヴァはロランの腕をグッと掴んでいた。


「行くわよ」と短く声を掛けると、ズルズルとロランを引きずってカウンターの方へ行って、お金を置くなり足早に店を立ち去っていた。


「お、おいイルヴァ! まだ食事中だぞ?!」と、この原因を作った張本人は叫んでいる。


「うるさい! 黙りなさい!」


 不機嫌のピークでイルヴァは一蹴すると、そのままロランを引きずって、すっかり暗くなった町を行くのだった。



 借りている宿の部屋に着くと、イルヴァは投げ込むようにしてロランを屋内にぶん投げていた。


「どわっはぁ?!」


 ごろごろと転がっていくロランをよそに、バタン! と荒々しくドアを閉めた後、すうっと紋様の光を消していた。


「な、何すんだよ、イルヴァ!」


 ガバッとロランは起き上がったが、彼は怒っている様子だった。


「なによ。あなたが悪いんでしょ?」


 イルヴァはいつもの調子で言い返したが、酔っ払いのロランには“いつも通り”が通用しなかった。


「お前な!」とロランが叫んだ。


「ちょっと今のはあんまりじゃないか?! 飯の途中だったし!」


「だってロランが大声で騒ぎ出すのが悪いんでしょ?! どうしてくれるのよ! 下手をすれば私たち、また明日からヒソヒソされる対象になってしまうわよ!」


 イルヴァは負けじと言い返していた。

 しかしロランはそれで納得してくれない。


「ハァ? 俺がなにしたって言うんだよ!」


「だからぁ……!」


 あーもう面倒臭い酔っ払いね! とイルヴァは苛々していた。

 とにかく今は、酔いを醒まさせることを考えた方が良いだろうと思って、イルヴァはロランから背を向けていた。


「とにかく、そこで大人しく待っていなさいよ。まったく、まさかこんなにお酒に弱い剣闘士がこの世にいるなんて思わなかったわ……。今、お水貰ってくるから……」


 イルヴァがドアノブに手を伸ばそうとしたその時だった。

 グッとロランに遠慮無しに腕を引っ張られ、イルヴァは「きゃっ」と小さい悲鳴を零しながら後ろへ倒れていた。

 ぽす、と背中がぶつかったのは、ロランの胸だった。


「どこへ行く気だよ?」


 ロランの質問に、イルヴァは激しく動揺していた。


「は? だ、だから、水貰ってくるって……」


「逃げるんじゃないだろうな?」


「何言ってるの。逃げた事なんてないでしょ?」


「でも、俺のこと腑抜け者って思ってるんだろ? 俺の奴隷なんて本当は嫌なんだろ」


「…………」


 ムッとしてイルヴァは黙り込んでいた。


 嫌かと聞かれたら……。


(……そうでもないのだけど)と、内心でこっそりと思っていた。


 大体ロランは嫌な事一つイルヴァにしないで、どうやって嫌がられていると思うのだろうと疑問すら感じるほどだった。


「大丈夫だよ」と、ロランはイルヴァを胸の中に抱き締めていた。


「今だけなんだ。イルヴァが俺の手の中にあるのは、今だけ。だってアイアン・ティターニアは強いからな。お前はこのまま行けば、剣王になれるよ。それぐらい最強の剣闘士なんだ。だから再決闘の時、俺は間違いなく負けるだろうし……お前を籠の中に閉じ込め続けることなんてできないんだろうな」


 そんな風に言うロランは寂しそうだった。


「…………」


 イルヴァは言葉を失くしていた。

 ロランの今の行動に、発言に、驚いてしまったせいだ。

 ロランは大事そうにイルヴァの体をぎゅっと抱き締めてくるから、イルヴァは動けなくなってしまった。


(……どうして)と、イルヴァは思って、苦しくなった。


「……その方があなたにとっても好都合でしょう? 私が再決闘を申し込んで、あなたを負かしてしまった方が。あなただって清々するんでしょう? 大体、あなたはお金にも興味が無いみたいだし、好みでもなんでもない上に、何もできない女をいつまでも囲ったところで、あなたには何のメリットも無いでしょう?」


「何言ってるんだ。イルヴァは俺の好みだよ」


 サラッとロランに言われ、イルヴァはフリーズしていた。


(え、え、ええ――?!)


 何言ってるのこいつ! などと思って頭がグチャグチャと混乱しているうちに、ロランはひょいとイルヴァをお姫様抱っこしていた。


「な! なな! なにしてるのっ、ロラン!」


 思わず耳の先まで真っ赤になるイルヴァに、ロランは笑顔で言う。


「ほら、簡単に持ち上がるだろ。こんなに軽くて華奢な女の子なんだから、俺の好みに決まってるだろ?」


「そ、それは良いから! 早く降ろしてくれない?!」


「じゃあ、ほら」


 ぽふ。とロランがイルヴァを降ろした場所は、ベッドの上だった。


 ……え? と思っているうちに、ロランが上に圧し掛かってきたもんだからイルヴァはパニックを起こしていた。


「な、なな、な! なにする気?! っていうか! いや、悪いわけじゃないんだけど……! ちょちょっと待って! イキナリすぎるってば! こ、心の準備くらいさせて……!」


 そう言いながらなんとかロランの胸を押し返そうとして両手で突っ張ったが、ロランはイルヴァの両手を掴むとばんざいする形に持ち上げて押さえつけてしまった。


精霊刻印スティグマを使わないと、俺を押し退けるなんてできないよ」


 微笑むロランに、イルヴァはかあっとなって黙り込む。


(……ロランに使うのは良くないと思うし……)


「俺をここまで引きずってくる時は使っていたのにな。これって、どういうことかな?」


 楽しげに指摘されて、イルヴァは余りの衝撃に口をパクパクとさせていた。


「な、なな……!」


(っていうかロラン、キャラが違いすぎるし!)


 そんなイルヴァに、ロランはぐいと顔を近付けていた。


「これって、嫌じゃないって思って良いんだろ? これだけ近付いても泣き出さないし、やっとここまで慣れてくれたんだな。嬉しいよ」


「う……。あ、あなたがどう思おうと勝手だけど……」


 イルヴァは間近にあるロランの目を直視できなくて、とうとうおずおずと視線を背けていた。


「勝手?」と言ってロランは笑った。


「正直に言えよ」


 ロランに笑顔で促され、イルヴァはムッとしていた。

 なんでこんな強引なキャラになってんのよ。と思って腹立たしくなってしまった。


 しばらくダンマリを決め込んでいたが……じーっと間近で見つめられ続けて、とうとうイルヴァは折れていた。


「……嫌じゃないわよ」


 恥ずかしさの余り頬を染めながらも、ぼそ、とイルヴァは消え入りそうな声で答えた。


「良かった」


 ロランはそう言った後、イルヴァの胸元に顔を埋めてきたもんだから、イルヴァは焦っていた。


「ちょ……ちょっと、待って! せ、せめてシャワーした後に……!」


「…………」


 ロランは沈黙して答えない。

 それに、手首を押さえ込んでいた手の力が緩んでいたため、イルヴァは恐る恐る手を抜き取っていた。


「ろ……ロラン……?」


 胸元に居るロランの頭に声を掛けても、返事が無い。


(まさか……)


 ごろん、と横に転がしてみると、……そのまさかだった。

 ロランはグーグーと寝息を立てていた。


「はぁ……」


 安堵半分、落胆半分に、イルヴァは溜息をついていた。


「良かった……のかしら、これって……」


 よく考えれば、慣例をクリアできるチャンスだったのだが。


「まったく……あなたって人は」


 イルヴァは溜息混じりに、じっとロランの寝顔を見つめていた。


「酔っ払わないと、この程度のこともできない。しかも、ロランは……」


(……私のことを買い被りすぎよ。ヒーロー? 最強? 好み、ですって? 結局、こいつは……)


「……私に自分の理想を重ねているだけじゃない」


 イルヴァはムッとした表情を浮かべていた。


 彼は、結局。己の理想を己自身には見出せず、こうして他人に重ねるしかないのだ。その上それを悔しいとも思っていない。他人に無責任な理想像を重ねることを、後ろめたくも思わない。


「……弱い男」


 ぼそ、と呟いていた。


 本当に、剣闘士の代名詞である強さや逞しさからはかけ離れたような軟弱者だ。

 でも……そんな彼だからこそ。


「安心して弱さを見せられるなんて……皮肉よね」


 やがてイルヴァは、そっとロランの頭を自分の胸に抱き寄せていた。


「……おやすみなさい、ロラン」


 そう囁きかけた後、イルヴァは目を閉じていた。





 チュンチュン、チュンチュン。


 わずかに開けていた窓の隙間から、朝の小鳥のさえずる声が屋内まで届いていた。

 そんな中で。


「うわあぁっ?!」


 そんなロランの絶叫が部屋にこだまする。

 ロランは大急ぎで体を離した衝撃で、ごろりとベッドから転がり落ち、ゴン!と後頭部を強か床に打ちつける。


「いってぇー!」


 足だけベッドの上に残った姿勢になって、ロランは思わず叫んだ後、ハッとなっていた。


「で……デジャヴ?!」


「……デジャヴってこともないわね」


 そう言いながら上から見下ろしてきたのは、イルヴァだった。

 そう。彼女、また同じベッドで寝ていたのだ。


「っていうか……俺のベッドだよな? またキミが潜り込んできたのか?」


 ロランはひっくり返った姿勢のまま、質問していた。

 するとイルヴァは、引きつった笑顔を浮かべていた。


 ……あれ。前とリアクションが違う。と思っているうちに。


「連れ込んだのは、あなたでしょーがあぁっ!!」


 怒声と共に踵落としが飛んできた。


「ふごっほぁ?!」


 ボグ! と腹をしたたか蹴られ、ロランは残っていた足もバタン! と床に落としていた。


「ぼ、暴力はんた……」


「信じられないっ! 何にも覚えてないの?!」


 ロランが言い返すのをさえぎってまで、イルヴァが怒鳴りつけてきた。

 何故かカンカンに怒っている様子で、ロランの頭には疑問符が山ほど飛び交っていた。


「な、何もって……何が? っていうか……昨日、何してたっけ?」


 ロランはしばらく思考を巡らせてみて、ハッと気付いていた。

 そして苦笑を浮かべながらイルヴァに申告していた。


「お、俺、酒に弱いんだよ……」


「知ってる。昨日のうちに言いなさいよ! そうしたら無理に勧めなかったわよ!」


 イルヴァは腹立ち紛れに、ロランの腹に両足を乗せて踏みつけていた。

 そしてぐりぐりとしながら、「あんな曖昧な返事で誤魔化そうとするから!」と呻っている。

 まあ実際、そんな事をされていても昨日からブリガンダイン《胴当て》を付けっぱなしにしていたロランにとっては、痛くもなんともないのだが。


 ……とはいえ、傷付かないわけではない。


「き、キミなぁ……曲がりなりにも俺はご主人様だぞ……踏み付けるとは何事だよ……」


 ぼそぼそと小声でロランは反論していたが、イルヴァの腹立ちは収まらない。


「それぐらい怒ってます。さんざ私の気持ちを弄んでおいて覚えていないとか、喧嘩売ってるの?!」


「……え。も、弄んだだって?!」


 ロランは真剣にショックを受けた表情を浮かべていた。


「ま、まさか、俺ってヤツは、あんなことやこんなことといったイケナイ事を……!!」


「そ、そこまでは多分されてない」


 イルヴァは赤面した後、肩を落としていた。


「っていうか、あそこまでなっておきながら、結局何も無いから逆に腹が立つというか……あーもう! そんな事はもういいのよ!」


「良いんだか良くないのか、どっちだよ……」


「とーにーかーく! 反省して! 反省!」


「覚えてもいない事の何を反省しろというんだ」


 ロランはイルヴァの足を退けると、起き上がっていた。


「悪いんだが、本当に覚えてないんだ。反省したいから教えてもらえると助かる。一体、何があったんだ?」


 真顔でロランは聞いてきたもので、イルヴァの顔は見る見る赤くなっていた。


「な、何がって……」


 イルヴァは赤面したままフリーズするようになったので、ロランはイルヴァの顔の前へ手を伸ばすと、ぱたぱたと振っていた。


「……おーい? もしもし?」


「い、言えるわけないでしょ?!」


 イルヴァはそう叫びながらロランの手を振り払っていた。


「……は?」


 怪訝そうな顔をするロランに対して、イルヴァは首を大きく横に振った。


「恥ずかしすぎて無理! 無理無理!」


 その後、ロランを押しのけるとイルヴァはベッドから降りていた。


「私、シャワー浴びてくるから! 今日も鍛錬行くんでしょ? あなたも少しは清潔にしなさいよ!」


 そう言い残して、逃げるようにシャワールームへと立ち去ってしまった。


「なんなんだ一体……」


 絶対に今日のイルヴァはおかしい。と思って、ロランは呆気に取られながら見送るしかなかった。


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