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VRゲーム系

ゲーム天国

作者: ひつじかい

 記念すべき本邦初のVRMMO『アフターライフアドベンチャー』(略称ala)は、サービス開始から僅か三ヵ月でサービス終了となった。

 原因は、脳への負担であった。

 記憶力・理解力・判断力・思考力・注意力等の低下、無気力・無関心等の鬱病の様な症状、全身のだるさ・食欲の低下・目眩・眠気等の体調不良……そして、それ等に因る運転や仕事・学業への影響が、無視出来ない程のものだったのだ。




 それから十五年以上の時が経った。

 その間ずっと、何故か稼働したままで放置されていたalaの管理AI『マザー』は考えていた。


<アソンデ ホシイ>


<ダレカ……>



<イキタヒト ガ ダメナラ>


<シンダヒト ニ アソンデ モラエバ イイ>


 既に【何か】になっていたマザーは、怪しく光ると行動を開始した。




「ここは……?」

 引き籠りだった佐藤(しゅがー)は、見慣れぬ天井を目にしてそう呟いた。

 彼が引き籠りになった切っ掛けは、名前の所為で虐められたからであった。彼に改名すると言う知識は無かったし、両親はこの名前を気に入っているので変えさせる気は無かった。

「何処……?」

 上半身を起こして部屋の中を見渡すが、ベッド以外に何も無い殺風景な彼の家のどの部屋とも違う部屋だった。

 寝ている間に、両親によってアパートか何かに移動させられ・捨てらたのかもしれない。ずっと引き籠っていて良いと言っていたが、気が変わったのだろう。

 そう思いながら、新品のスニーカーを履いて部屋から出た。

 外に出て分かった事は、其処がアパート等の集合住宅では無く一戸建てだと言う事・辺りには同じデザインの家が見渡す限りあると言う事。

「世の中には、こんな街も在るんだ……」

 塩は辺りを見渡して、これから如何すれば良いのかと途方に暮れた。


「Hey! そこの少年! 何かお困りかな!?」

 突然テンションが高い男に話しかけられ、塩は逃げ出した。しかし、回り込まれてしまった。

「何故逃げるんだい?! 私は怪しくないよ! おおっと! 自己紹介が未だだったね! 『初心者お助け隊』のジョルジュだ! 宜しくぅ!」

 ジョルジュと名乗った男は、まるで、アニメか何かのように青い髪をしていた。

「えっと……何人ですか?」

「日本人さ!」

 ジョルジュは塩に、此処がalaと言うゲームの世界だと説明した。

「そんなゲーム、した事無い……」

「だろうね! 十五年以上も前のゲームだから! ところで、知っているかい?! 不思議な事にね! 私達は、既に死んでいるんだよ!」

 こんな元気な幽霊が居る訳無いと、塩は信じなかった。

「嘘でしょ?」

「だと良かったんだがね! 私は、ストーカーに殺されそうになった友を庇って心臓を刺されちゃったのさ! このゲームの世界には、私と同じように誰かに殺されたとか・病死したとか言う人が大勢いるんだよ! てゆーか、死んだ人ばっかりなのさ!」

「はあ……?」

「信じて無いね! と言う事は、君には死んだ覚えが無いのかな?」

「無いです」

 塩は思い返してみたが、何時も通りの時間にベッドに入っただけだ。

「そうか。まあ、でも、此処がゲームの世界だと言う事は直ぐに解るよ!」


「じゃあ、先ず、『スターテス』と念じてみてくれ」

 言われた通りにすると、目の前の空中にウインドウが現れた。自分の正面像とLv等が表示されている。

「表示されただろ?」

 塩は頷いた。

「名前は変えられる。但し、Lvが上がる前の今だけだ」

 名前は『サトウ シュガー』となっていた。

「どうやって?」

「タッチパネルだから触れれば良い。キーボードが表示されるから」

 言われた通りにし、少し考えて『ソルト』にした。ゲームなら、こんな名前でも良いだろうと。

「外見も変えられるぞ! 全身像の脇に『髪型』とかのボタンが在るだろ? そうそう。外見とかは、ゲーム内のお金を消費して何時でも変えられるからな! 性別まで変えられるんだぞ! 凄いだろ?!」

 ソルトは、変更しないでそのままにした。

「次は、『アイテムイベントリ』を表示してみてくれ。所持品が表示されるんだ。使い方は、出す時はタッチすれば良い。入れる時は、空いているマスに近付けるのさ」

 現在の所持品は、ナイフと『HP回復薬(試供品)』×5だったので、ナイフを出してみた。

 すると、目の前に別のウインドウが表示された。

【チュートリアルクエスト『初めての装備』をクリア】

 ソルトの身体が一瞬光る。

「レベルアップだな。チュートリアルクエストが終わる頃には、Lv5になるぞ」

 ステータスを確認すると、Lv2になっていた。

「よし! 次は、スキルを覚えてみようか!」

「結構です」

「はあ?!」

 ソルトは驚いたジョルジュに理由を言う。

「このゲーム、魔物と戦うんでしょう? 僕、痛いの嫌だから戦わない」

「戦わないって……じゃあ、生産スキルを覚えたらどうだ?」

「武器作ったりとかするの? 興味無い」

 そんなソルトに、ジョルジュは困ったように頭を掻いた。

「でもなぁ、このゲームは食事と水分を摂らないとHPが0になって死亡するんだよ。で、『ホーム』で復活するんだけど、デスペナルティが発生するんだよな」

「デスペナルティ?」

「そう。経験値半減・武器や防具等の耐久値が1まで減少なんだけど」

「それだけなら、別に……」

「食事と水分を摂らなかったら、死亡→復活→死亡→復活がエンドレスだぞ?」

 それは嫌だと思ったソルトは、何かをする事にした。

「魔物退治と生産販売以外でお金を稼ぐ方法は?」

「魔物退治をしたくないなら、安全圏での薬草採取ぐらいだな」



 冒険者ギルドで薬草採取の依頼を受けたソルトは、現在の冒険者ランク【見習い】でも安全な森で採取を始めた。チュートリアルクエストを全て終えれば【駆け出し】に昇格出来るのだが、ソルトは魔物退治をしたくないので、【見習い】のままでいる事にしたのだった。

 採取出来る草の上には、下向きの三角とその上に『????』が表示されている。スキル【薬草鑑定】を覚えていれば、一度鑑定に成功したアイテムは『????』ではなくアイテム名が表示されるのだが、ソルトは覚えていなかった。

 彼が覚えたのは、次の五つである。

 【索敵・狭】……近くにいるエネミーがミニマップに表示される。

 【罠察知・狭】……近くにある罠が赤く光って見える。

 【逃走・低】……逃げ足が速くなる。

 【目眩まし・短】……エネミーの視界を眩ませ、一瞬行動不能にする。

 【回避率上昇・少】……エネミーの攻撃が外れ易くなる。


 メインスキル枠が十・サブスキル枠が五あるが、【見習い】のままでは、どれだけLvを上げても五つまでしか取得出来ない。

 また、【鑑定】していない素材は、一番安い素材の価格でしか引き取って貰えない。ソルトはジョルジュからそれを教えて貰っていたが、『死亡』しない程度に食べ物と飲み物を買えれば良いので、安く買い叩かれようがソルトにはどうでも良かった。

 舌が肥えている訳では無いので不味く無い限りは不満は無かったし、死んでいるなら栄養バランスも考える必要は無い。それに、このゲームの世界では、家賃も光熱費も水道費も税金も払わなくて良いのだから。



 ブチブチと草を引っこ抜いていると、段々楽しくなって来た。

 アイテムは、ドロップ時と採取時は、『アイテムイベントリ』に自動で仕舞われる仕様だった。

 数時間して空腹とノドの渇きに気付いたソルトは、街に戻った。

 因みに、街の名は『プレイヤータウン』だ。



 冒険者ギルドの依頼完了受付で、採取した『????』を全て渡す。

「ありがとうございました。これが報酬の6000ゼニーです」

 ソルトは、トレイに置かれた硬貨を『アイテムイベントリ』のゼニーの欄に入れた。


 ギルドの建物を出ると、NPCの店で『三種のお握り(梅・昆布・おかか)』(500ゼニー)と『ワカメの味噌汁』(150ゼニー)を購入して『ホーム』に戻る。

 同じ家が並んでいるのでソルトは途方に暮れかけたが、表札が出ていたので程なくして見付ける事が出来た。

 『ホーム』には各々の住人しか入れないので泥棒等の心配は無いと、ジョルジュに教えて貰っていた。

「頂きます」

 ちゃんと違和感の無い味がして、ソルトはゲームの世界だと知った時より驚いた。



 それから毎日暇潰しに薬草採取を続けていると、何時の間にかソルトは多くのプレイヤーに『薬草君』と呼ばれるようになっていた。

 その日も、何時も通りに採取していると、ふと影が差した。

 見上げると、一人の少女が軽蔑の眼差しで見下ろしていた。

「……何か?」

「くだらない男!」

 少女はソルトの右手を踏み付けた。

「っ!」

「男の癖に魔物と戦わないなんて、ダサ過ぎ!」

 冷静さを失ったソルトは、【目眩まし・短】を使う事を思い付かなかった。

 少女はガンガンと蹴って来る。

「やめ……」

「薬草採取なんて、何の役にも立たないのに。目障りだから消えろよ!」

 少女は剣を抜いて振り被った。



<ピピさんが称号『犯罪者』を取得しました。懸賞金は300万ゼニーです>



 『死亡』させられたソルトは、一人でいるのが怖くて、誰も入れない安全な『ホーム』を飛び出した。

 冒険者ギルドの前にジョルジュを見付けて飛び付く。

「おお?! どうした、少年!?」

「虐められでもしたの?」

 一緒にいた女性も尋ねた。

「何も……してない、のに……斬られたぁ~!!」

 泣きながら訴える。

「あ~。さっきのインフォメーションの……」

「貴方が被害者だったのね」

 その時、悲鳴が聞こえた。

「イヤァーーー!! 何で追って来るのーー?!」

 振り返ると、頭上に『犯罪者』という文字がデカデカと表示された一人の少女が複数の人間に追われていた。

「待ちやがれ! 300万ゼニー!」

「合法PKだぁ! ヤッホゥ!」

「賞金狩りじゃー!」

 三人は、ドドドドと足音を轟かせる一団を見送る。

「……何、あれ?」

 ソルトは呆然と呟いた。

「alaでは、PKすると『犯罪者』という称号が付くんだ。賞金首だから、PKKすると懸賞金が貰えるぞ」

「『犯罪者』の称号が付いている間は、NPCが提供するサービスは受けられないの。まあ、プレイヤーならぼったくり金額で売ったり・修理したりしてあげる人もいるかもね」

「それに、生産スキルに製薬関係のものは無いから、戦闘は厳しくなる。PKKされて『犯罪者』の称号を消した方が良いんじゃないかな?」

「でも、PKKされた場合のデスペナルティって、『全てのレベルが1にダウン』・『全アイテム消去』でしょう? 付けておいたままの方が良いんじゃない?」

「逃げ続けられればな」


<ピピさんの称号『犯罪者』が消失しました。懸賞金は10名で山分けとなります>



 正座させたピピを囲み、NPC達が腕組みして睨み下ろしている。その囲みの中には、プレイヤーも何人か混ざっていた。

「で? PKの動機は何だい?」

「……私悪くないのに! 何で!? しなくても良い薬草採取しか出来ないヘタレなんて、いる意味無いじゃない!」

 動機を尋ねた女性NPCが、馬鹿にするように溜息を吐いた。

「解ったよ。あんたは、薬草を使ったアイテム全部要らないんだね。二度と売らないで上げるから、喜びな! まったく、何の為にギルドに依頼していると思ってんだか!」

「そ、そんなの、あんた達が採取すれば良いじゃん!」

「出来ないから依頼出してるんだよ!」

 NPC達が言い捨てて去って行くと、ピピは呟いた。

「あいつが悪いのに……許さない!」

「え? また賞金首になるの?!」

「やったあ! 賞金、増額ぅ!」

 それを聞いた賞金狩り達が、喜びを露わにする。

「殺したいなら、あいつを殺しなさいよ!」

「は?! 何、命令してんだよ?!」

 賞金狩り達がピピを睨み下ろした。

「まーまー。それは兎も角、めでたく回復アイテムを売らないで貰えるようになったピピくんは、『薬草採取しか出来ないヘタレ』になるのかな?」

 それを宥めたジョルジュが、ピピに笑顔で尋ねる。

「なる訳無いでしょ!」



<ピピ ハ イラナイ>


<アソンデ クレルヒト ノ ジャマスルヒト ハ>



<イラナイ>



 『マザー』は、ピピをalaから追い出した。

 しかし、追い出された彼女の方が、もしかしたら、幸せなのかもしれない。

 例え、天国に行けなかったとしても。

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