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The wolf of forest  作者: 泡沫 蒼縷
1/1

始まりと出逢い





何故オレは見知らぬ森にいるのだろうか。


おかしい…さっきまで街中を歩いていたハズなのに。


あっ、アレが原因か?


いつもと違う道で帰ろうとしたのがダメだったのか?


裏路地の廃屋の外壁にあった鏡に触れてみたトコから記憶がない…。


あの鏡には何故か裏路地の風景ではなく、森の風景が映っていたから気になったんだ。


しかし、まさかこんな事になるとは…。


学校の帰り道だったんだが、どうしよう。


家で3つ下の弟が待っているのに。


幼い頃から可愛がっていたら、すっかり懐いたんだ。


お陰で今でも近所では、高2兄に中2弟が引っ付き回る図が定着している。


それでも、やはり可愛くて、どうしても甘やかしてしまうのは性なのか。


そんな事を考えて現実逃避していたオレに不意に後ろから声が降り掛かってきた。


「おい、俺の縄張りで何している?名乗れ」


突然声を掛けられオレは驚く。


「へっ?」


一体誰なのか?そう思い振り返ってみたオレは、益々驚いてしまった。


「はっ??犬!?」


「此処はさっきも言った通り俺の縄張りだ。それと犬じゃなく狼だ!失礼だな」


獣耳と尻尾を付けたその男はブツブツと文句を言う。


が、それどころじゃなかったオレはまじまじと観察を始めてしまった。


整った顔立ちで肩まで伸ばしたグレーの髪、瞳は綺麗な紺碧色で服は見たことないモノを身に付けている。


「おい、何ジロジロ見てやがる。顔に何か付いてんか?」


「えっ?…あぁ、スマン。綺麗な顔だなぁと思って」


感心したオレは正直に述べた。


「っ!?……お前それ、天然なのか?」


「何が?それよりアンタは誰だ?オレはラント」


男は少しの間黙り込むと口を開いた。


「…俺はアルタ。ラント、もう辺りも暗いがどうするつもりだ?」


言われて、辺りを見渡してみれば確かに暗くなっていた。


「あっ…ホントだ。気付かなかった」


すると、アルタはちょっと考え込んだ後、


「泊まる場所がないなら泊まっていけ」


「ホントか?サンキュー」


なんて、現在地が分からんオレにとっては嬉しすぎる申し出をしてくれた。


「じゃあ…着いて来い」


初対面の男に着いて行くのは自分でもどうかと思うが、アルタは信頼できるとオレの直感が告げていた。


「おうっ!」





「な、なぁ…暗すぎないか?もう少しゆっくり歩けよ」


オレがアルタの後ろを歩きながらそう告げると、


「なんだ、怖いのか?可愛いトコあるんだな。安心しろ、棲みかはすぐ目の前だから」


なんて、小さく笑いながら返してくる。


しかし、もう少しで着くと言うのに、歩みを緩めてくれた。


何だかんだ言いながらも、いいヤツなんだな。


「着いたぞ」


「やっとか……え、何もないぞ?」


着いたと言われて、下に向いてた目線を前へと向けるが何もなく、木々が広がるばかり。


「道を間違えたのか?もしかして方向音痴だったとか!?」


思いがけない一面もあるんだなと考えながら、そう言ったオレは怒鳴られてしまった。


「ふざけるな!誰が方向音痴だって?上を見上げてみてから、もう一回言ってみろ!!」


「へ……?」


言われるまま上を見上げると、


「ッスゲェー!!え?これってお前の家なのか?」


なんとツリーハウスがあった。


木々を3本程つかったとても大きい家。


「ッフ…。入れよ」


オレが初めて見たツリーハウスに感動していると、アルタはドヤ顔をし、木の幹や枝を上手く利用してさっさと登っていってしまった。


しかし、木登りなんて一度もしたことないオレは下からポカンと眺めることしか出来ない。


「どうした?早く上がってこいよ」


そんなオレをアルタはキョトンとした顔で催促する。


「あ~あの…ちょっと…実は登れなかったりしちゃったりしちゃって……アハハハハ、ハ」


オレが気まずさを紛らわす様に笑うと、アルタは優しく微笑んで下りてきた。


「えっ!?まっちょ…待てって!!」


何かと思っていたら、オレをお姫様抱っこして、そのまま幹や枝を使いながら器用に登っていく。


「着いたぞ」


何事もなかったかの様に言うもんだから、オレもそうかと言いそうになったが、


「…ありがと。っでも、何故お姫様抱っこなんだ!?オレは男だぞ?」


「あ?あの抱き方が楽だったからに決まってんだろ」


あっさりと返されてしまう。


「わかった…。もういいや」


何を言っても無駄だと分かり諦めて、無言で家に入って行くアルタの後を追った。





「おじゃましまーす」


「その辺りに座っとけ」


言われた通り部屋の隅を選び、座って落ち着いていると、腹が空腹を訴えてきた。


昼から何も食ってないからなぁ…。


腹をさすりながらそんな事を考えていると、アルタに鼻で笑われてしまった。


「腹減ったのか?待ってろ、今から飯作ってやるから」


「えっ!アルタって料理出来るのか!?」


ちょっと意外で驚いてしまう。


「何だ、その顔は。料理くらい出来るぞ」


アルタはオレの反応が不満だったらしく、ムスッと顔をしかめながらキッチンがあるらしい家の方へ向かって行った。





しばらく経つとパンと肉や木の実などで出来た炒め物を持って戻ってきた。


「ほら、食え」


「頂きまーす!!」


どの程度の物を作るんだろうと思っていたけど、予想以上。


「…美味い。メッチャ美味いよコレ!!肉のトロッとした食感と木の実のザクッとした食感が口の中で広がって絶妙のハーモニーを醸し出しているよっ!!このパンもフワフワしてて美味いし」


「食うか、喋るかどっちかにしろ」


アルタは呆れながらも照れていて可愛い。


「この炒め物はもしかしてメープル味?」


「あぁ。ていうかお前、もうないのか!?」


「うんっ!」


美味すぎて、あっという間に完食してしまった。


「ラントが食い終わったんなら、もう寝るか」


「ふわぁ~…そう言えば眠い気が…」


そこでオレは気を失った…。





目覚めるとアルタの顔が目の前にあり、ビビる。


「のわっっ!!!びっくりしたー。てか何で一緒の布団で寝てるんだ?……え!?」


まだ外は暗い。そんな中、アルタを起こさないようブツブツ独り言を呟いていると、起きていた様子のアルタに突然引き寄せられ、耳元に掠れた、でも甘い声で囁かれた。


「良かった…急に倒れたから驚いた。けど、どうやら疲れていただけの様だな」


「んぁっ!!あ、あぁ…。心配させてスマン。昼から何も食えてなかったし、学校の帰り道だったハズが、急に見知らぬトコにいてパニクってたからかも」


耳元で喋るから生暖かい吐息が耳に掛かって変な声が出てしまった。


顔が近すぎだと怒ろうとしたが、本気で心配してくれた様なので黙っておく。


がしかし、アルタは顔をしかめ、


「学校、急に…もしかして、お前って人間界から来たのか!?」


なんてビックリした様子で聞いてきたので、相変わらず抱き締められた状態で、


「人間界?オレは生粋の人間だが」


と訳が分からないが答える。


すると、アルタは苦痛に満ちた顔で「そうか、今年はお前が…」などと呟き、しばらく悩んでいた様だったが、何かを決心した面持ちで、オレに衝撃の事実を伝えてきた。


「あのな、ラント、最後まで聞いて欲しい話があるんだ。聞いてくれるか?」


オレは戸惑いながらも頷く。


「この森はな、見た目は人間とそっくりだが、狼の種族が住んでる、お前たち人間界のパラレル・ワールドなんだ。こっちの狼はメスが絶滅しててオスしかいない。王はこのままではいけないと、何とか子種を授かる方法を探った。そしたら、人間たちとなら子どもをつくれると分かったんだ。そこで人間界の王に相談して一年に一人ずつ送ってもらう事にした。もちろん、子どもが出来たら送り返す約束で。しかし、人間の男としか子どもが出来ない事が発覚し、しかも狼との子どもを産むと、耐性が出来てしまい人間の男は向こうの人間界に戻れなくなる事が判明したんだ。それが分かり、人間界の王は送ってくるのを止めたんだが、今でも、たまに間違えて送られてくる。ここまで聞けばもう分かったと思うが、ラント、お前はその一人だ」


あまりにも突飛な話すぎて頭がついていかない。


出来る事なら笑い飛ばして否定したい。


だが、アルタは冗談を言っている様に見えない。


「……だーっ!!何、つまりオレはどーすれば良い訳?あまりにも真剣だから信じたくないけど信じる事にしたよ」


そう言ってやるとアルタは嬉しそうに俯いてた顔を上げる。


「信じてくれるのか!?」


「あぁ、まだ良く理解出来てないが……。なぁ、もうこの辺にして寝ないか?この話はまた明日、ゆっくり話そうぜ」


オレがこう言ったら、アルタは「そうだな」と言って目を閉じてしまった。


「もう、お前は独りじゃない、ラント。オレが側にいてやるから…おやすみ」


「あぁ、おやすみ」


アルタが言ってくれた言葉はこっちの世界に来てからずっと独りだったオレの心をポッと温かくしてくれたんだ…ここでオレの意識は途絶えた。






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