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錬金術師のどうぐやさん  作者: あるけみすと
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ニココ蝶のコンパス

「ニココ蝶のコンパス?」


店の主、レイン・モートルクはサイズの合わない眼鏡を指で持ち上げながら聞き返した。


「うむ。聞けば迷った時一度だけ自分の出たい出口へ導いてくれるとか」


カウンター越しに立つ女の客は、鎧を纏い帯剣した騎士のような姿をしていた。


「ええ、ニココ蝶のコンパスは森や迷宮で迷った時、近くかつ安全な出口へいざなってくれます」


レイン・モートルクが眼鏡をくいと上げて答えるとカウンター越しの騎士風の女は小さく頷いて「あるかな?」と続けて聞いた。


それにレイン・モートルクは笑みを浮かべ、


「ありませんよ」


そう言い切った。


「な、ないのか?」


有ると思っていた騎士風の女はカウンターに両手をつき愕然とした様子で尋ね返して来た。


「ええ。今ここに材料は揃ってますがその材料の一つはお客様から頂かないといけないのです」


対してレイン・モートルクは冷静に答えた。


「私から?……私が出せる物ならだそう」


恐る恐るといった様子の騎士風の女に、レイン・モートルクは人差し指を騎士風の女に向けこう言った。


「貴女の血を頂きましょう」



きっかり三秒経つと、


「おおぉぉのおおぉれ吸血鬼ぃぃっっ!!正体を表しよったなああぁぁっっ!!」


騎士風の女は腰に差していた剣を、辺りにある店の商品をなぎ倒しながら抜きはなった。


「なっ、なっ、なんなんですか貴女はっ!」


クールな男を自称するレイン・モートルクだが、凄まじい剣幕で剣を振り抜いた騎士風の女を相手に、流石に慌てて席を立つ。


「黙れ吸血鬼!世の乙女達を食い物にする悪辣なる魔物め!ここで会ったが百年目!今ここで成敗──」


「ああ、そう言う……血を貰うって言うのはニココ蝶のコンパスに使用者の血が必要だからです。貴女の血を飲むわけではないですし、そもそも吸血鬼じゃないんでいりません」


はぁ、と大きなため息をついてレイン・モートルクはカウンターの下にある引き出しから一枚の紙を取り出した。

それは紫色をした紙だった。


「む……どうして血が必要なのだ?」


「血には多量の魔力が込められています。ニココ蝶のコンパスはその血の魔力を用いて動くのですが、こんな紙一つ取っても魔道具でしてね。血を用いる場合には血を使った本人しか扱えない魔道具になってしまうのです」


訝しげに自分を見る騎士風の女にレイン・モートルクは簡単に説明する。


「むむむ……なるほど、わかった。すまなかったな店主。ここ最近吸血鬼騒ぎが多くてな。店主が吸血鬼かと思い……ああっ、そうだ、壊してしまったものも弁償しよう。本当にすまない」


話しを理解してくれた騎士風の女はすまなそうに何度も謝り続けた。それに対してレイン・モートルクは何か思案し始めた。


「吸血鬼……。いえ、弁償は大丈夫ですよ。その代わりと言ってはなんですが、今後ともご贔屓にしていただければ……」


「そうか、すまないな店主」


「いえいえ。ではこの針でお願いします。血はほんのちょっぴりで構いません」


レイン・モートルクは銀色の針を取り出し騎士風の女に手渡した。


「うむ。……これで良いか?」


人差し指の先に針の先っぽを刺すと、赤い血が少し針に付着する。


「では針をこちらに……はい、できました」


血のついた針を紫色の紙に擦り付け、その紙を何度か折るとレイン・モートルクはそれを騎士風の女に手渡した。


「使用する時は空中に放り投げてください。そうする事で出口へ導いてくれます」


「わかった。お代は?」


「銅貨七枚になります」


「銅貨七枚?魔道具にしてはやけに安いのだな」


「ニココ蝶のコンパスに大切なのは血だけでしてね。この値段は殆ど紙代になります」


「そうか。……うむ、これで」


騎士風の女は腰から下げていた小さな袋から銅貨七枚を取り出しレイン・モートルクの目の前のカウンターに置かれた受け皿に置いた。


「ひのふのみの……はい、丁度いただきました」


「では私はこれで。また寄らして貰う」


「はい。またのご来店をお待ちしています」


レイン・モートルクがそう言うと騎士風の女は店を去って行った。




「店主、やっているかね」


騎士風の女が店から去り、レイン・モートルクが騎士風の女が散らかした物を直したり捨てたりしていると、声に覇気のない、けどどこか偉そうな男が店の中に入ってきました。

男は肌がとても白いです。

その男が皆さんに入って来ると、レイン・モートルクは酷く疲れたようにカウンターの奥の席に座り込みました。


「今日は貴男のせいで酷い目に会いましたよ、伯爵」


「?」


はて?と言った感じで首を傾げた男にレイン・モートルクは先程の一件を教えました。


「おお、それでかぐわしき血の香りがしたのか。して店主、この血の乙女はいずこに?」


「帰りましたよ。……はぁ。これ渡すんでさっさと帰ってください」


レイン・モートルクは手のひらに収まるくらいの小瓶を懐から取り出した。


「嗚呼、これで陽の光の中日傘をささずとも自由にあるけるように!」


「だからって女の子を襲うのはやめてください」


「愚かな、吸血鬼が生娘を襲わずしてなんとする」


「トマトでも大丈夫なくせに」


レイン・モートルクは何度目になるかわからないため息をつくのだった。

アイテム図鑑



ニココ蝶のコンパス。


使用すると一度だけ安全な出口へ導いてくれる。

ニココと言う木から作られた紙を使っており、魔道具として使う時、その紙が蝶のように羽ばたきながら飛ぶことからニココ蝶のコンパスと呼ばれている。

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