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錬金術師のどうぐやさん  作者: あるけみすと
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自動音読しおり

「自動音読しおり?」


店の主、レイン・モートルクはサイズの合わない眼鏡を指で持ち上げながら聞き返した。


「はい。教会の子供たちに本を読み聞かせたいのですが、男の子達は騎士の物語、女の子はお姫様の物語を聞きたがり片方の物語を読むとすごく嫌がってしまうのです」


カウンター越しに立つ黒い法衣に身を包んだ年若い修道女は両手を祈るように合わせながら悲しそうに頷いた。


「なるほど。男の子と女の子両方に読み聞かせる為に、ですね?」


レイン・モートルクはカウンターのちょうど後ろにある本棚から一冊の本を抜出しながら尋ねる。


「はい。錬金術師さんが前に言っていた物を思い出し……どうか、お貸しいただけはしないでしょうか?」


レイン・モートルクは魔法使いではなく錬金術師と呼ばれた事に気を良くし、ニコニコ顔で本に挟んであったしおりを気前よくシスターに手渡した。


「お礼はいりませんよ。いつものように、ね」


レイン・モートルクは子供好きだった。子供嫌いな大人はいないが彼の持論である程に。なので孤児などを世話しているこの街の教会にいろいろ無償で支援していたのだが、この修道女はそれが前から気に食わなかった。

良い意味でだ。


「錬金術師さん……お代は払えませんが、何か、代わりに私にお手伝いできることはないでしょうか?」


普段なら断る所だが、レイン・モートルクはこの時ちょうど彼女の手を借りたいと思い立っていた。


「ではシスターさんの声をお借りいたしましょう」


ゆびをぴんと立てたレイン・モートルクの言葉に、修道女は首を傾げた。


「ああご安心を。あなたの声を奪うのではなく、音読しおりの声をシスターさんの声と同じにするだけです」


「まぁ! そんな事ができるのですか?」


驚く修道女にレイン・モートルクはむふ、と笑みで返して自動音読しおりを修道女の手から奪った。


「ではシスターさん。目をつぶって口を開けてください」


「? ……ほ、ほうふぇふぉろひいふぇふふぁ?(こ、こうでよろしいですか?)」


やや恥ずかしそうに口を開けた修道女の口の中に、レイン・モートルクはしおりを差し込んだ。


「では口を閉じて……はい、もういいですよ」


レイン・モートルク修道女のつばで汚れてしまったしおりを挟むように二枚の紙を重ねて、カウンターの上でさっと手で擦った。


「あ、あのぉ……」


自分の唾液を使われ少し恥ずかしさと不安を抱く修道女にレイン・モートルク笑って答えた。


「もう完成ですよ。シスターさんの声で喋る自動音読しおり。……そうだな、テストをしてみよう」


レイン・モートルクは本棚の適当な本を取り出し、その本の適当なページにしおりを挟んだ。


「このしおりは挟んだ場所から本を音読しまして。最初からも続きにも対応したすぐれもの。きっと気に入る事でしょう。では……『物語の始まり始まり』……」







挟んだ本がいかがわしい本だった事に、レイン・モートルクは音読が始まるその瞬間まで気づく事はなかった。


アイテム図鑑


『自動音読しおり』


しおりを挟んだページから音読をし出すマジックアイテム。

普通は無機質な声を出すのだが、人の体液をしおりに塗る事で音読の声をその人の声にできる。

その日モートルクのどうぐやではシスターの艶めかしい喘ぎ声とそのシスターの悲鳴と店主の絶叫が鳴り響いたという

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