ヒシバミ草の低級ポーション
「ヒシバミ草の低級ポーション?」
店の主、レイン・モートルクはサイズの合わない眼鏡を指で持ち上げながら聞き返した。
「おや、旦那の店にゃないのかい?」
カウンター越しに立つ大柄な男は「珍しい事もあるもんだ」と表情に出しながらも聞き返す。
「いえ、ありますよ。なんでそんな物を頼むのかと思いまして」
レイン・モートルクはカウンターから離れ薬棚から試験管を取り出しまたカウンターに戻って来た。
薄黄緑色の液体が入ったそれを、レイン・モートルクはカウンターに置いた。
「へぇ、こいつがヒシバミ草の」
「ええ。一般的なポーションより回復量は少なく、その癖素材のヒシバミ草のせいで値段が三倍程するヒシバミ草の低級ポーションです」
値段が三倍、と聞き大柄な男は目を白黒させて驚いた。
「ヒシバミ草って、あの雑草みたいに生えてるあのヒシバミ草だろ? 量なら沢山あるのに、なんでまたそんな値段なんだ?」
男の疑問は当然だ。しかしレイン・モートルクはため息をついてこう答えた。
「ヒシバミ草って腹下しの毒草じゃないですか」
大柄の男はその一言に「あー」、と納得した。
「毒素が出ないように調合するのが手間なんですよ」
「なるほどなぁ」
「逆に聞くと何故ヒシバミ草の低級ポーションを聞いて来たのが疑問です」
この大柄の男はレイン・モートルクの客でありレイン・モートルクはこの男の客でもある。
名をグルカノと言うのだが、この男は所謂傭兵である。
人ではなく魔物と戦い金を得る方のだが。
「なんでも最近女の冒険者達の中で大流行らしくてよぉ。俺の知り合いの野郎も──あぁ、女なんだが、一度使ってから病みつきになっちまったってらしくて」
今度はレイン・モートルクの方が「あー」と納得した。
「ヒシバミ草の毒って成分的には甘いですからね。毒が出なければ僕も一日中噛んでいたいくらいだ」
「そうそう。甘さが良いって言ってたな」
「女性はいつの世でも甘い物が好きですからね。食べ物も、男も」
「違いねぇ」
苦笑したグルカノは腰の財布から銀貨を一枚取り出した。
「普通のポーションの三倍って言うと、これで良いかい?」
「お釣りが出ますね」
「なら釣りはいらねぇよ」
「それ、逆に困るんですよね」
「この間のツケの分って事で」
「ならあと金貨三枚必要です」
グルカノは渋い顔をして釣りを受け取った。
アイテム図鑑
『ヒシバミ草の低級ポーション』
毒草に分類されるヒシバミ草を用いた低級ポーション。薬草を用いるポーションより効果は少ないがそれを補って余りある美味しさを持つ。
値段は高いが女性に大人気で市場では品薄状態で価格高騰中