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氷の滅慕  作者: SH
四章 覇王
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戦神の降臨



「戒閃! やめなさい!!」


 灰塚の鋭い制止の声が響く。だが、それよりも早く高城が動いていた。

 白蓮と戒閃を結ぶ直線上に身を割り込ませた高城へ戒閃が叫ぶ。


「どけ――ッ!!」


 薙ぎ払うように横合いから襲い来た拳を、老執事は力の支点に近い肘を押さえることにより防ぐ。

 張り巡らされた戒閃の障壁が力の干渉により弾けた。激しい衝撃を感じ、身を引こうとした戒閃の真下から突風が吹き抜ける。同時に高城から捕まれた腕が押された――刹那、天地が逆転し、戒閃の視界が目まぐるしく入れ替わる。


「グッ――――!?」


 背中から臓腑へと強い衝撃が伝わる。息の詰まった戒閃は、自分が床に転がされていることにすぐには気づけなかった。

 見下ろしてくる高城の背景が天井であることに唖然とし、慌てて上体を起こす。しゃがみ込むような低い姿勢のまま大きく後ろへ飛びのいて拳を構えた。


「落ち着きなさい。この室内には多くの魔王が、客人として招かれているのですよ。その部屋の主へ害意を向けるなど、正気の沙汰とは思えませんね」


 高城の言葉に一瞬で血の下がった戒閃は周囲を見回す。

 一連のやり取りを面白そうに眺めている者も居るが、不快さを(あらわ)にしている者もいる。それらの者達は皆、戒閃など及びもつかない力を持った魔族の支配者なのだ。

 そしてなにより、戒閃の行いは主である灰塚の面目を潰すことにもなる。


「も、申し訳ございません、灰塚様。ですがその女は――」


 灰塚は黙っていろというように手を上げ、白蓮へ謝辞を述べた。


「お姉さま。私の臣下が失礼をしました。戒閃は見ての通りすこし気が高ぶっているようです。後ほどよく言い聞かせておきますので、大目にみてやって下さい」


 軽く頭を“下げた”灰塚へ、白蓮は鷹揚(おうよう)に頷く。

 居合わせた魔王達からすれば、灰塚は臣下の非礼を(おの)が責とし、みずからの王たる誇りより、礼や儀といったものを尊重する人格者のように見えたかもしれない。だが傾国だけは、その光景にはっと息をのんだ。

 幼い姪の様子に怪訝な顔をしつつも、藤堂はくしゃりとその頭を撫でてやる。


「ところでお姉さま。戒閃の言っていた凱延を殺した少女というのは、やはり……?」


「アルフラだわ」


「灰塚様、これはどういうことなのですか! この白蓮という方は何者なのです!?」


 言葉(づか)いこそ丁寧なものにはなりはしたが、戒閃は依然強い敵意の眼差しで白蓮を睨みつけていた。その視線を相変わらずの無表情で受け止めた白蓮は、逆に戒閃へ問いかける。


「戒閃、といったかしら? お前は凱延の仇であるアルフラを討とうというの?」


「それが……どうした? あなたとあの少女がどんな関係かは知らない。――けれど、わたしは必ず凱延殿の(かたき)を取る」


「お前がアルフラを恨むのは筋違いよ。凱延よりもアルフラの方が強かった。だから凱延は死んだ。――あの子より弱かった凱延が悪いのよ。ただそれだけの事だわ」


 それは魔族にとって、一つの真理であった。


「いえ、凱延殿はガルナでの戦いに際し、決して万全の状態ではありませんでした。常時であれば、人間などに遅れを取ることはなかったはずです。――そのことを、わたしが証明してみせます」


「やめておきなさい。上官である凱延ですら勝てなかったのでしょう? お前などがアルフラにかなうわけがない」


「お姉さま。この戒閃は私の従姉妹筋(いとこすじ)にあたります。若輩ではありますが、一概に凱延より弱いとも言えません」


「――わたしは、自分が凱延殿より強いとは思ってません。ですが……必ずその仇は取ります! わたしがこの手で! あのアルフラという少女を殺します!!」


 それまで一切の感情が見受けられなかった白蓮の顔に、微かな表情らしきものが浮かぶ。


「私はね、同じことを何度も口にさせられるのがとても嫌いなの。でも特別にもう一度だけ言ってあげるわ」


 さきほどの灰塚と雷鴉の対峙により、焦げ付くような乾いた熱気につつまれた室内に、冷涼な空気の流れができていた。

 室温の変化はそれほど急激なものではない。しかし、戒閃は首筋のうぶ毛がぞわりと立ち上がるのを感じた。


 そして、銀髪の麗人はゆっくりと口角を持ち上げる。


「お前ごときが、私のアルフラを殺すなんて無理よ。やめておきなさい。――それでも聞けないというのなら……」


 蒼い瞳が強い眼光を放ち、戒閃を覗き込む。薄い唇には冷笑が刻まれていた。

 その恫喝(どうかつ)するかような白蓮の態度に、戒閃の身の内から憤然(ふんぜん)とした怒りが沸き上がった。――だが同時に、妙な予感を覚える。

 この室内に入って以来、戒閃には片時も気の休まる瞬間などなかった。多くの魔王達に囲まれ、灰塚から怒りを向けられ、それこそ何度命を失う覚悟をしたかも(さだ)かではない。


 しかし今この瞬間こそが、自分は最も死に近しい場所に身を置いてしまっているのではないかという、妙な予感。


 凄まじい緊張が四肢を縛り付け、戒閃は凍りついたように動けないでいた。


「お姉さま……」


 遠慮がちにかけられた灰塚の呼びかけに、白蓮は戒閃から目を逸らすことなく応じる。


「灰塚、あなたが王都を焼きたいのなら好きにすればいいわ」


「それは――」


「でも、私の後になさい。――約束があるの。夏が終わる前にもう一度王都を訪れるという約束がね」


 灰塚はめずらしく困惑した様子で首をかしげる。


「また、王都へ向かわれるのですか?」


「ええ、今度こそあの子を説き伏せて西方へ――戦火から遠ざけるわ」


「もちろん、お姉さまの邪魔をするつもりはありませんが……」


「私が前回王都へ行ったとき、凱延を殺したのは魔術士ギルドの長だと聞いたわ。実際にとどめを下したのがアルフラだとしても、ギルドの者達が凱延の仇であることには違いないはずよ」


「はい、百二十年前に凱延がレギウスへ攻め込んだときも、やはり凱延に傷を負わせたのは魔導士だったと聞いています」


「ならばそのギルドを滅ぼし、人間の都を焼き払うことで凱延の件は満足してちょうだい」


 白蓮の言葉に灰塚が答えるより先に戒閃が口を開く。


「そんな話が通るはずないっ! 凱延殿を殺したのは――」


「戒閃!! お前の主が話しをしている最中よ。誰が口を差し挟む許しを与えた!」


 鋭い口調で灰塚から叱咤され、戒閃は強く唇を噛む。


「……申し訳ございません」


 白蓮は一歩身を引いた戒閃から雷鴉へと視線を流す。


「なにか言いたげな顔ね」


 一連のやり取りを用心深く観察していた中央の盟主が、肩をすくめて薄笑いを浮かべる。


「いや、な。さっきから思っていたんだけどさ。あんた一体――何様のつもりだよ」


 それは、この部屋に集まった白蓮とは初対面の魔王達が、内心に抱える疑問でもあった。

 北部でも有数の力を持つ灰塚を相手に、こうもぞんざいな口の利き方をするこの女は何者なのか、と。


「俺は言ったはずだぞ? 人間達の扱いについては、中央の盟主であるこの俺が戦禍帝から一任されてるってな」


「その話を彼に通してあげたのは誰だったかしらね? あなたには魔導師を通してアルフラの安全を計る義務があるはずよ。それが私との間で結んだ契約なのだから。――なのにあなたは、(くだん)の魔導師に私が頼みもしていない命令をしたわね?」


「……なんのことを言ってるのか分からないな。俺は確かにあんたの望みを奴らに伝えたぞ?」


 集まる好奇の視線を気にも止めず、すました顔でしらばっくれる雷鴉へ、灰塚と魅月の白い目が向けられる。二人はその会話がなされた場に居合わせていたのだ。それでも雷鴉は落ち着きを崩さない。


「たとえ俺があんたとの約束を破ったのだとして、今度は灰塚に王都を攻めさせるよう戦禍帝へ進言するつもりか?」


 無言で見つめる白蓮をせせら笑うかのように、雷鴉は顎を上げて口許をゆがめた。


「そうそう思い通りにことが運ぶとは限らないぞ? いくらあんたが戦禍帝の情婦(おんな)だとしてもだ。俺は最近ちょくちょく戦禍から酒の相手をさせられてるんだけどな――あいつはこのところ、かなりあんたを(うと)んじてるぞ」


 親しげに戦禍を呼び捨てた雷鴉に対し、灰塚がかすかに柳眉をそばだてる。そして雷鴉を見る白蓮の瞳にも冷たさが増した。


「中央の盟主様に心配して貰うようなことではないわ。今はあなたとの間で交わした契約についての話よ」


「そうは言われてもな。もしかして俺が魔導師の爺さんに小娘を手元から離すな、と命じたことを言ってるのなら、ありゃあ気を利かせたつもりだったんだけどな」


 雷鴉は氷の内面を見透かそうとするかのように白蓮を覗き込む。彼は戦禍に多大な影響力を持つこの麗人にとって、アルフラというたった一人の人間の少女が、自分の想像以上に重要な存在であるらしいということを感じ取っていた。


「あなたがどういった腹積もりかは知らないわ。けれどその余計な一言のおかげで、一時はアルフラを拘束しようという話が持ち上がったそうよ。これ以上妙なまねをされても困るの。だから私としては、灰塚が魔術士ギルドを壊滅させてくれるのなら、むしろ都合がいいわ」


 以前に白蓮は、アルフラに危害を加えかねない魔導士達をギルドごとみずからの手で取り除こうと考えたことがあった。だが当時は凱延のレギウス侵攻も間近と見られ、アルフラの盾ともなりえるギルドの必要性を高城に説かれて断念したという経緯があった。――そして戒閃の話を聞く限り、魔導士達はアルフラが凱延を倒すよい助けになってくれたようだ。

 白蓮の望む働きを見事果してくれたといえる。


――もう、彼らは用済みだ


 今後のことを考えれば、雷鴉の手先でもあるギルドの存在は不要だ。

 アルフラへ想いを寄せる“あの”魔導士くらいは、彼の愛する少女と一緒に西方へ逃がしてやってもいいかもしれない。後は……灰塚がその名の通り、全てを灰にしてくれるだろう。――それが白蓮の下した結論であった。


 雷鴉と白蓮との間でたがいの腹を探り合うかのような視線が交錯し――ふと蒼い瞳が逸らされる。その視線は扉の方へと送られていた。

 高城が素早くそちらへ向かう。またも来客が訪れたようであった。


「……まったく、今日は本当に何という日なのかしら……」



 うんざりだ、といわんばかりに白蓮がため息をこぼした。





 度重なる来客に話の腰が折られ、室内の張り詰めた空気にもわずかな緩みが見られた。


 退室する老執事の背を見送り、戒閃は全身の筋肉が弛緩するかのような脱力感に見舞われる。自分で思っていた以上に緊張していたようだ。

 声を潜めて何事かを話す灰塚と白蓮を横目に、戒閃は大きく息をつく。その腰に突然細い腕が巻きつき、ぐっと引き寄せられた。


「――み、魅月様……?」


 ぐいぐいと部屋の隅まで戒閃を引きずった魅月が小声で囁く。


「ねぇ、あなたアルフラって子を殺したいのでしょう? あたしが力を貸してあげましょうかぁ」


「……え?」


 猫でも撫でるかのような声を出した魅月へ、思わず疑わしげな目を向けてしまう。

 戒閃の母は魅月の叔母にあたり、二人は幼少の頃から頻繁に顔を合わせる機会があった。そういった次第で、このいかにも力になってあげたいの、といった親切げな雰囲気を(かも)している蛇が、そんないい性格ではないことは百も承知だった。


「どういうことですか?」


 囁き返した戒閃へ、魅月はにんまりとする。


「お姉さまがねぇ、人間の小娘なんかをずいぶんと気にかけてるのが許せないないの」


 あたしねぇ、と(いや)らしげに笑み、魅月はさらに声を潜める。


「最近すごく力を増したのよ。だからぁ、その力をあなたに分けてあげれば、きっとアルフラって子も一捻(ひとひね)りよ」


 戒閃としても、魅月から力を貰えるという話は非常に魅力的であるのだが……


「それは普通に血を媒介(ばいかい)として、力をいただけるということですか?」


「ばかねぇ。夢魔が睦事(むつごと)で精を奪うだけじゃなく、逆に与えることも出来るのは知ってるでしょ?」


「はぁ」


「気持ち良くなって力のやり取りが出来るのに、なんでわざわざあたしが痛い思いをして、あなたに血をあげなくちゃならないのよぉ」


「……やっぱり、そうなりますか」


 戒閃は以前それで酷い目に合ったことがある。魅月から力を貰っている最中に、ちょっと人には言えないような、えげつない夢を見せられてしまったのだ。

 自力では逃れられない淫夢の中で、丸々二晩ほど悶絶させられたのだ。そして魅月によってようやく目覚めさせられた時には、革製品に異常な愛着を持ち、その拘束感に興奮してしまうという危ない性癖にも目覚めてしまっていた。


「それはほらぁ、若気のいたりよ。まだあたしも子供だったし」


「いえ、私も子供だったのですが……」


「それでねぇ。あたしからも一つお願いがあるの」


「……なんですか」


「出来ればぁ、アルフラって子を生きたまま連れてきて欲しいの」


「それはまた……」


 物騒な話だ、と戒閃は思った。

 普通に考えれば穏便という表現になるのだろう。しかしこの従妹の口から聞く限り、生きたままという言葉はなんとも不吉な響きを帯びてくる。


「もちろんねぇ、生きていれば手足の二、三本くらい()くなってても構わないわ」


「あの……手足は二本づつしかありませんが……」


「もうっ、そうじゃなくてぇ、手か足の一本も残っていれば充分てことよ。ていうか言葉のアヤに決まってるでしょ」


 やはり物騒だな、と思う。


「あっ、でもやっぱり五体満足な方がいいわ。そうすればぁ、その娘を仕込んでお姉さまをあたしの…………」


 魅月はぶつぶつと口の中で悪だくみをはじめた。

 戒閃も考えを巡らせてその申し出を吟味してみる。


 みずからの手で凱延の仇を討つと言いはしたが、アルフラという少女はかなりの難敵だ。

 魅月から魔力を貰う過程については凄まじく不安もあるが、出来れば力を増しておきたい。

 生きたままという話にしても、あの少女を魅月に引き渡せば、死ぬよりも辛い目に合わせてくれるだろう。――だが、自身の手で凱延の仇を殺したいという強い思いがあった。


 どうしたものかと悩んでいる内に、音を立てて扉が開かれた。


「あっ! 高城が戻って来たわぁ。いい、戒閃。後でちゃんとあたしの部屋へ来るのよ」


 室内に戻った老執事はやや気が()いているらしく、口早に報告をはじめた。


「戦禍帝から招集がかかっております。諸王は至急、帝鑑(ていかん)の間へ集まるようにとのことです」


「帝鑑の間だと!?」


 室内の空気がざわりと揺れる。



「つい先程、西方上空――おそらくグラシェール山頂部付近にて、屹立(きつりつ)する光の柱が確認されたそうです」





 帝鑑の間。それは皇城一階の中央に位置する大広間である。

 かつて災厄の主と呼ばれた初代皇帝が謁見の間として使用していた広間であり、以来、戦禍で七代目となる歴代の皇帝達が重要な裁可を下すにあたり使われてきた部屋であった。

 普段は中二階に設けられた謁見の間が使用されるため、よほどの事案でもない限り、帝鑑の間の扉が開かれることはない。


 玉座の前に立った戦禍は、一段高くなったその場から立ち並ぶ王達を見渡す。

 東方に存在する十五名の魔王すべてが一同に会したことを確認すると、戦禍は落ち着いた声音で語った。


「すでに話は聞き及んでいると思いますが、グラシェール山頂とおぼしき場所に、天を貫くかのような光芒が見られました」


 戦禍は一旦言葉を区切り、魔王達の表情を確認するかのように首を巡らせる。

 あたりはしんと静まり、先を促すかのような注視が返されていた。


「おそらく、戦神バイラウェが降臨したと見て間違いないでしょう。遅くとも二、三日中には正確な報告がもたらされるはずです」


 声を発する者は一人も居なかった。だが、ほとんどの魔王達がその顔に笑みを浮べていた。

 濃密に流れ出した好戦的な気配で、大気が膨張したかのような圧力が場に生まれる。


「数日前に届いた報告では、グラシェールに集結した有翼人の数は、すでに数万にも及ぶ大軍となっているそうです。その上さらにその数は増え続けているらしい。――ここ数百年来なかった、大きな(いくさ)となるでしょう」


「――俺だ」


 雷鴉が名乗りを上げる。


「中央の盟主である俺が先陣を切る。バイラウェの首は俺が貰う!」


「何を言うか!!」


「盟主だなどと関係ないわ!」


 口々に反論が飛び交い、一瞬にして帝鑑の間は騒然となった。

 元々が他者に従うことを知らぬ王達の集まりだ。敵意を向け合う者も多く、些細なきっかけでも争いが起こりえる。

 そのまま放置しておけば、強者が全てを得るという魔族の論理に従い、にわかに戦いへと発展しかねない状況。――それを穏やかだがよく通る戦禍の声が収める。


「静まりなさい」


 罵り合う声こそなくなりはしたが、依然として帝鑑の間には敵意や戦意といった攻撃的な気配が渦巻いている。戦禍はその奔流に心地好く身を浸していた。

 魔皇の口許にうっすらと笑みが浮かぶ。


「私は、この中の誰か一人をグラシェールへ差し向けることは考えていません」


「……なんだと?」


 眉をひそめた雷鴉を、戦禍は楽しげに見やる。


「先程も言いましたが、グラシェールからはそう日を置かずに詳細な報告がもたらされるでしょう。バイラウェの降臨が確認でき次第、ここに集まった全ての魔王を動員し、グラシェールを攻めます」


 おお、と吐き出すような息遣いが魔王達の間から起こる。


「様子見などするつもりはありません。一気に(かた)を付けます。地へ降り立った戦神を群れ(つど)った有翼人ごと殲滅し、“神の宮”を消し去りましょう」


 戦禍は大きく手を広げ、みずからの力を誇示するかのように、膨大な魔力をその身から溢れ出させた。


「神族が地上における拠点とし、魔族の領域にも隣接するグラシェールの神域は、我らの喉元に刺さった小骨のようなもの」


 一際存在感を増した戦禍が、声高(こわだ)かに宣言する。


「かつて災厄の主が神族を一掃したように、私はこの地上から“神の宮”を消滅させます。長らく我々を牽制するかのようにグラシェールに在り続けた、あの神域を!」


 空間が軋みを上げる程の力が、濁流のように帝鑑の間を満たしていく。



 魔王達は自身に数倍する力をまとった戦禍へ畏怖の目を向けながらも、その大言壮語に喜色をあらわとした。

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