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氷の滅慕  作者: SH
四章 覇王
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裏切りの魔導士



 大導師ホスローの居室。その扉が慌ただしく開かれた。

 サダムからアルフラの動向についての報告を受けていたホスローが、闖入者へ目を向ける。


「何用だフレイン? 人払いをしていたはずだぞ」


 最近ではもっぱら王宮へ出向き、事務等の仕事に終止しているはずのフレイン。その突然の来訪に、ホスローは疑問の声を上げた。


「なぜお前がここへ……」


 白く見える程に青ざめたフレインの様子に気づき、ホスローはその問いを飲み込む。

 なにやら危急の事態が起こったのだ、と察したホスローの口調が、鋭いものへと変わる。


「何があった?」


「それが……地下牢の見張りについていた術師が、昏倒させられているのが発見されました」


「なんだと!?」


「何者かが牢へ侵入した形跡が見られたそうです」


 腰を浮かしたホスローが、ふと不審げに動きを止める。


「……待て、なぜお前がその報告を持って来る。そなたは王宮へ詰めているはずではなかったのか?」


「はっ、いささか連日の激務が堪え、自室で仮眠を取っていました。王宮へ戻る前に、幾つか大導師様のご裁可を仰ぎたい件がございましてこちらへ向かっていた途中、慌てた様子で走ってきた術師から報告を受けたのです」


 よどみなく答えるフレインへ、さらに質問が投げられる。


「その者はどうした?」


「事が事ですので、騒ぎ立てるのはまずいと思い、他の者へ口外することを禁じた上で、王宮へと走らせました。――程なくアルザイール殿に話が伝わり、こちらへ来られるでしょう」


「そうか……牢の中の者達はどうなっておる?」


「まずは大導師様へご報告をと思い、そちらはこれから確認へ向かうところです」


 わずかのあいだ思案したホスローが、背後のサダムへ命じる。


「お前は引き続き、あの娘の監視にあたれ」


「かしこまりました」


「フレイン、お前はついて来い。直接我が目で確認しよう」


「……はい」


 頷いたフレインが、ちらりとサダムへ視線を走らせる。だが、伏せられた顔はローブに隠れて見えない。――ただ、何かに怯えるかのごとく、かたかたとその身を震わせていた。


「何をしている。急げ、刻が惜しい」


「はっ」


 戸口へ向かったホスローの後を、フレインが追う。


 最下層へと至る道は、二通りある。

 ギルドの地下区画から、長い階段を降りる順路と、カンタレラを精製する地上施設から直通の竪穴だ。後述の竪穴は、先程フレインが用いた導士以上の者しか通ることが出来ないものだ。

 ホスローの居室からならば、前述の階段を使った方が早い。


 地下からさらに下層へと向かうホスローとフレイン。二人は誰ともすれ違うことなく階段を降りてゆく。

 一般業務などを行っているギルドの地上施設とは違い、地下区画にあまり人気はない。



 二人は地の底まで続くかのような長い階段を抜け、石造りの小部屋にたどり着いた。





 室内を見回したホスローは、真っ直ぐに木卓へ歩みよる。


「これは……昏倒というより、眠らされているのか?」


 卓にもたれ掛かるように伏した術師を見つめ、ひとりごちる。


「何らかの術を用いられたか、薬を盛られたか……」


 男の呼吸は規則的だ。その眠りは深い。このまま放って置けば、数時間は目覚めないのではないかといった様相である。


「この者を起こし、事情を問いただせ」


 そうフレインへ告げ、卓上に置かれていた鍵束を手に取る。

 この時のホスローには、注意力が不足していたと言えるだろう。


 なぜ、昏々と眠り続ける男を最初に発見した術師は、彼を起こさなかったのか?

 なぜ、その術師はみずから牢内の虜囚の状態を確認しなかったのか?

 そしてなぜ、偶然にもフレインが、その報を第一に受けたのであろうか?


 不可解な点。疑念に思う事は、幾つもあったはずなのだ。


 だが、何者がこのような場所に侵入したのか?

 その目的は何なのか?

 秘密裏にしておかねばならぬ虜囚は、どうなっているのか?


 より重要度の高い疑問が、ホスローの思考を埋めていた。

 気が()いていたのだ。


 そして何より、ホスローは死を克服した身体であり、痛みなどの感覚を殆ど感じることがない。

 彼は、危険というものに対する認識が、致命的に薄かった。


 扉に向かったホスローは、不意に背後からの衝撃でよろけ、鍵束を取り落としてしまう。

 押された勢いのまま扉に手をつき、咄嗟に体を支えた。


「な…………? フレイン?」


 振り向いたホスローとフレインの視線が交錯する。体を預けるようにして、彼の背に肩を押し付けたフレインの目は、大きく見開かれていた。

 そこには、深い罪悪感と、(かす)かな怒りがあった。

 その手には、銀光を放つ短剣が握られていた。


「すみません……大導師様」


 わなわなと震える唇が、さらにもう一度、すみません、と言葉をつむぐ。


「私にはもう……こうするしかなかったのです」


「ど……ういうことだ……?」


 熱い魔力の流れを感じた。

 不浄な生命を断罪する、神聖な魔力の力ある奔流。

 それは、フレインがホスローの背に突き立てた短剣から、感じられたものだった。


「百数十年もの時を生き、本来ならこの世に存在するはずのないホスロー様が、アルフラさんを……あんな小さな少女の運命を閉ざそうとすることが――許せなかったのです」


「何をいまさら……お前はこれまでどれ程の――」


「私はッ! これが、自分に出来る最善の行動だと……思っています」


 瞳を揺らめかせ、フレインは顔を伏せた。


「己に出来得る最善を尽くせ……これは、大導師様のお言葉です」


 確かに、ホスローが以前に告げた言葉だ。


(目的を定め、それを成そうとする時、事の善悪を思い悩むのは愚かな行いだ)


 そうフレインへ言ったのが何時(いつ)のことであったか、ホスローには思い出せなかった。


(ひとたび心を決めたなら、あらゆる状況を考え抜き、己に出来得る最善を尽くせ)


 復讐を遂げた今でも、その思いは変わらない。


(それでこそ、想定される被害や犠牲も、最小に抑えられるというものだ)


 わずかに残っていた人間らしい情が、みずからの行いを正当化しようとして出た言葉、なのかもしれない。


「その答えが――これか?」


 ホスローの背に半ばまで刀身を埋めた短剣。それはフレインがレギウス大神殿へ赴き、入手して来たものだった。

 レギウス神教の頂点に立つ、大司祭みずからが洗礼を施した品である。


「お前は本当に……よく考えたのか?」


 それに返される答えはなかった。フレインの肩は、先程から小刻みに震え続けている。


 ホスローは、アルフラへ向けられたフレインの想いに気づき、彼の動向を気にかけていた。

 だが、本気で彼が裏切るなどとは、微塵も考えてはいなかったのだ。

 幼少の頃より、手ずから魔術の手ほどきをし、フレインをここまで育て上げたのはホスローである。

 これまで手がけた多くの者達の中でも、取り立て優秀な弟子だった。その気質もよく心得ている。


 フレインはうっかり者ではあるが、思慮深く誠実だ。彼がギルドに逆らい、本気でホスローへ刃を向けるなど、意識の片隅にも浮かんでは来なかった。


「アルフラさんを救うには、こうするしかありませんでした。そしてこれが、彼女の望みでもあります……」


 うつむいたフレインの表情は見えない。だがその声色には、これ以上はないという程の悲壮感が溢れていた。


「莫迦者めが……ならばなぜ、ためらう? なぜその短剣を根本まで突き刺さない?」


 はっ、とフレインが息を呑む。


「その刃先は、我の朽ち果てた臓腑にすら、届いておらぬぞ」


 ホスローのまとった導衣から、凄まじい瘴気が溢れ出る。


「くっ――――あ――!」


 慌てて身を引いたフレインだったが、木卓に腰をぶつけ体が泳ぐ。

 態勢を崩し、地に打ちつけられたフレインは、尊師を仰ぎ見た。


 あまりに濃い瘴気。――それはフレインにもはっきりと目視出来た。ホスローを取り巻く死霊達の、不気味にうごめくその姿が。

 澱んだ魔力の中に、苦悶と憎悪に満ちた死者達の顔が浮かび上がる。

 そして、目深に降ろされていたホスローのフードが、はらりと垂れ落ちていた。


「ホスロー様……あなたは……」


 今まで、カダフィー以外は見た者の居ないといわれる大導師ホスローの素顔。

 それは、巷で噂されるような萎びた老人のものではなかった。――血色は悪いが、おそらくは三十代半ばほどの、壮健な男の顔だ。


「あなたはやはり……命ある者では――」


「そのような物……とうの昔にこの怨鎖の導衣に喰らい尽くされたわ」


 青ざめた顔でホスローは答える。


 フレインもある程度は予想していた。

 生身の人間では、近づくだけで体に変調をきたすほどの瘴気を放つ者が、はたして通常の生者であろうか。

 凱延との戦いで、多くの死霊を使役していたところも見ている。


 そして今、フレインは確信していた。

 百年を越えて生きる魔導師が、三十代の容貌であるはずがない。

 人では有り得ない。


 おそらく通常の武器では役に立たぬと考えたから、洗礼を受けた神聖な短剣を用意したのだ。


「驚いているようだな。こんな粗末な品で、我が身を滅することが出来るなどと……本気で考えておったのか?」


 その言葉と共に、ホスローの背から純銀の短剣が抜け落ちる。


「この呪われた身体を塵と()すには、かつて爵位の魔族を倒したとされる、伝説級の武具が必要であろうな」


「そんな……その短剣は、大司祭の洗礼を受けた……」


 法を司る神王レギウスの洗礼を受けた銀製の武器。一般的には生命の理に反する不死者に対し、絶大な効果を発揮すると言われている。


「これが、か?」


 ホスローが、床に転がる短剣に視線を落とす。


「大司祭の質も、ずいぶんと堕ちたものだ――狂信者の積んだ徳など、たかが知れているというよい証拠だな」


 フレインはホスローから視線を外すことなく立ち上がる。そして、導衣の胸元から拳大の水晶球を取り出した。


「戦おうというのか? この我と」


「くっ……」


 対峙するのは、おそらく当代で最高とされる大魔導師。この大陸において、比肩しうる者のないと言われる魔術の使い手だ。

 正面から争って、フレインに勝てる見込みは万に一つもない。


「そこまで、あの小娘にたぶらかされおったか」


 ホスローの身から湧き立つ死霊達が、ざわりと揺れる。


「……あの娘のことは、諦めよ。――そうすれば、こたびの件は不問としよう」


「わ、私は……」


「フレインよ。そなたには見込みがある。研鑽を重ねれば、我に劣らぬ導師にも成れよう」


 ゆっくりと、一歩踏み出したホスローが手を差し延べる。


「そなたの未来を奪いたくはない。……あの娘のことは、忘れるのだ」


「それ、は……出来ません」


 悲痛な面持ちで、フレインはかぶりを振る。


「そなたは聡明だ。あの娘を救おうとすれば、このレギウスにどのような事態が引き起こされるか……想像は付くであろう」


「それは……」


「魔王雷鴉の意に逆らい、あの灰塚と敵対するに等しい行いだ。最悪、レギウス教国は焦土と化すのだぞ。そうなれば、この国に暮らす多くの民草はどうなる」


 フレインには、答えることが出来ない。


「そなたは、何十万にも及ぶ人命と、あの娘一人の命を天秤に掛けることが出来るのか?」


 やはりフレインには、答えることが出来なかった。

 彼はアルフラのように、あらゆるものを犠牲にしてでも遂げたいと言い切れる程、身勝手な想いを持ってはいなかった。人としての良識、道理、理性といったものが、それを否定するのだ。


「もし、わずかなりとも思い悩むようなら、その道を歩むことは――」


 まな弟子を見るホスローの目には、慈しむと言ってよい感情が浮かんでいた。


「――フレインよ、そなたには無理だ」


 すでに心は決めたはずだった。

 育ての親にも等しい恩師を(しい)し、その後に起こる混乱をなんとか治めようと計画も立てていた。しかし、フレインはこれまでの半生を勉学に費やし、荒事には慣れていない。


 いわば、象牙の塔の住人ともいえるだろう。


 みずからが手を汚さねばならぬ段となって、とてつもない罪悪感と恐怖とが、彼の心胆を縛りつけていた。


「一度の(あやま)ちを断罪しようとは思わぬ。我に忠誠を誓えとも言わぬ。――ただ、このレギウスの為、そして国を支える多くの人民の為に、忠心せよ。――それが、そなたの為にもなろう」


 死者である恩師の見せた温もりに、フレインは目頭が熱く潤むのを感じた。


「ホスロー……さま……」


 アルフラを救うという決意が、いかに薄っぺらいものだったかを、フレインは否応なしに悟る。


 ――――だが


「遅いのです。すでに後戻りは、出来ないのです…………すみません、ホスロー様……」


 瞳を閉じ、フレインは涙した。


 ホスローは眉根を寄せ、眉間に深いしわを刻む。


「フレイン……?」



 その時、ホスローの背後で蝶番(ちょうつがい)が軋み、扉の開かれる音が聞こえた。





「ふふふ、だめじゃないフレイン」


 打たれたように振り返ったホスローの眼前で、少女が笑っていた。


「あなたがどうしてもって言うから、任せたのに」


「お前が、なぜここに……? フレイン、まさかそなたは――」


「もうしわけありません。……もはや私に、戻る道などないのです」


 抜き身の細剣を手にしたアルフラが、室内へ踏み入る。

 ぞっとするような冷たさが周囲に満ちた。

 死霊達が怯え、恐怖を帯びた金切り声が上がる。


「あたしからすればそいつは敵だけど、あなたにとってはお師匠さまなんでしょ? やっぱりあたしが、殺してあげるわ」


 狭い小部屋の中、一歩踏み出せば細剣が届く距離だ。アルフラにとって、間合いは無に等しい。


「――小娘。お前は……」


 じりと、ホスローは後ずさる。

 目の前にするのは、あの凱延を倒した少女だ。

 いかなホスローといえど、なんの備えもなしに勝てる相手ではない。

 背を見せることなく、背後の扉へと大きく飛びのく。


「ッ――」


 だが、距離を開くことは出来なかった。

 ホスローが下がる以上の速さで、アルフラが前へ出る。


 冷気を放つ刀身が閃く。

 その軌跡は、切り裂いた音すら凌駕した。


 ホスローには目で追うことも(かな)わなかった。

 細剣が胸の中心を刺し貫き、背にした扉をも穿つ。


「グッ、ガァァ――――!」


 そのまま細剣は横に薙がれ、扉の木片と金具、ホスローの骨片と血塊が飛び散った。

 よろめきながらもホスローは上体を支えた。その身から湧き出す瘴気が、無数の死霊へと姿を変えて腕を伸ばす。


「う……」


 そのあまりの不気味さに顔をしかめながらも、掴みかかる幽体の腕をかい潜り、ホスローの頭部へ斬りつける。

 左のこめかみから入った刃は、頭蓋を断ち割る手応えを伝え、不死の魔導師は顔の右半分を失っていた。


 相手が生きている人間ではないことを心得ているアルフラは、それでも手を止めない。

 振り下ろした細剣を逆袈裟(ぎゃくけさ)に斬り上げる。

 さらに白刃が翔け、崩れ落ちようとした体から首を()ね飛ばした。

 その勢いのまま、くるりと身を捻り、遠心力の乗った斬り払いを放つ。


 剣撃は止まらない。


 風に巻かれた木葉のように、導衣をまとった体がくるくると舞う。


「ア、アルフラさん! もう……もう止めて下さい!!」


 暴風のように荒れ狂った乱舞が終わりを告げた時、ホスローの身体はずいぶんと小さな塊となっていた。


 アルフラは完全にホスローが動かなくなったことを確認し、細剣を一振りした。こびりついた黒い体液が刀身から飛び散る。


 ふとアルフラが、地に転がるホスローの頭部へと顔を向けた。

 つられてそちらを見たフレインの喉から、引き攣ったような呼吸音が洩れる。


「――ッ――――!?」


 グロテスクな断面を見せる顔の下部で、微かにホスローの唇が動いていた。


「…………ヴァ、レ……リー……」


 切れ切れにつぶやかれたその名が、百ニ十年前、凱延により殺されたホスローの妻のものであることを、フレインとアルフラは知らない。



 じっと凝視する二人の前で、ふたたびホスローが言葉を発することはなかった。





 本物の亡骸(なきがら)と化したホスローの身体から、揺らめき立つ死霊が泣き叫んでいた。


 アルフラは気味悪そうにして、壁際へ身を寄せる。

 剣で斬れなそうな相手は苦手だ。


「きもちわる……」


 白蓮から貰った細剣でなら斬ることは出来ると思うが、試してみる気にはならなかった。

 気味が悪いし、大事な剣をそんなことには使いたくない。

 危険はないか周囲を見回したアルフラの目が、どす黒い血を流すホスローの体に止まる。


 じっと凝視するその視線に、フレインは何か不穏なものを感じた。


「さすがにお腹こわしちゃうかな……」


 ぽつりとつぶやかれた言葉に、フレインは棒を呑んだように立ち尽くした。

 アルフラが屍の方へ歩き出す。


「ア……アルフラ、さん?」


 死霊達が暴れ、悲鳴を上げた。近づいて来る少女から、なんとか逃れようとしている。


 突然、ホスローの体がぐずぐずと溶け崩れだした。辺りに散らばった肉片も、同じように形を失ってゆく。


「あっ――――」


 まさにあっという間だった。

 後には、床に張り付いた黒いシミと、漆黒の導衣だけが残されている。

 まるで、慌てて駆け寄ったアルフラの前で、ホスローの中で止まっていた時間が一瞬で過ぎ去ったかのようだった。


「……もったいない」


 とんでもない感想をアルフラが口にした。

 呆然と床のシミを見つめる。

 不意に、そこからぼんやりとした白い霧のようなものが立ち昇っていることに気づいた。


「…………?」


 先程までホスローであった黒いシミから湧き出た魂魄。それは呪詛(ずそ)の凝り固まったかのような導衣に引き寄せられて行く。


 怨鎖の導衣。生命の神秘を探究する過程で生み出された古代の呪具。それは今、所有者の魂すら、己に縛り付けようとしていた。


 素早い動作でアルフラの手が走る。

 猫の仔が、思わず動く物に反応してしまったかのような動きだった。


 掴もうとした手はすり抜けてしまう。だが、アルフラから流れ出る冷気に触れ、凍りついたように白く染まった魂魄が腕に絡みついていた。


「――――??」


 ややおっかなびっくりそれを見ていたアルフラは、匂いを確かめるように鼻先を近づける。


「………………」


 やがて、アルフラの唇がぱっくりと開かれたのを見て、フレインはあまりのおぞましさに顔を背けた。


「―――――っう、ぇえぇぇ」


 えずくような呻きが聞こえ、フレインは視線を戻す。



 アルフラが舌を突き出し、ぺっ、ぺっとナニかを吐き出そうとしていた。

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