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氷の滅慕  作者: SH
六章 悲恋
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殉教者たち



 一行の旅は順調だった。

 ロマリア王国と沿岸都市国を(へだ)てる峠の村で一泊し、翌早朝にはこれを後にして山間(やまあい)の道を進んで行く。峠道とはいえ交易路でもあるこの街道はよく整備されおり、馬車の往来にもさほど問題はない。ゆるやかな斜面は正午を越えたあたりで下り坂となり、鬱蒼(うっそう)()(しげ)った樹木にも植生の変化が見られた。背の高い広葉樹林のなかに堅い樹皮を備えた硬葉樹が目立ちはじめたのだ。これらは沿岸部特有の植物であり、とりもなおさず海が近いということの(あらわ)れでもあった。

 午後からの道行(みちゆ)きもまたなだらかな斜面で、途中で行き合った隊商から峠を(くだ)りきった辺りに野営地があることを教えられた一行は、そこで夜を明かすことに決めた。





 深夜、シグナムと二人不寝番(ふしんばん)をしていたルゥは、うつらうつらとたき火の前で船を()いでいた。そんな狼少女が不意にぱちりと目を覚ます。そして鼻をすんすんとならし、となりに座ったシグナムの袖を引く。


「おねえちゃん、森のなかにだれかいる」


「……また山賊か。何人くらいだ?」


 木立(こだち)の暗がりに顔を向けたシグナムが目を細める。


「たぶん三人」


 長剣を片手に立ち上がったシグナムは闇の向こうを透かし見るが、これといって気配らしきものは感じられない。

 何者かは知れないが、相手は(あか)りも持たずに森のなかで息を潜めているらしい。

 かるくため息を落としたシグナムは、おもむろにたき火の炎を踏み消す。一方的にこちらの姿だけを見られている現状は、あまりうまくないと感じたのだ。弓や投擲具の的にされる可能性を考慮しての行動である。

 新月が近いため月明かりも薄く立ち込めた闇は深い。だが人狼であるルゥにはむしろ好都合だ。狼は夜行性の肉食獣であり、森は格好の狩り場なのだから。相手がただの人間ならばなんの苦もなく無力化できるだろう。しかし――


「……あ」


「どうした?」


「にげてっちゃったみたい」


「そうか……たき火を消したのはまずかったな」


 おそらく夜襲を掛けるつもりがそれを気取(けど)られて逃げ出したのだろう。シグナムはそう当たりをつけたようだ。

 どうする? と問いかけるようにルゥはシグナムを見上げる。


「いや、追わなくていい。土地勘がないところで動き回るとだいたいろくなことにならない」


 ルゥはすこし残念そうだ。逃げるものを追いかけたくなる本能が働いたのだろう。そんな狼少女の髪をぐりぐりとかきまぜ、シグナムはいたずらっぽく笑う。


「あしたにはびっくりするようなもん見せてやるから今はおとなしくしてな」


「びっくりするもの? なにそれ??」


「気になるか?」


「うん!」


「そいつは見てからのお楽しみだな」


「ええー、おしえてよ!!」



 好奇心に瞳をかがやかせたルゥをあしらうことで、シグナムは退屈な不寝番をやり過ごすことにしたようだ。





 翌日、馬車を走らせること一時半(いっときはん)(約三時間)。照りつける太陽も高く昇りきった頃合いに、シグナムは馬を止めて馬車の戸を叩いた。


「おい、ちょっと降りてきてみな」


「どうしたのですか?」


 車内から顔をのぞかせた神官娘がかるく首をかしげる。


「あら、この匂いは……?」


 それには頓着(とんちゃく)せず、シグナムはジャンヌの膝枕でお昼寝中のルゥを揺り起こす。


「ほら、起きなって。海が見れるぞ」


「海――」


 神官娘の視線がシグナムを通り越し、その背後に広がる景色へと注がれた。ジャンヌの(あお)い瞳が大きく見開かれる。


「ルゥ、ルゥ! 起きてください!」


 やや興奮気味のジャンヌが狼少女の頬をぺちぺちと叩く。内陸に位置するレギウス教国は海に面していないため、ジャンヌもそれを目にしたのは初めてだったのだ。


「……んぅぅ。なにぃ~?」


 いささか乱暴な起こされかたをしたルゥが不機嫌そうな声をあげた。


「海です! 見てごらんなさい。海ですわ!」


 目をこすりこすりそちらを向いたルゥも、神官娘と同じようにどんぐり(まなこ)をまんまるにした。


「わああ、うわあぁぁ――なにこれ!? すっごい!!」


 車外に飛び下りた狼少女は歓声をあげてぴょんぴょんと飛び跳ねる。その様子を微笑ましげに見守っていたフレインが、馬車の戸口から呼びかけた。


「アルフラさんもご覧になられてはどうですか。海を見たことはありませんよね?」


 あまり興味なさげにちらりとだけフレインに視線を向けたアルフラだったが、外気に混じる(いそ)の匂いが気になったらしく、顔だけをひょこりと馬車からのぞかせる。


「あ……」


 外の景色を見やったアルフラはめずらしく驚いた様子だ。普段の超然とした雰囲気はきれいに(さん)じ、あどけなく開かれた口からは白い八重歯が見えている。シグナムなどは海よりもその表情のほうがよほどめずらしかったらしく、(ほう)けたようにアルフラの顔を見つめていた。


「おねえちゃん! おねえちゃん! あっちのほうでなにか跳ねたよ!」


 海を指さして袖をぐいぐい引っぱる狼少女に、シグナムは気もそぞろな様子で答える。


「ん? ああ、魚じゃないか?」


「おさかながいるの!?」


「そりゃいるだろ。これだけ広いんだからルゥだって食べきれないほど泳いでるはずだぞ」


「わはぁ――!」


 狼少女は感情の高ぶりをこらえきれなくなったようだ。石畳で舗装された街道から飛び降りて、裸足のままぺたぺたと砂浜を走る。波うち際まで駆けよると、海水の冷たさに驚いたように後ろへぴょいっと身を逃がす。そしてそのまま眼前の景色に言葉を失ってしまう。

 海原(うなばら)は見渡す限りに青かった。降り注ぐ陽光が水面で跳ね、波頭(はとう)の輪郭を見事な金色に染めている。

 空もまた青く。どこまでも青く。その果てでは蒼天の青と金碧(こんぺき)の青とが溶け合い、複雑な深青色(しんせいしょく)(とばり)を降ろしていた。

 足許に視線を落とせば、寄せては返す(さざれ)の波が白く砕けて真砂(まさご)を染める(いろど)りとなる。

 茫然(ぼうぜん)と立ち尽くす狼少女は、なぜだか悲しくもないのに泣きたいような気分となり、困惑してしまっていた。

 ルゥがアルフラたちと出会ってからおよそ十ヶ月。それまでは野生の狼とあまり変わりのない生活を送っていたため、ルゥにとって自然というものは極々あたりまえに存在するものであり、それを当然と受け止めていた。しかし多くの人間と交わり、旅の中で知見を広めることにより、狼少女の自我と精神は大きく成長していたのだ。その感性にも変化が訪れ、雄大な自然を()の当たりにして胸に迫る思いを覚えた。



 ルゥが初めて感動という心の動きを得た瞬間であった。





「――ルゥ、戻ってこい!」


 シグナムの鋭い呼び声で、狼少女の忘我(ぼうが)の時間は不意に途切れた。

 振り返ると臨戦態勢の仲間たちが街道の先を見据えている。その視線を追うと、武装した神官戦士の一団が近づいて来ている様が見て取れた。得物を構えたシグナムのそばまで駆け戻ると、その横をすっとアルフラが通りすぎた。


「あ……」


 なにかを言いかけたシグナムであったが、あきらめたように肩を落として長剣を腰の鞘に収める。

 およそ百名ほどの神官戦士に向かうアルフラの背にジャンヌが声をかけた。


「あの者たちは闘神へリオンの信徒です。誤った教義にとらわれた(あわ)れな魂を、どうか(とこしえ)安寧(あんねい)にお導きくださいませ」


 両手を組んで、真摯な祈りをみずからの神に捧げるジャンヌであったが、要約するとそれは異教徒を皆殺しにしてくれという実に酷い内容であった。

 神官戦士たちが歩みを止めて声をあげる。


「そなたらに問いたい。我々はへリオン様から神託をいただき、天上において大逆を為した者を――」


 聞く耳持たず、歩みを止めないアルフラを前に、神官戦士の声が途切れる。そして前列の者たちが半円形に散開し、アルフラを囲いこむ立ち位置を確保する。

 神官戦士たちは修道服の上から金属製の胸当てを着こみ、手には鋼の手甲を装着していた。拳の神と呼ばれるへリオンの信徒らしく、刀剣のたぐいを持つ者はいない。みな一様(いちよう)に無手だった。――しかし、神殺しを行った者に対する備えはしてきたようだ。最前列に立つ十名ほどが、かついだ背嚢(はいのう)の中から投網(とあみ)らしきものを取り出した。

 彼らが手にしているのは太い縄を結い上げ、そこに無数の鋼線を編んだものであった。投網には香油が塗り込んであるらしく、各所が鈍色(にびいろ)に艶めいている。これは刃物などでの切断を困難にするためだろう。

 神官戦士たちが腰を落として投擲の構えを取る。網裾(あみすそ)(おもり)がじゃらりと硬質な音を鳴らした。その様子を見たアルフラは――(あざけ)るように口角を持ち上げて笑った。同時に背後からシグナムの細い嘆息(たんそく)が聞こえた。

 たしかに鋼線を組んだ投網に絡め取られれば、どのような豪傑であろうと身動きができなくなるだろう。シグナム自身もそれをおのれに向けられれば非常に厄介だと感じる。それを持つものが十人。人一人を相手にするのであれば過剰なまでの備えだ。しかしシグナムたちであればすぐに理解できる(あやま)ちに神官戦士たちは気づけていない。なぜ神殺しに対して、人間へ対する備えをしてしまったのか。――だが、人というものは埒外(らちがい)の存在を想像できるようには作られていない。まず人の身でありながらアルフラの前に立つこと自体が(あやま)りだったのだ。

 神官戦士たちとの距離はおよそ三十歩。そこでアルフラは立ち止まり、魔剣の柄に手をかける。すでに一足飛びで間合いを消せる距離だ。――周囲に緊張が走り、潮騒(しおさい)以外の音が()せる。

 アルフラが腰を落としてゆっくりと魔剣を引き抜こうとした瞬間、神官戦士たちが一斉に網を投擲した。蜘蛛の巣のように開いた投網がアルフラの頭上、左右、前方から迫りくる。それらは獲物を絡め捕った直後、白く凍りつきひび割れた。

 いまにも襲いかかろうと拳を構えていた神官戦士たちが、ぎょっとした顔でアルフラから身を引く。彼らは刀剣により網が切り裂かれないための対策は講じていたが、まさかそれが()てつき砕かれるとは予想もしていなかったのだ。

 アルフラが勢いよく抜刀すると、動きに合わせて無数の氷片が撒き散らされた。そしてそのまま上半身を沈みこませるように姿勢を低くし、瞬時に距離を詰め切る。魔剣が弧を描き、正面に立った犠牲者へ降り下ろされた。鋭利な刃は神官戦士の手甲ごと腕を切断し、袈裟懸(けさが)けに右の肩へと潜り込む。そのまま鎖骨を断ち割り、肩甲骨(けんこうこつ)を両断し、右肺を裂き、心臓と胸骨を破壊したのち左のわき腹から刀身が抜ける。傷口からは大量の血液が吹き出し、神官戦士の上半身が斜めにずれ落ちる。隣に立っていた男が言葉にならない悲鳴をあげながらも、反射的に仲間の上半身を支えようとした。――しかしその首が魔剣の一振りで宙に舞う。

 さらにアルフラは大きく踏み込み次の神官戦士を魔剣で串刺しにする。喉を貫かれて血を吐き出した男を左手で引き倒し、その背中を踏み台とする。身を(おど)らせたアルフラは着地と同時に魔剣を降り下ろし、一人の頭蓋を二つに分けた。そして背後を取ろうと立ち位置を変えた男へ顔を向ける。冷たい視線を受けた神官戦士が怒号をあげて拳を振るった。人の頭蓋骨を容易(ようい)に砕くであろう一撃は魔剣の柄に打ち落とされ、彼は左の胸に寒々とした刃の感触を味わう結末を迎えた。

 アルフラは心臓に突きこんだ魔剣を横に薙ぎざま、左側面から襲いかかってきた神官戦士を切り伏せる。

 わずか一呼吸ほどの間に六人の仲間を斬殺された闘神の信徒たちは、おそるべき偽神の(わざ)に気圧されて包囲の輪を無意識の内に広げてしまっていた。

 白い氷雪まじりの吐息がアルフラの唇からこぼれ落ちる。神官戦士たちの脆弱(ぜいじゃく)さに、そのあまりの容易(たやす)さに、思わずため息が()れてしまったのだ。彼らは人間の尺度を用いて計ってみれば、およそ達人と呼ばれてしかるべき者たちであった。――しかしそれでは物足りない。アルフラの脳裏に、ロマリアの都で威風堂々と立ち向かってきた魔王との戦いが思い返される。その夢想のあとで現実へと目を向ければ、ふたたび失望のため息がこぼれ出るのも(いた)(かた)のないことであろう。



 そこから先の惨劇は、とても作業的に行われた。





 半刻(約十五分)と()たず、街道に百体ほどの遺骸が敷きつめられた。石畳は臓物()じりの血に染まり、生ぐさい臭気を漂わせる赤い街道となっていた。最後の一人まで退()くことなく戦った、(つわもの)たちの殉教(じゅんきょう)の跡であった。


「……馬鹿な奴らだ」


 憐れみの眼差(まなざ)しとともに吐き捨てたシグナムとは対照的に、喜色を浮かべたジャンヌが見事に散った神官戦士たちへ祈りを捧げていた。


「シグナムさん」


 眉をひそめてジャンヌを見やっていたシグナムは、フレインの呼びかけに振り返る。


「遺体の処理はどうなさいますか? ここはエンラムからさほど距離もありませんし、このまま放置しておくわけにもいかないと思うのですが」


 一行が向かう沿岸都市エンラムは馬車で半日ほどの距離だ。これだけの死体が街道に転がっていれば確実に大きな騒ぎとなるだろう。都市への出入りは検問の上で厳重に管理され、交易船の出航にもそれは当てはまるはずだ。そして一行の情報は闘神へリオンの神託により、広く信徒たちに知れ渡っている可能性が高い。魔族の領域に渡航するという目的の障害となるだろう。それ以前にエンラムの衛兵と闘神の信徒が一行の到着を待ち構えているという状況も想定される。


「……おい、ジャンヌ。へリオンの神官たちってのはエンラムの衛兵を動かせる影響力はあるのか?」


 祈りの途中であった神官娘はすこし迷惑そうな素振りを見せるが、シグナムへと向き直ってその問いに答える。


「レギウス教国とは違ってそこまでの力はないかと思います。それに闘神へリオンの神殿は都市部から離れた場所にあることが多いので、その手の繋がりは薄いはずですわ」


「そうか……」


 しばし黙考したシグナムはフレインへと顔を向ける。


「死体はともかく血痕の方はどうしようもないぞ」


「そうですね……最悪、私たちがエンラムから出航するまでの間、死体さえ見つからなければなんとかなるのではないでしょうか?」


「……そいつは無理だろ。これだけ敷石が血塗(ちまみ)れなんだぞ。衛兵に通報が行ってすぐに周囲の捜索が始まる。百人分の死体なんて隠しようがない」


 シグナムは一瞬、アルフラならどうにかできるのではないかと思ったが、おそらく氷漬けの死体が無数に出来上がるだけだろうという結論に達した。どう考えても犯行現場の異様さが際立つだけだ。


「海に流すのはどうでしょう」


 いいことを思いついた、という顔でジャンヌが提案した。


「沿岸部には水葬という風習があると聞いたことがありますわ」


「却下だ。こんな浜辺から海に放り込んでもすぐ波に戻されちまう。下手したらエンラムの港に流れ着くぞ」


 それまで黙って聞いていた狼少女は、街の近くにぷかぶか浮かぶ多くの死体を想像して、残念なものを見る目をジャンヌに向けた。


「ではホルムワンド商会を通じてエンラム王に便宜を図ってもらうというのはいかがですか」


 フレインがいくらか現実的と思える案を提示した。


「エンラム王から私掠船免状(しりゃくせんめんじょう)を受けているホルムワンド商会であれば、話を通すことは可能かと思います。私たちにはエルテフォンヌ伯爵からの紹介状がありますし、交渉次第では――」


「いやいや、百人からのへリオン教徒を殺したんだぞ。それを不問にしてくれって頼むのか?」


「……そうですね。仮に出来たとしても、とんでもない金額を要求されそうです」


 その言葉を聞いたシグナムは、音を鳴らして手を叩いた。


「あ、金ならあるな……。エンラム王が私掠船免状なんてもんを発行するような奴なら、金さえ積めば意外となんとかなりそうだ」


「では遺体の方は――」


「そりゃ放置して行くしかないだろ。どこかに隠すにしろ埋めるにしろ時間がかかりすぎる。そんなことやってる間に人が通りかかるぞ」


「そうですね。仕方ありませんか……」


「ああ、早くここから離れた方がいい。だいぶ時間も食っちまったしな。こんなところを誰かに見られでもしたら口封じに死体を増やす破目(はめ)になっちまう」


「それは……もう手遅れかもしれません」


「……あ?」


 フレインの視線はシグナムの肩越しにその背後へと向けられていた。

 街道の右手は防風林を兼ねた松林となっており、そちらへ振り返ったシグナムは押し殺したうめき声をあげた。――松林のなかからぞろぞろと、修道服をまとったちいさな子供たちが出てきていたのだ。


「まさか神官戦士たちの……」


 おそらく闘神へリオンの信徒は、子供たちが戦闘に巻き込まれないよう離れた場所に待機させていたのだろう。もしくは彼らの神殿自体が思いのほか近くに位置しているのかもしれない。

 立ち尽くすシグナムの視線の先で、二十人ほどの子供たちが神官戦士の遺骸に走り寄っていく。そのほとんどが十歳前後の男女であった。


「――お父さん!!」


 血溜まりの中にしゃがみこんだ女の子が、悲痛な声をあげた。目の前には天を睨む無惨な生首が転がっていた。涙を流しながら悲鳴を上げ続ける少女が、変わり果てた姿の父親を抱き上げる。その光景を()の当たりにしたシグナムは片手で顔を(おお)い、ぎちりと歯を噛み締めた。修道服を血塗れにして父親の生首を抱く少女を見ていることができなかった――わけではない。その(あわ)れな女の子を見殺しにするしかないという現実に、吐き気を(もよお)したのである。……聞こえてしまったのだ。



 シグナムの背後から、魔剣を抜刀する鞘鳴(さやな)りが。

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