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氷の滅慕  作者: SH
五章 絶愛
171/251

人狼と吸血鬼



 アルフラたちが王都へ帰還してから数日が過ぎた。

 ギルド本部にそれぞれ客室を与えられていたシグナムとルゥであったが、狼少女はシグナムの部屋に居座り、空いた部屋にはなぜかジャンヌが寝泊まりしていた。ルゥとしては毎日ジャンヌと遊べてうれしいのだが、やや不満もある。カミルとジャンヌが一緒にいる時間も増えたのだ。

 ジャンヌは連日に渡り、ルゥとカミルに舞踏の手ほどきをしていたのだが、明らかに二人の扱いには違いがあった。ルゥに対しては普段と変わらず接するのだが、カミルに踊りの指導をするときは、どこかぎこちなく体を強張らせ、すこし手が触れただけでも頬を染めてしまう。カミルの方もあからさまに動揺して、恥ずかしげにうつむいたりしていた。それを見ると、ルゥはなんだかもやもやとした気分になってくる。


 今も二人は、手を取り合って初歩的なステップの練習をしていた。しかしなぜか、ジャンヌは怒ったような顔で赤面している。教える側がそんな感じなので、カミルにも一向に上達が見られず、結果、二人で練習している時間が長くなってゆく。

 たいくつしてしまったルゥは、その場を離れてギルドの敷地でお散歩することにした。練習の邪魔をすると、ジャンヌから怒られてしまうのだ。なまいきな子分である。

 本来二人が仲良くするのは喜ばしいことだ。群れの者同士が(つがい)となり子をなせば、それが新たな一員となり、群れは栄える。ルゥは子分たちを祝福し、早く群れの仲間が増えるといいな、と思っていた。現在の群れのボスはシグナムである。だが、ジャンヌとカミルがたくさん仲間を増やして群れが大きくなれば、やがてルゥは子分たちを率いて独立し、みずからの群れを持つことができる。それは非常に喜ばしいことなのだ。――が、仲睦(なかむつ)まじい二人を見ていると、どうしたことか憂鬱になってしまう。とてもあんにゅいだ。心がくらうでぃである。


 中庭をぐるっと一周して、ルゥは二人が練習をしている広間に戻った。

 扉を開くと、その音に気を取られたカミルがつまづいて、ジャンヌとぶつかってしまった。

 二人は抱き合うような態勢で一瞬硬直し、ジャンヌが反射的にカミルを突き飛ばす。小柄な見習い術士は、たたらを踏んであおむけに倒れた。


「あっ……もうしわけありません」


「い、いえ。僕のほうこそ、ええと、すみませんでした」


 床に転がったカミルを助け起こそうと、ジャンヌが手を差しのべる。それ見て、ルゥはぱたりと扉を閉めた。

 狼少女はそのままギルドの地下へと向かう。

 階段の前には四人の術師が警備にあたっていた。彼らはシグナムとルゥは素通りさせるようフレインから指示されていたので、その姿を認めるなり左右に別れて道を空けた。

 不機嫌そうに、ぷくりと頬を膨らませた狼少女を見る術師たちの目は、とても微笑ましげだ。

 地下通路を進み、ルゥは秘密の小部屋に入る。隠し階段をのぼりながら、貫頭衣の腰ひもに差した木の棒を手に取った。最近のアルフラは、杖をつかずに歩けるほど回復しているので、そろそろ遊んでくれるかもしれない。女吸血鬼も棒を投げてくれるよう言っていた。そんなことを考え、にっこりとしつつ狼少女はギルドの裏庭へ出る。

 四方を壁と建物に囲まれた空間で、アルフラが杖を振っていた。それを剣に見立てて訓練をしているようだ。しかし、下生えからまばらにのぞく土を踏みしめ、アルフラが片手で杖を振るたびに、上体がおよいでしまっている。右腕を失い、重心が正中線からずれてしまっているため、バランスが取りにくいのだろう。杖に振り回されている状態だ。

 アルフラの左手に巻かれた包帯は、所々が赤茶けており、指の関節部が特に汚れている。閉じることが出来ない手を無理に握りしめて、皮膚が割れてしまったのだ。その姿は見るだに痛々しく、ルゥはしゅんとしてしまう。


「アルフラちゃん!」


 強く杖を薙いだはずみに片膝を付いてしまったアルフラへ、シグナムが駆けよった。


「無茶しすきだ! 急ぐ必要なんてないだろ? もう杖を使わなくても歩けるようになったんだから」


 心配げにその体を支えたシグナムに、アルフラはちいさくつぶやく。


「あたし、木剣がほしい」


「……アルフラちゃん、お願いだ。しばらくは戦いのことなんか忘れて、体を治すことに専念してくれよ」


 シグナムはおそれているのだ。アルフラが戦えるほどに回復して、勝ち目のない相手に挑み、命を落としてしまうことを。だが、ルゥはそれが杞憂だと思っていた。おそらくアルフラは、もう戦うことは出来ない。自然界において、不具となった者は死を待つ以外の選択肢などない。人間なら仲間に助けられ、生きていくことも出来るだろう。しかし、目と腕を失った者が戦うことは不可能だ。


 じわりと、大きな瞳がうるむ。

 ルゥが知る誰よりも強かったアルフラの、そんな姿を見たくなかった。

 いいえぬ思いが、胸の奥でくすぶっていた。ルゥの感じたそれは、おそらく厭世感(えんせかん)と呼ばれるものなのだろう。

 いたたまれなくなった狼少女は、こっそりと来た道を引き返した。

 あんな様子のアルフラを見てしまうと、遊んでほしいなどとは言えない。

 地下の階段をのぼると、たむろっていた四人の術師が、ルゥを見てぎょっとした顔をした。狼少女の行きと帰りの落差に驚いてしまったのだ。


「……ほら」


 彼らの一人がくしゃくしゃの布を差し出した。それで顔を拭け、という仕草をする。

 狼少女はぐしぐしと目許を擦り、鼻をちんしてから布を返す。

 すこし嫌そうに受け取った術師が、こんどは小さな茶色いかけらを摘まんで、ルゥの鼻先に突きつけた。


「乾パン、食うか?」


 狼少女は、それをぱくりとお口でいただく。


「……ありがと」


 ぽりぽりやりながら礼を言った。

 そして歩き出したルゥは、所在なくギルドの中をぶらつきながら、どうしたものかと考える。

 アルフラとは遊べそうもないし、ジャンヌとカミルは二人で楽しそうだ。


 行き場がない。


 部屋に戻ってお昼寝でもしようかな、と自室へ向かいかけて、


「……あっ」


 ルゥはぽむっと手をたたいた。そのままてとてと階段まで引き返す。

 術師たちが、え? また来たの? という顔をしている横を通り抜けて、地下へと下りる。そして通路の奥からさらに階段を下りて地下三層にでた。

 あたりは真っ暗である。明かりはないが、ルゥはへっちゃらだ。狼は夜行性なのだから。

 ここまで来たのは初めてだったが、目的地はあらかた見当がついた。

 まだ日中なのに、夜の気配がする。それを辿ってゆき、分厚い扉の前で足を止める。

 きしむ蝶番(ちょうつがい)の音に、すこしびっくりしながら石室に入ると、正面奥には立派な(ひつぎ)が鎮座していた。ルゥはそれを、つま先でこづく。


「……人の寝床を足蹴にするんじゃないよ」


 まあだいぶ前に人間辞めてるけどね、というつぶやき声とともに棺が開いた。


「どうしたんだい、人狼の嬢ちゃん」


「あそぶ?」


「いや、遊ばないよ。最近ちゃんと夜まで寝ないと肩こりがするんだ」


 すこし口をとがらせた狼少女は、棺の(ふち)に腰かけた。これで蓋が閉められないのでカダフィーは眠れない。


「いや、遊ばないからね?」


「じゃあ相談にのって」


「相談? 嬢ちゃんの怪我のことなら私にも無理だよ」


「うん、知ってる。そうじゃなくて、ジャンヌとカミルのこと」


 ふむふむっ、と耳をかたむける女吸血鬼へ、狼少女は近頃そのささやかな胸のうちを悩ませる事の次第を説明した。


「このもやもやした感じ、なんなのかな?」


「なるほどねえ……人狼の嬢ちゃん、あんた見所があるよ」


「うん? ボクは白狼の戦士だからね」


「この手の話を、あの唐変木の女戦士のところじゃなく、私に持って来るなんて……なかなか分かってるじゃないか」


 シグナムが唐変木なのはルゥも知るところだ。


「お姉ちゃんはね、そういうのからっきしなんだって。フレインが言ってた」


「そうかいそうかい」


 ご機嫌でうなずいたカダフィーは、ぴんっ、と人差し指を立てる。


「教えてあげるよ。あんたが感じてるのはね、そりゃ独占欲だ」


「どくせんよく? なんか強そう……」


「嬢ちゃんはね、カミルに玩具(ジャンヌ)を取られそうになって、焦燥感を持て余してるんだよ」


「しょーそーかん……」


 なにをどう理解したのか、狼少女はぶるりと震えて首をすくめた。


「要するに、ジャンヌを独り占めしたいけど、どうすればいいのか分からなくて焦ってるのさ」


「……そうかなあ?」


「そうだよ」


 やや納得のゆかないルゥへ、カダフィーは尋ねる。


「あんたはジャンヌのことを、どう思ってるんだい?」


「すきだよ」


「どういうところが?」


「んー、いいにおいするし、いやがる顔とか……泣いてる顔とか見るとなんかどきどきする」


「……なかなか上級者の意見だね……」


 すこし(かたよ)った性癖の垣間見える所感を述べた狼少女が、はっと息をのむ。そして何かに気づいたというように、瞳をきらきらさせた。


「――そうだ! きっとこれが恋なんだ(たぶん違います)」


「ただの性欲だと思うよ」


 一人盛り上がる狼少女を尻目に、女吸血鬼はしばし思案する。


「……うん、でもまあ、そういうことなら協力してあげるよ」


「ほんと!?」


 カダフィーにはこれまで、ルゥに風邪の治しかたを教えたり、嘘泣きを伝授した実績がある。なので狼少女は、彼女のことを悪い意味で頼りになるやつだと思っていた。


「任せておきな。――そうだね、二日後の舞踏会にはあんたも出るんだろ? 私も行く予定だから、その場でジャンヌを口説くといいよ。いろいろと助言してあげるからさ」


「うんっ、わかった!」


「よし、いい機会だ、どうせならアイシャも連れてくといいかもしれないね。フレインとアイシャ、ジャンヌと嬢ちゃん。まとめて私がめんどう見てあげるよ」


「わぁい! じゃあボク、ちょっとジャンヌとカミルの様子見てくるね」


 あわただしく駆けだした狼少女は、扉の前で振り返り、にっこり笑った。


「こんど来るときは、おみやげに乾パンもらってきてあげるっ!」


「ああ、楽しみに待ってるよ」



 そう言って苦笑する、なにげに子供好きな女吸血鬼であった。





 同日同刻。ギルド内に割り当てられている魔導士サダムの居室には、同じ緋色の導衣の人物、フレインが来訪していた。

 卓を挟んで向かい合いった二人は、深刻な表情で今後の対応を相談していた。ホスロー失踪の真実が露見したのちの協議である。


「大陸西部に潜伏するとして、すでにある程度の目処(めど)はつけてある」


 そう語ったサダムは神経質そうな仕草で、手にした隠形(おんぎょう)の護符を指先で撫でていた。


「これと同じものを十日以内には人数分揃えるつもりだ。この護符を身に付けていれば、遠見の術も阻害出来る」


「助かります。やはりギルドの目を逃れるためには、遠見の術を無効化しないことには始まりませんからね」


「うむ、だが用心のため、最初の数ヵ月は一所(ひとところ)に落ち着かず、居場所を転々とした方がよいだろう」


「そうですね。カダフィーが中央神殿に向かったのち、まずは雪の少ない大陸南西部へ向かい、しばらくは移動を繰り返しましょう。旅に必要な馬車や荷は、私の方で準備をしておきます」


 卓上に広げられた地図を見ながら、フレインは頭の中で行程の算段を整える。同じく地図に目を走らせていたサダムは考え深げに告げる。


「おそらく、神族と魔族の戦いが終わるまではカダフィーも自由に動けまい。レギウス神が神託を(くだ)したのは、足らぬ戦力を補うためであろうから、カダフィーの独走は許さぬはずだ。その願いに応じて大導師様を殺した者の名を教えたとしても、制約(ギアス)の魔法が用いられると私は予想している」


「ええ、カダフィーもそう言っていました」


 制約の魔法とは、法を司るレギウス神の高司祭のみが使用できる高度な神聖魔法である。対象者になんらかの行動を強制、もしくは制限させる魔法であり、これの行使には、非常に複雑な儀式と高い魔力が必要とされる。そのため、レギウス神教の大司祭ですら、確実には成功させられないと言われている。しかし、神王レギウス自身であれば、それも容易な話だ。


「どう転ぶかは分かりませんが、戦況を注視する必要がありますね」


「うむ……不確定な要素も絡みはするが、大筋での方向性はこのようなところだろう」


 深く息をついたサダムへ、フレインは居住まいを正して黙礼した。


「今回の件にあなたを巻き込んでしまったことには責任を感じています。これもすべては私の見通しが甘かったせいだ。本当に申し訳ありませんでした」


「いや、元々お前を頼ろうとしたのは私の方だ。こうなる可能性があることも鼻から承知の上。頭を下げる必要はない」


 予想外に寛容な態度をとられ、フレインはよけいに恐縮してしまう。彼からすれば、どう罵られたとしても反論の余地のない現状だと考えていたのだから。


「私はな、フレイン。もう長いことギルドの裏方として、ずいぶん汚い仕事も任されてきた。下手に事情に通じているため、今さら足抜けも出来ん。――ここらが、いい潮時なのではないかと、そう考えていたのだ」


「そうですか……」


「だが、私は構わんが、むしろお前の方が(こた)えるのではないか? お前はまだ若く、その前途は洋々としている。二十代にして宮廷魔導師に推挙され、ゆくゆくは大導師の座すら見えている。その上、幼い頃からギルドで育ったお前は、あまり外の世界を知らぬのだろ。誰か世馴れた者が傍におらねば、これから生きてゆくことは困難だぞ」


「……ええ」


 暗い表情で首肯したフレインに、サダムはうっそりと問いかける。


「あの少女に関わりさえしなければ、お前はすべてを失わずに済んだ。――後悔はないのか?」


 うつむき気味だった顔を上げて、フレインはすこし気弱げな微笑みを浮かべた。


「未練がないと言えば、嘘になりますね。しかし、後悔はありません。すべては自分で決めたことですから」


「……そうか」



 一言つぶやいたサダムは、なんと不憫で損な性根の若者なのかと、内心でフレインを(あわ)れんでいた。





 サダムの部屋を退室したフレインは、薄暗い通路を奥へと進み、書庫へと向かった。三日ほど前から王宮勤務に復帰している彼は、本来ならあまり時間を取れないのだが、アイシャからのお叱りを覚悟で寄り道をしていた。

 ギルド本部の書庫は、魔術書に関しては大陸最大の蔵書を誇る知識の殿堂である。その最奥には、神殿から焚書(ふんしょ)指定された邪術に関する知識も蓄えられていた。死霊の使役、猛毒の生成、腐敗の魔法、業病の呪い。どれもが危険な魔術ばかりである。それらの中に、フレインの求めるものがあった。

 書庫へ入り、辺りをぐるりと見回して司書を探す。

 無数に並んだ本棚の影にその姿は見つかった。

 フレインが司書に目的を告げると、彼はたいそう驚いた顔で首を振った。


「いえいえ駄目ですよ。いくらフレインさんの頼みでも、観覧禁止区域の鍵はお渡し出来ません」


 司書の男は三十代後半ほどであろうか。術師の黒いローブをまとっている。数年前からその職についているため、フレインとは顔馴染みといってよい間柄だった。


「そこをなんとかなりませんか? 時間はかけませんから少しの間だけでも」


「フレインさんだって、あそこの鍵が導師様以上の方からの許可がないと貸し出せないのはご存知でしょう」


「ええ、それはもちろん……」


 想定済みである。なのでフレインは、彼が好みそうな餌をちらつかせることにした。


「あなたは司書になられて確か七年ほどですよね?」


「ええ、そうですが……?」


「書物の分類や管理、保存状態の維持。なかなか手間のかかる仕事ですが、あなたはそれを見事にこなしている。こんな日も当たらずカビくさい場所で燻らせるには、とても惜しい才能だと私は思うのですよ」


「は、はぁ……ありがとうございます」


「どうです、王宮勤めに興味はありませんか?」


「――え!?」


 うっかりと大声を出してしまった司書は、口を押さえて辺りを素早く見回す。おどろいた顔をしているが、その目の奥には媚びるようなねっとりとした光がうかがえた。


「これはまだ内々の話なのですがね、私は近々、宮廷魔導師となることが決まっているのですよ」


「ああ、やっぱりそうなんですか? 大導師様はフレインさんのことをいたくお目にかけられていたので、ゆくゆくは宮廷魔導師の地位が内定してるのでは、という噂は以前からあったんですよ」


 声を抑えながらも、司書は興奮を隠しきれないようだ。


「そうですか。すでに噂が伝わっているのなら話は早いですね」


 にっこりと微笑みながら、フレインはなんてはた迷惑な噂なんだと内心で顔をしかめていた。


「どうでしょう。この暗い書庫で飼い殺されるよりも、きらびやかな王宮の方が、あなたの職場としてはふさわしいと思うのですよ、私は」


「ええ、それは願ったりもない話ですが……」


 司書は用心深く、自分からはなにも要求せず、フレインの出方を待った。この時点で交渉成立はほぼ確実だろう。


「私はじきに導師となるのですから、すこし早めに観覧禁止区域に入れる権利を行使しても、あまり問題はないと考えます。もちろんそれに目をつぶってくれれば、私は数日の内に、新しい職場をあなたに提供しましょう」


「そ、それは……?」


「端的に言えば、宮廷魔導師補佐という役職が、あなたの新しい肩書きとなります。もちろん最初はその見習いですがね」


 これは嘘ではない。現在、王宮へと出向させられているギルド職員は人手不足だ。この上昇志向の強い司書も、勤勉であることは間違いないので、フレインが強く求めれば、人事にたずさわる導士も首を横には振らないはずだ。


「いやあ、ははは。フレインさんにそこまで言われちゃかなわないな。鍵はなるべく早めに戻して下さいよ、宮廷魔導師さま。――おっと、正式に就任なされるのはもうすこし先でしたね!」



 こうして、ややお調子者の()を備えた司書の男から、フレインは首尾よく観覧禁止区域の鍵をせしめた。そして(よど)んだ空気の漂う書庫の最奥部で『死霊秘儀』と題された禁書をその懐に忍ばせた。

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