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氷の滅慕  作者: SH
五章 絶愛
144/251

盛者必衰



 魔王雷鴉との邂逅(かいこう)より二日。アルフラの意識は戻る兆しを見せぬまま、時は無為に過ぎていった。

 馬車が極力揺れぬよう、馬は人の歩速とさして変わらない並足で進められた。

 荷馬車に横たわったアルフラは、浅く早い呼吸を繰り返す。火傷跡には軟膏が塗り込まれ、いたるところに白い包帯が巻かれていた。素肌の露出した部分は、左目の周辺だけといった状態である。

 シグナムとフレインは、常時付きっきりでアルフラの容態を()ていた。汗で濡れたアルフラの髪を(ぬぐ)い、唇を水で湿らせたりとかいがいしく世話を焼く。しかし、その体調は一向に回復しない。


 痩せた体を覆う包帯は、半日とたたず滲んだ血で赤黒く変色した。シグナムは包帯を取り替えるたび、久しく流したことのない涙をしたたらせる。

 アルフラの肌で、原形を留めている箇所はほぼ存在しない。

 伸びやかな腕も、なだらかな胸も、華奢な腰も、しなやかな脚も――水分を失った皮膚は黒くかさつき、無数の(しわ)を刻んで引き攣れてしまっている。

 かつてはきめ細やかであった白い肌。少女らしいあどけなさで、ころころと表情を変えた愛らしい顔立ち。アルフラが元来、生まれ持っていた美しさを知るシグナムは、泣きながら汚れた包帯を取り替えた。


「なあ……この傷、治るよな……?」


 胸元の包帯を巻き終える間、後ろを向いて壁を見詰めていたフレインは答えない。――正確には、その解答を持ち得ていなかった。


「なんでアルフラちゃんは目をさまさないんだ……もうあれから二日もたつのに……」


 独白の形となったその問いに、棺の中から答えが返った。


「たぶん、魔力が枯渇してるのさ」


 吸血鬼の寝床から、むくりとカダフィーが身を起こす。


「嬢ちゃんは、魔王と戦ったんだ。文字通り力を振り絞り、使い果たしちまったんだよ」


 シグナムの刺すような視線にもたじろぐことなく、カダフィーは話をつづける。


「だから傷も治らないし、意識も回復しない。どの道ね、重度の火傷は治癒魔法でだって治らないんだ。――普通の人間なら、そんなもんさ。これまでが異常だったんだよ」


 そのうえアルフラは、大量の血を失っている。かつて死の淵から救ってくれた白蓮の血を、あらかた流失させてしまっていた。


「だいたい魔王と対峙した人間なんて、神話の中でしか聞いたことがない。そして生き残った奴なんて皆無さ。命があるだけ僥倖ってもんだ」


「たしかに……さまざまな文献を紐解いても、魔王が人の領域に現れるなど、ここ千年以上もなかったことだと記憶しています」


 フレインの声が響くと同時、馬車はゆるやかに速度を落とし停止した。すぐに御者台との仕切りが開かれる。


「カダフィーさま。辺りの木立がまばらとなってきました。そろそろ森を抜けるようです」


「そうかい……どうする?」


 下僕へ軽く頷き、カダフィーはシグナムへ視線を移す。


「野営の準備だ。日も落ちてきたし、これ以上、アルフラちゃんに無理はさせられない」


 幾重にも厚手の布や毛布を敷いた上に、アルフラは寝かされていた。馬車の揺れを少しでも軽減させるためだ。しかし微弱な振動でも、いまのアルフラには命取りとなりかねない。なけなしの体力は、馬車の揺れとロマリアの酷暑により奪われつづけている。


「では天幕を――」


 腰を浮かしたフレインを、シグナムが呼び止める。


「いや、お前はアルフラちゃんについてやっててくれ。食事と天幕の準備はあたしとジャンヌでやる」


「……わかりました。でしたら、少しまき枝を多めに集めるよう、ルゥさんへ伝えて下さい。松の実を煮詰めて、強壮作用のある薬液を作りますので」


「ああ、伝えとくよ」


 シグナムは、亜麻色の髪をひと撫でし、細剣の柄を握ったままの手を胸元に添えてやる。



 それだけで、包帯の合間からのぞくアルフラの目許が、かすかに和らいだように見えた。





「おい、ジャンヌ」


 簡素な食事を摂ったのち、シグナムが荷馬車の中から声をかけた。


「お前、快癒って魔法を使えるようになったんだよな」


「え……使えるというか……」


 口ごもったジャンヌは、まじまじとシグナムを見詰める。ほとんど眠ることなくアルフラの看病をしていたその顔は、色濃い憔悴の影がさしていた。


「アルフラちゃんにそいつを――」


「無茶お言いでないよ。あんた嬢ちゃんにとどめを刺すつもりかい」


 ジャンヌはきつい眼差しをカダフィーへ投げかけた。しかしそれもつかの間。すぐにしゅんと肩を落としてしまう。


「……ええ、わたしには、たぶん無理ですわ」


「治癒魔法ってのは、相手を癒してやろうって気持ちが大事なんだろ。お前はアルフラちゃんを治してやりたいって思わないのかよ」


 険を含んだ強い語調で迫られ、ジャンヌは困惑したように唇を噛む。


「試しにやってみろ。無理そうなら途中でやめればいい」


「ですが……快癒の魔法には、聖願と呼ばれるレギウス神への呼びかけが必要なのです。ためしにちょっと、などと気軽に出来るものではありませんわ」


「あたしが気軽に、こんなこと言ってるとでも思ってるのか」


 余裕のない瞳で、シグナムはジャンヌの腕を強く掴む。


「……なあ、頼むよ」


「い、痛っ、シグナムさま……!?」


「わからない女だねぇ。だからさっきも言ったろ」


 カダフィーが苛立ちを見せてシグナムを睨む。そしてジャンヌを掴んだ腕を振り払った。


「快癒でも火傷は治せない。治癒魔法で癒せるのは、あくまで自然治癒が可能な傷なんだよ。治るような状態じゃないのは、嬢ちゃんを見りゃ一目瞭然だろ」


 無言で睨み返すシグナムを、蔑むように女吸血鬼は笑う。


「ハッ! だいたいあんただって、ジャンヌが治癒魔法を使えるだなんて思ってないんだろ? 藁をも掴みたい気持ちだってのは分かるけどね、世の中には出来ることと出来ないことがあるんだよ」


「やってみなきゃわかんねえだろッ!」


 険悪な雰囲気を漂よわせる両者へ、おずおずとルゥが告げる。


「あのね、ジャンヌはずっと馬車のなかで練習してたよ。かいゆって魔法の」


「ルゥ!」


 余計なことを言うなとばかりに、ジャンヌはルゥへ腕を伸ばす。しかし、その手をするりとかわし、狼少女は言葉をつづけた。


「でも一回もできなかったの。なんかもやっとした煙しかでなくて」


 シグナムは赤面するジャンヌへ視線をやり、軽く舌打ちする。


「やるこたやってたのかよ。だったら変な見栄を張らないで最初からそう言え」


 申し訳なさげにジャンヌは身を縮こまらせる。羞恥に背けたその横顔からは、自責の念がありありとうかがえた。


「あの……」


 フレインが出来上がった薬液を片手に、遠慮がちな声を上げた。ぎすぎすとした空気にやや及び腰だ。


「これをアルフラさんに飲ませてあげて下さい」


 差し出された木椀(もくわん)には、暗灰色の液体が満たされていた。松脂(まつやに)にも似たきつい香が鼻を刺激する。

 シグナムは眉根を寄せて、どろりとしたそれを人差し指で掬った。そして顔をしかめながらもひと舐めして、さらに眉間の皺を深くする。


「これ、本当に飲んで平気なのか? なんて言うか……アクのある酷い苦味がするぞ……」


「滋養の高い松の実と、沈痛効果のあるオフィシナルムの根を煮立てたものです。味はたしかに酷いですけど、その効能は保証しますよ」


「……わかった」


 薬液を少量口に含んだシグナムは、アルフラへ唇を寄せる。自発的に喉の蠕動(ぜんどう)をさせない者に飲料を飲ませる場合、器から直接口へ注ぐとその大半をこぼしてしまう。なのでアルフラに水や薬を飲ませる時は、シグナムが口移しでそれを行っていた。

 一度に多くの薬液を流し込もうとすれば、気管をつまらせてしまうおそれがある。シグナムはアルフラの呼吸に注意しつつ、息が吐き出される瞬間に少量づつ薬液を飲ませていった。

 かなりの時間をかけて事をおえたシグナムは、最後に一口、水をアルフラの喉に注ぐ。そして大きく息をつき、その場に座り込んだ。集中力を要する細やかな作業は、その神経を大きく消耗させていた。


「……お役に立てず、すみません」


 気落ちした様子のジャンヌが、濡れた布でシグナムの汗を拭く。


「いや、あたしはいい。それよりアルフラちゃんの包帯を替えるのを手伝ってくれ。さっきやったばっかりなんだけど、また右腕から血が滲んできてる」


 すこし疲れた顔でシグナムは笑う。


「治癒魔法は無理でも、武神の神官ならそれくらいは出来るだろ」


「ええ、お手伝いさせていただきます」


 二人の会話を聞いて、フレインは止血作用のある軟膏と包帯を取り出す。そしてジャンヌへ手渡した。


「そろそろ包帯の予備が少なくなってきています」


「……そうか。明日の早朝に出立すれば、夜までにはカモロアへ着くはずだよな?」


「はい。そのことなのですが……シグナムさんは、先日駐屯地を訪れた時のことを、覚えていますか?」


「ん……ああ。ロマリア兵を殺っちまったのを気にしてるのか?」


 包帯を手際よく解いていくシグナムは、何をいまさらといった表情で目も向けない。


「あれがアルフラちゃんの仕業だってのは、ばれてないはずだ」


「はい……」


 フレインは首肯し、一旦言葉を区切る。そしてしばしの沈黙を挟み、重い口を開いた。


「ですが、私達が駐屯地に到着した際……ちょうど哨戒に出ていた部隊が帰還して来ましたよね?」


「ああ。あの駐屯地には一個小隊しか残されてなかったからね。すぐに交代の部隊が哨戒にあたってたみたいだし、ずいぶんと魔族の襲撃を警戒してたな……」


 そこまで言いかけて、シグナムは息を呑み手を止める。


「まさか……」


 察しのよいシグナムは、すぐにその可能性へと思い至った。瞬時に顔色を青ざめさせ、呻くようにつぶやく。


「夜間の哨戒兵を、取りこぼした……?」


 通常、前線の砦や野営地における哨戒任務は昼夜を問わない。それは主に午前、午後、夜間の三交代で行われる。

 シグナムたちが行き当たったのは、おそらく午前の任務から帰還した部隊だ。そうなると当然、アルフラがロマリア兵を皆殺しにした時間帯にも、駐屯地の外へ出ていた部隊があるはずなのだ。そしてその者たちは、日中にシグナムたちの姿を見ている公算が高い。


「――ッ」


 あまりの迂闊さに歯噛みする。軍の内情に通じるシグナム自身が、真っ先に気がつかなければならない話だった。


「お前……」


 すまなげに目を逸らしたフレインを見て、シグナムの脳裏に疑惑が沸き起こる。


「いつから気づいてた?」


 シグナム以上に蒼白なフレインを見て、確信する


「てめえ……最初から知ってて黙ってたのか!?」


 導衣の衿元を掴み、力任せにフレインを引き寄せる。


「生き残った奴がいるのを承知で言わなかったな?」


 苦しげに顔を背けたフレインは、言葉を失ったかのように声を発さない。その無言の肯定が、シグナムの怒りに火を注いだ。


「哨戒に出てる奴らを殺したくなくて、お前はそれを黙ってたんだな!?」


 シグナムは手首を返して導衣の衿を巻き込む。そして荷馬車の天井に、フレインの頭を打ちつけんばかりの勢いで吊り上げる。


「そんなことをすれば、どうなるかなんて分かってたよな!? アルフラちゃんが罪人になるってことだ! 下手すりゃカモロアの門をくぐった瞬間、衛兵達に囲まれるぞ!!」


「すみ、ません……」


 切れ切れに謝罪したフレインの顔色は青から紫へと変化していた。容赦なく、その首を絞め上げるシグナムの腕へ、ルゥが飛びつく。


「だめ! お姉ちゃん、フレインの首おれちゃうよ!」


 ルゥをぶら下げても小揺るぎひとつしない筋肉質な腕を、カダフィーが掴む。


「こんな状況だ。気が立ってるのは分かるけどさ……フレイン坊やに死なれたら、私が困るんだよ」


 女吸血鬼の細腕は想像を絶する膂力を発揮し、シグナムの腕をじりじりと引き下げる。


「気安く触んじゃねえ!!」


 カダフィーの手を振り払いざま、シグナムは馬車の外へとフレインを放り捨てる。壁に叩きつけなかったのは、臥せったアルフラの身を(あん)じてのことだった。

 地面にはいつくばったフレインへ、怒声が浴びせられる。


「あたし達がカモロアでお尋ね者になってたら、アルフラちゃんはまとな治療も受けられねえ! それでもしもの事があったら、お前のそっ首を(ねじ)切ってやる!!」


 単なる脅し文句ではすまされない殺気を、シグナムは全身から溢れ返らせていた。


「落ち着きなって。あんたがいくら怒鳴り散らしたとこで、状況は好転しないよ」


 カダフィーの言葉を黙殺し、シグナムはアルフラの(かたわ)らへ膝を下ろす。殺気立つその様子に、ジャンヌはちらりとだけ視線をやる。そしてすぐに、アルフラの腕へ軟膏を塗る作業に戻った。


「湿度の高さのせいか、傷口がじくじくとして血が固まりにくいようですわ。レギウスの気候なら、だいぶ違うと思うのですが……」


「そうだな。この国は暑すぎる……カモロアで治療が受けられないようなら、レギウスに帰ろう」


 シグナムは人差し指を水で濡らし、ひび割れたアルフラの唇を湿らせる。


「あとはあたしがやる」


 包帯を手に取り、シグナムはジャンヌへ指示を出す。


「アルフラちゃんの腕を持ち上げてくれ。指先から順に巻いていく」


「わかりました」


 直接触れぬよう清潔な布を添えて、ジャンヌは焼け爛れた腕を掲げさせた。

 シグナムは細剣を握り込んだアルフラの手に、慎重な面持ちで包帯を巻くていく。しかしその指先は小刻みに震え、思うように作業ははかどらない。


「……シグナムさま?」


 怪訝そうにするジャンヌへ、なんでもない、とシグナムは首を振った。

 火傷で癒着し、黒ずんだ右手を見て、シグナムは凄まじい絶望感に苛まれていた。

 よしんば命を取り留めたとしても、アルフラは二度と戦うことなど出来ないだろう。素人目に見ても、アルフラの右腕が回復不可能な状態であるのは明白だ。

 魔王という存在はあまりにも強大だった。仮にアルフラが全快したとしても、ふたたび戦いを挑めば結果は見えている。一蹴されるだけだ。とても人間が(あらが)える相手ではない。

 それ以前にアルフラの細剣は、半ばから溶け落ちてしまっている。現状では最早、爵位の魔族にすら及ばないのではないだろうか。

 アルフラが目覚めた時、いったいどういった反応するのか。ただひとつだけ、シグナムにも確信出来ることがある。


――それでもアルフラちゃんは、白蓮て人のことを……諦めないだろうな


 そういった思いが、アルフラの背後に避けようのない死の影を予感させた。


「すまないジャンヌ……包帯を巻くの、代わってくれ」


「え、ええ」


 その声の暗さに慄然としたジャンヌは、どもりつつも包帯を受け取る。



 行き着く先に待ち受ける、破滅の気配は確かな存在感を有し――シグナムはどうやっても、手の震えを止めることが出来なかった。





 アルフラの手当が終わり、じっとその顔をのぞき込む背に、おそるおそるフレインが声をかけた。


「あの……シグナムさん。本当に、申し訳ありませんでした」


 導衣が食い込み、青く鬱血した首をさすりながら、フレインは謝罪する。


「私も、こんなことになるとは思っていなかったのです。ただあの時は、これ以上アルフラさんに人を殺させてはいけないと思い、口に出来ませんでした」


「ああ……」


 振り返ることなくシグナムは応える。


「よく考えたら、お互い様だよな。――あたしもさ、いざとなったらアルフラちゃんを担いででも逃げだすなんて言っときながら、結局なにも出来なかった」


「それは……仕方のないことだと思います。魔王を前にして、足を踏み出せる者などいないでしょう」


「まったくだよ。この嬢ちゃんが異常なのさ。私だってあれが雷鴉様だと気づくまでは、あんた達を見捨てるつもりだったからね」


 あけすけな物言いに、シグナムの鋭い視線が向けられる。それでもカダフィーの毒舌は()まない。


「だいたいねえ。フレイン坊やに文句を垂れるのは筋違いさ。あんただってあの時、生き残ったロマリア兵がいることに気づかなかったんだからね」


「……そうだな。傭兵稼業で食ってるってのに、そんなことも失念してたあたしが間抜けだった」


 シグナムは背を向け、うなだれたまま悔恨の言葉をはいた。


「でもな、もしこの件でアルフラちゃんに万が一のことがあったら……その時はあたしの視界から消えてくれ」


 地の底から響くような、低い声音が告げる。


「本気であんたらをぶち殺しちまいそうだ」


 さすがに茶化す言葉は出てこず、カダフィーは小さく肩を竦める。そして小声でつぶやいた。


「酷い逆恨みだよ……」


 それ以上、口を開く者もなく、湿った夜風が草木を揺らす。かすかなはずのその音は妙に耳障りで、たまらずフレインは静寂を裂いた。


「魔術士ギルドの紋章を削り取りましょう」


「……なんだい、いきなり?」


 カダフィーは胡乱(うろん)な目つきでフレインを見やる。


「馬車に刻印された紋章を削って偽装すれば、なんとかカモロアの街に入ることが出来ると思います。幸い私達の顔を知る者は少ない」


 旅人を装うことも可能なのではないか、とフレインは語る。


「ジャンヌさんの神官服は目立ちますので、事前に着替えていただきます。もちろん私も導衣を脱ぎ、市井の者が着ているような貫頭衣を身につけましょう」


 じっと耳を傾けていたシグナムは、すこし考えてから口を開く。


「駐屯地の生き残りがいたとしても、そいつらは黒死の病を調査しに南へ行ってるはずだよな。あたし達の顔を見た奴がいなけりゃ、案外それでなんとかなるかもしれない」


「実際に手を下した嬢ちゃんは、生みの親でも見分けがつくか怪しいほどに顔が焼けちまってるしね」


 一言多い女吸血鬼は、シグナムのあからさまな怒気を感じ取り、馬車の外へと退避する。


「それよりさ。私に良い考えがあるんだよ」


 底意地の悪い顔で、カダフィーはそんなことをいった。

 にやにやとする女吸血鬼へ、シグナムがはき捨てる。


「どうせろくでもない考えなんだろ。聞きたくもねえよ!」


「まあまあ。そう言いなさんなって。嬢ちゃんを確実に救える名案なんだよ?」


「……言ってみろよ」


 敵意を隠そうともしないシグナムの声に、女吸血鬼は牙を剥いて笑った。そして簡潔に述べる。



「私がね、その嬢ちゃんを噛むのさ」

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