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氷の滅慕  作者: SH
五章 絶愛
139/251

ルゥは聖水をぶちまけた



 深い霧にまぎれ、松子はじっと様子をうかがっていた。森に分け入って来た(にえ)たちの、右往左往するさまを。

 彼らは、一人一人が非常に強い魔力を有していた。三十年もの間、生者を貪ってきた松子をして、これまで食したことがないほどのご馳走揃いだ。

 魔力とは、魂魄から溢れ出る純然たる力である。松子はそれを糧として、存在を維持し、高めてきた。

 そんな松子にとって今回の贄たちは、目移りするほどに魅力的な者ばかりである。


 なかでも一番のお気に入りは、神官の娘だった。


 以前この森には、聖職者たちが幾度か来訪していた。松子を(はら)おうとしたその者たちで、彼女は味をしめたのだ。

 強い信仰心に、恐怖と絶望という最高の調味料をまぶしてやると、とても甘美に味が引き立つことを、松子は知っていた。


 ――だが、贄たちのなかには、数名おかしな者が混じっている。松子と同じく、一度は死に見舞われた者たち。すなわち不死者だ。

 あくまで生に固執(こしゅう)する松子は、そういった者の味をあまり好まない。


 そしていま一人。亜麻色の髪の美しい少女。


 贄たちのなかでも、一際強い力を秘めているようだ。こちらは間違いなく生者ではあるのだが、松子は戸惑いを覚える。その少女には、不思議な既視感があった。かつてどこかで、一度は(まみ)えたことがあるような――そんな気がしてならない。


 ともあれ、霧のなかに蠢く不死者たちが目障りだ。彼らの排斥(はいせき)が先決である。

 そしてまずは、好物である神官の娘を賞味してみよう。恐怖と絶望とでよく味付けして、その信仰と魂魄を、美味しく(むさぼ)ってやるのだ。



 聖なる者に飢えた死霊は、霧のなかで、にんまりと舌なめずりをした。





 街道脇で()かれた火には、大きな鍋が掛けられていた。ジャンヌはその鍋の前に座ったシグナムへ、(くだん)のぼろ布を手渡す。


「いま、逢いにゆきます、か……」


「え……待って下さいまし。いま、ではなく、こんや、ではありませんか?」


「いや、いまって書いてあるな。時間的にはもう夜だし、どっちでも変わりはないだろ」


 シグナムはひらひらと布きれを透かし見て、それを無造作にたき火へ突っ込む。


「あーっ、なにをするのですか!?」


 思わず大きな声を出した神官娘が、たき火とシグナムの顔を見比べる。


「慌てるな。どうせ松子ってやつは、こうやってあたし達を浮足立たせようとしてるんだろ。この森に足止めされた以上、遅かれ早かれ襲ってくるさ」


 むぅ、と黙り込んだジャンヌを指さして、ルゥは嬉しそうにする。


「ジャンヌはね、お化けがこわいんだよー」


「そうか」


 気のない返事をして、シグナムは作業をつづける。手にした干し肉に短刀を当て、乾燥した肉の表面を薄く削る。そして煮立った鍋のなかへほうり込み、削り取った部分は火にくべる。


「……? おねえちゃん、さっきからなにしてるの? お肉、もったいないよ」


 食の量にはうるさい狼少女が、シグナムの行動を見咎めた。


「カビだよ。干し肉がカビてたんだ」


「え? かび?」


「ああ。ほら、表面が白くなってるだろ」


 干し肉が一切れ、ルゥへ投げてよこされる。

 受け取りざま、狼少女は反射的に大口を開く――が、間髪入れずにそのうしろ頭を、ジャンヌがぽこりとはたいた。


「いて……」


「だめですよ、ルゥ。お腹をこわしてしまいますわ」


「えー。でもこれ、いつもとあんまり変わらないよ?」


 たき火を挟んでシグナムの正面に座っていたフレインが、狼少女の疑問に答える。


「この部分をよく見て下さい。白くけばだっているのがカビです」


 そして、とフレインは、干し肉のまばらに白くなっている箇所を指でなぞる。


「普段、干し肉の表面が白くなってるのは、含有塩分が結晶化して浮き出たものです」


「……??」


「レギウスと違いこのロマリアは、湿気が多く蒸し暑いですからね。保存状態によっては、カビが生えたりするのですよ」


 ルゥはきょとんとしている。その説明ではよく解らなかったようだ。そんな狼少女の手から、シグナムが干し肉を取りあげ、かわりに短刀でカビを落としたものを与えてやる。


「これは食べていいの? なか、くさってない?」


「大丈夫だよ。干し肉ってのはね、塩水につけ込んだあと、日にさらして乾燥させたものなんだ。だから腐ったりはしない」


「ふ~ん?」


 ルゥは干し肉にかぶりつき、もぐもぐやりながらシグナムに尋ねる。


「塩水につけると、お肉はくさらなくなるの?」


「ああ、ちゃんとそのあと、日光にあててよく干しとけばね」


「それ、ボクたち獣人族でもできる?」


「飯の仕度が終わったら、くわしい作り方を教えてやるよ。そうすりゃルゥにだって出来るはずだ」


「うわぁ、ありがとうっ」


 ルゥの満面の笑みを見て、シグナムも顔をほころばせる。


「ついでに燻製の作り方も教えてやるよ。でも、やっぱり干し肉がおすすめだね」


「なんで?」


「干し肉は基本、塩が効いてるからね。だから、湯で戻すだけでしっかりと味がついたスープも出来る。それに塩分の補給にもなるからね、いろいろと便利なんだよ。保存食としては優れものさ」


「へーえ……」


 よく解らないなりに、ルゥは感心し通しだ。


「まあ、塩漬けにしたうえで燻製にするのもアリだけど、それはちょっと手間がかかる」


 言いながら、シグナムは乾燥キノコと刻んだ香草を鍋に落とす。


「よし、こんなもんかな。飯にしよう」


「わあい。ボク、アルフラを呼んでくるね」


 駆け出したルゥが、馬車の近くで森の木々に目を向けていたアルフラを連れてくる。

 ジャンヌが夕食をよそい、一同は車座にたき火を囲む。


「どうだい、アルフラちゃん」


 干し肉のスープを口に運びつつ、シグナムが問う。


「松子ってやつの居場所、分かるか?」


 アルフラは静かに首を振る。


「なんか、へんな感じでよくわからない。気配がうすく引き伸ばされたような、そんな感じ」


「……そうか。アルフラちゃんがそれじゃあ、本当にお手上げだな」


「あ……いま……」


 アルフラが、ジャンヌの背後へ視線を投じる。


「えっ――?」


 神官娘が反応し、素早く振り返った。


「……て、何もいませんわ」


 前を向き、食事を再開したジャンヌのすぐ後ろで――霧が不自然に揺らめいていた。それは徐々に凝り固まり、白い人影を形取る。

 ジャンヌ以外の者は、その異様な光景を直視してしまい、食器を落とし立ち上がる。


「――ジャンヌ!」


「そうやって、またわたしを驚かせようと……」


 そう言いつつも、とても冗談とは思えないアルフラたちの反応に、神官娘は恐る恐る背後を見やる。

 だがその瞬間、白い人影は文字通り霧散し、ただの霧に戻ってしまった。


「……て、やっぱり何もいませんわ。いい加減にしてください。食事が冷めてしまいますわ」


 不機嫌そうに向き直ったジャンヌの背後で、ふたたび霧が人の形を取り始める。


「ジャンヌ! うしろうしろ!!」


 髪の毛を逆立たせたルゥが、警告の声を上げた。

 さすがにただならぬ気配を察したジャンヌは、勢いよく立ち上がりざま振り返る。

 目の前には不気味に笑う濃白色の顔型。裂けたように開いた口からは、凄まじい異臭が漂っていた。


「ひっ――!?」


 霧のなかで、白目がちな瞳がぎょろりと動いてジャンヌをねめつける。その部分だけは生身の――人間の眼球だった。

 霧の人型は、内部から膨張するように、膨れ上がり伸び上がる。そして神官娘に覆いかぶさり、その細い体を飲み込もうとしていた。


「ひああっ――」


 すかさずシグナムが前へ出る。


「どけッ――!!」


 硬直してしまっているジャンヌを押しのけ、霧の怪魔に斬りつける。その胴体を両断した刹那、濃霧が濁った粘液となって周囲に飛び散った。途端、強烈な異臭が辺りに立ち込める。


 後方へ大きく飛びのいたルゥが、あまりの臭気に鼻と口を押さえて、さらに後ろへとさがる。


「うおッ! なんだこりゃ!?」


 もろに粘液を浴びてしまったシグナムは悲惨だった。慌てて口に入った謎の白濁液を吐き棄て、革鎧を脱ぎにかかる。


「くそっ、気持ち(わり)ぃ!」


「シグナムさま! もしかするとそれは毒かも知れません。早く落とさないと――」


 ジャンヌが懐からハンカチを出し、片手で鼻をつまみながらシグナムの肌を拭いていく。神官娘はシグナムの真後ろにいたおかげで、難を逃れていた。


「あの、それはおそらく毒の(たぐ)いではありません。たぶん……」


 フレインがなにか言いづらそうに言葉を濁らせ、荷物から取り出した水袋をシグナムに手渡す。


「本当か? いちおう飲み込んじゃいないけど……」


 咥内を何度も水ですすぎ、シグナムは盛大に顔をしかめる。


「口の中が酷いことになってる……吐きそうだ」


 水袋を逆さにし、シグナムは顔や髪にこびりついた汚れを落としていく。そうしている間に、霧のなかから新たな人影が現れた。


「なにがあったんだい?」


 下僕たちと共に、森を探索していたカダフィーだった。


「ていうか、この臭い……」


 女性陣のなかでは、ゆいいつその臭いに心当たりのある女吸血鬼は、眉をひそめてシグナムへは近寄ろうとしない。


「あんた、このどろっとした白いのを知ってるのか? いったいこいつは何なんだ?」


「あ、いや……たぶん聞かない方がいいと思うよ。まあ、死にはしないから安心おしよ」


 シグナムもそこはかとなく嫌なものを感じたのか、深く追求することはしなかった。


「チッ……鼻が曲がりそうだ」


「あ、でも……」


 シグナムの体を拭いていたジャンヌが、すんすんと鼻を鳴らす。


「慣れてくると、意外といやではないかも。むしろ……」


「えー」


 遠巻きにしていたルゥが、信じられないといった顔をする。



 アルフラはルゥ以上に、臭いの源から離れた場所へと退避していた。





「なるほどね……」


 事の顛末を聞き終えたカダフィーが、腕組みをして頷く。


「私は、下僕二人と連絡が途切れちまってね。すこし辺りを捜索してたんだ。そしたら、そっちの方に松子らしいのが出たんだよ」


 結局、二人の下僕は忽然と姿を消し、松子にも逃げられてしまったとカダフィーは説明する。


「これ以上、手駒を失いたくないからね。残った二人は棺桶に帰しておいたよ」


「そうですか。――とすると、さきほどの白い人影は松子本人ではなく、また別の死霊なのでしょうか?」


「おそらくね。たぶんこっちに出たのは、松子の支配下にある雑霊ってとこだよ。……確実に男の霊だろうしね」


 神官娘が首をかしげる。


「ですが、死霊が他の霊を使役したりなど、するものなのですか?」


「強い力を持つ奴ならね。――って、あんたも神官なんだから、そのあたりの知識はあるんじゃないのかい?」


 そういえば、とフレインがひとつ手を打つ。


「助司祭以上の聖職者は、悪霊祓(エクソシズム)いの聖句を習得していると聞いた覚えがあるのですけど?」


「無茶言うなよ。ジャンヌはダレスの信徒だぞ。そんな器用なまねができるかよ」


「当然ですわ」


 ジャンヌはなぜか得意げだ。


「武神の信徒たるもの、いかなる相手であろうと己の拳ひとつで打ち倒してこそ一人前。悪霊祓いなどといった姑息な技は、身につけておりませんわ!」


「……身につけとけよ」


 そうぼやきつつも、シグナムはまだ臭いが気になるのか、小鼻にシワを寄せっぱなしだった。


「近くに川とかないかな。いちど全身を洗い流したい」


「ああ、それだったら。街道のちょっと先を左手に入ったところに、大きな井戸があったよ」


 カダフィーの言葉に、シグナムはすこし怪訝そうな顔をする。


「こんな街道のど真ん中に、井戸なんてあるのか?」


「それはもしかして、松子が投げ込まれたという井戸では……?」


「いや、あれは空井戸って話だったろ。私が見つけた井戸には、水がなみなみと貯まってたよ。それに例の井戸は村の中にあるはずさ」


「んー、そうだな。じゃあちょっと行ってくるよ。どうもこの臭いは生理的にダメだ。――ルゥ、残りは適当に片付けといてくれ。食欲が失せた」


 歩き出したシグナムの後を、フレインが追いかける。


「一人では危険でしょう。私が周辺警戒をいたします」


「私はもう少し辺りの様子を探ってみるよ」


 女吸血鬼が、溶け込むように霧のなかへ消える。

 そうそうに食事を切り上げたアルフラは、馬車へと戻っていった。


「……」


 ジャンヌとルゥだけが、ぽつりと取り残されてしまう。

 急に人気がなくなり、あたりは不気味なまでに静かだった。そのうえ霧で、視界は白一色である。

 人間はみな等しく、五感の一部を制限されることに不安を覚える。それは神官娘と狼少女も、例外ではなかった。


「は、早く食事を済ませて馬車へ戻りましょう」


「う、うん」



 二人はなにかに()かされるよう、黙々と食事に取り掛かった。





 その後は、意外なほどに何事もなく夜は更けていった。

 ルゥとジャンヌは、小さな簡易天幕の中で、一夜をすごすこととなった。

 支柱に雨よけの布を張っただけの、本当に簡素な寝床である。

 全員がともに就寝することも可能な、大型の天幕もあったのだが、森の樹木が邪魔をして、ぎりぎり二人が横になれる程度の簡易天幕しか張れなかったのだ。


 深夜、ジャンヌが両手を組み、神々への祈りを捧げていると――不意に神官服の裾が引かれた。


「なんですの、ルゥ?」


 とっくに寝入っていたはずの狼少女が、ジャンヌの神官服をつまんでいた。そして眠い目をこすりこすり、


「……おちっこ」


 そんな言葉をつぶやいた。


「は? あ、ああ。お小水ですか?」


 こくりと頷き、ルゥはジャンヌの手を握る。


「……もしかして、ついて来てほしいのですか?」


「うん」


 昼間散々、ルゥからお化けが怖いのか、とからかわれた神官娘は、すこしむっとしてしまう。


「ルゥは死霊なんて怖くはないのでしょ。一人でおゆきなさいな」


「……いじわる」


 寝起きのためか、やや潤んだ瞳で見つめられ、ジャンヌはため息をおとす。


「もぅ、しょうがありませんわね、ルゥは」


「だってあいつら、すっごくいや~な臭いがするんだもん」


 ルゥのちいさな手を握り返し、ジャンヌは立ち上がる。そして天幕の外に出ると、頭を撫でてやりながら優しく告げる。


「ここで待っていてあげますから、早くすませておいでなさい」


「……さ、さきに戻っちゃ、やだよ。ぜったいだよ」


 ここから動いたらだめなんだからねっ、と念を押し、狼少女は藪のなかへ入ってゆく。

 野生の本能からか、ルゥは用をたすにも大きな木の根本などを好み、気に入った場所を探すのにすこし手間取ってしまう。そのうえなぜか、小水の時でも服をすべて脱いでからなので、なおさら時間がかかるのだ。実に野生味溢れる排泄風景といえるだろう。


「……ワイルドですわ」


 当初はジャンヌも、なぜ全裸? と不思議に思ったものである。今でも理由は不明なのだが、とりあえず慣れてしまった。


「……」


 ルゥと同じく、すこし夕食のスープを飲みすぎたジャンヌも、ふと尿意をもよおしてきた。

 きょろきょろと辺りを見回し、ぞろりと長い神官服を、ぺろりと腰までめくり上げる。そして裾の端を口にくわえ、あいた両手で腰布をほどく。


 つるりとした下半身をさらしたジャンヌは、手近な樹木の脇にしゃがみ込んだ。


 開かれた両脚の間から、すぐにちょろちょろと聖水が噴出する。


「ん……」


 ぶるりとひとつ、身震いをして、心地好い排泄感に吐息をこぼす。

 放物線を描いた聖水が、ぱちゃぱちゃと木の根にあたり、黄金の飛沫を跳ねさせていた。


 ほぅ……と息をはき、神官娘はなにげなく頭上を見上げる。

 そして“それ”と、目が合ってしまった。


「…………っ!?」


 息がかかるほど間近に、頬骨の剥き出しとなった女の顔があった。

 顎の肉や唇もなく、黄ばんだ歯列が外気にさらされている。

 髪は長くざんばらで、ジャンヌの顔や肩に毛先が垂れかかる。


 女は細い四肢を蜘蛛のように広げ、太い木の幹に張り付いていた。

 むろん、人ではない。かつてはそうであったとしても、いまは違う。


 あまりのことに、出るものもぴたりと止まっていた。


 逆しまの体勢でジャンヌを見下ろす女は、血走った眼球を小刻みに震わせる。そして、白骨化した髑髏の口を、かぱりと開いた。

 腐敗した水の臭気が、ジャンヌの鼻腔(びこう)に充満する。瞬間――



 ジャンヌの喉から、甲高い悲鳴が()きを切って溢れ出た。





「きゃああぁあああぁぁぁーーーー!!」


 急を告げる叫び声が響き渡った。

 他の天幕のなかにいた者たちが、慌てて外へと転げ出る。


「何があったッ!?」


 シグナムが長剣を片手に、駆け寄って来るジャンヌとルゥへ詰め寄る。しかし、二人の格好を見て、呆れたような半目となった。


「いや、お前ら……」


 神官服の裾が肩に引っ掛かり、臀部丸出しのジャンヌの手には、腰布が一枚。それとは対象的に、かぼちゃパンツだけを身につけたルゥは、両手に衣服を抱えていた。

 二人の焦り具合とはうらはらに、そのいでたちから、危急の様子はうかがえない。


「あのな、二人でナニをしようと、あたしはとやかく言わないよ。言わないけど……」


 顔面蒼白の神官娘と、大粒の涙をしたたらせる狼少女を見て、シグナムはすこし勘違いをしてしまったようだ。


「なるべく、その……お互いが嫌がるような行為(プレイ)は……」


「ち、ちが、違います!! で、出たんですっ」


「な、ナニが出ちまったんだ!?」


 なぜかシグナムの顔は赤い。


「そうではなく!!」


 震える唇で、ジャンヌは必死に自分の見たものを伝えようとする。


「松子ですわっ! あっち、あっちに……木に逆さに張り付いて……」


「なんだと!?」


 駆け出しざまシグナムは叫ぶ。


「フレイン、お前は二人についていてやれ!」


「わかりました。気をつけて下さい。あまり深追いはしないように」


 返事もなく、シグナムはジャンヌの指さす方へと走り去る。その後にカダフィーがつづく。

 細剣を腰に吊したアルフラは、追跡に加わるでもなく、じっと深い霧を凝視していた。


「あぅぅ……ぐすっ……」


「大丈夫ですか、ルゥさん。どこかお怪我は?」


 フレインの問いかけに、ルゥはふるふると首を振る。


「でしたら服を着ていただけませんか。女の子がむやみに肌をさらしてはいけませんよ」


 やや気の落ち着いてきたジャンヌは、いまだぐしぐしとしゃくりあげるルゥを、不思議そうに見る。


「なぜ襲われた私ではなく、ルゥが泣いているのですか?」


「うぅ……ち……ちゃったの……」


「……は?」


「……ちびっちゃったの」


「ちびっ……??」


 思わずジャンヌとフレインは目を見合わせる。


「……ジャンヌがいけないんだよ……ひっく……」


 うらみがましい目で、狼少女はジャンヌをにらむ。


「……きゅうにおっきい声だすから……ボク、びっくりしちゃって……」


 ルゥは内股で、なにやら股間を押さえてもじもじしていた。


「え、ええと……失禁、してしまったのですか?」


「ちょ、ちょっとだよ! ほんのちょっぴりなんだからねっ!!」


 どうやらルゥは、かぼちゃパンツの中に、聖水をぶちまけてしまったらしい。



 二人のやり取りを見て、言葉をかけあぐねたフレインは、無難に黙ってルゥの着替えを取りに行った。

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