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氷の滅慕  作者: SH
五章 絶愛
122/251

真夏の嵐



 街道には風が吹きつけ、雨が降りしきっていた。


 一路、トスカナ砦へと向かう細い石畳を、長蛇の列が進軍する。風にあおらられ雨に打たれながらも、彼らは粛々と前進する。

 鎧武者たちは得物である槍や剣を騎馬にくくり、自身はたずなを引いて己の足で歩む。その身を守る鎖帷子(かたびら)が雨に濡れて鉛色に(なま)めく。

 行軍の(かせ)となる鱗鎧は、すべて後続の補給部隊により輸送されていた。

 街道の両脇には、雨風を軽減させるための防風林が植樹されてはいたが、それでもやはり、強さを増してくる嵐の影響は人の歩みを困難にする。――にも関わらず、三万におよぶ軍勢は風雨に苦しみながらも、一定の行軍速度を保ったままその足並みに乱れはない。

 それはまさしく、はるか上空から見下ろせば、一個の生き物のようにも見えたことだろう。

 規則正しく、黙々と前進しつづける意思ある群体。兵としてはまことに理想的であり、練度の高さがうかがい知れる。


 その列の中ほど、二台の馬車に分乗して、アルフラ達はトスカナ砦を目指していた。

 外の兵士達とは違い、雨風にさらされることもないが、ただ馬車に揺られているだけというのも退屈なものだ。そんな無為(むい)の時間をルゥはお昼寝でやり過ごし、シグナムは小窓から外の景色を眺めて費やしている。

 アルフラは体が凝り固まらぬよう、ちょこちょこと身動きし、その隣ではジャンヌが余念なく魔導書を読み進めていた。

 ジャンヌ以外の全員が、出来れば危険な回復魔法をこれ以上進化させないで欲しいと思っている――のだが、言うだけ無駄だということもよくよく理解していた。



 こうして一行は、予定されていた行程を着実に消化しつつ、行軍一日目を終えた。





 深夜。アルフラ達が就寝中の天幕へ、二人の伝令兵がおとずれた。

 ごそごそと起き出した一同に、本陣への招集が告げられる。

 司令部として使われている天幕へ、シグナムとフレインが呼ばれているらしい。他の三人はお留守番だ。非常時に備え、ゆっくり体を休めておくように言い含め、シグナムは天幕を出ていった。


 それから約一時(二時間)。まもなく朝を迎えようかという頃、二人が天幕へ戻ってきた。


「今から行軍をはじめるそうだ。天幕や荷物はそのままでいい。武具や糧食だけ持って馬車へ移ってくれ」


 緊急事態だ。なんとはなしにその気配を感じとっていたアルフラ達は、すぐさま動き始める。

 アルフラも、吹きつける風音に紛れたざわめきに、こういったことも有り得ると予想していた。すでに革鎧をまとい、腰に巻いた剣帯(けんたい)の左に細剣、右には短刀と狩猟刀が一振りづつ差してある。

 外では騎士達がカンテラを持ち、いたる所で忙しく動き回っていた。

 多くの者が鱗鎧を着込み、やはり馬鎧を装着した軍馬を引いて隊列を組み始める。


 馬車へ乗り込むと、フレインがこの急な強行軍についての説明を始める。


「ここから一時半(約三時間)ほどの距離に、魔族の軍勢が確認されました。本来その近辺に野営地は存在しないのですが、樹木が伐採されて出来た広場を野営地として利用しているらしいです」


 トスカナ砦攻略の軍勢には、周辺地理をよく知るエルテフォンヌの騎士達も多く参加している。彼等は地図に記載されていない、ごく最近出来た地形の変化にも通じていた。

 指揮官であるディモス将軍はそういった者を斥候とし、明日(みょうにち)の行軍に支障をきたす障害物などの存在を探らせていた。街道に倒木や落石といったものがあれば、大きく行軍予定が狂うからだ。

 そして斥候達は、重大な報告を持ち帰った。


 進路上で、野営を行っている魔族の軍勢を確認せり。


 急ぎディモス将軍は叩き起こされ、大隊長達に招集がかけられた。同時にアルフラ達の天幕へも、伝令兵が送られることとなったのだ。

 斥候達の報告によると、魔族の正確な数は不明。夜間であり嵐のせいもあって、詳細な情報は収集出来なかったのだ。

 ただ、野営する魔族は歩哨を立てるでもなく、斥候達は嵐に紛れてかなり近くからその様子をうかがってきていた。


 幾人かの報告を元とし、総合的に分析をすれば大まかな全体像は見えてくる。

 確認された天幕の数などから、少なくとも魔族の数は二千前後にのぼるのではないかと考えられた。トスカナ砦に駐屯している軍勢は約三千。じつに三分ニほどの兵を動員していることから、野営地の軍勢は魔族の本隊だと判断された。


 そして当然のごとく奇襲案が提示された。

 こちらの存在には気付かれず、敵の位置を正確に捕捉することに成功したのだ。戦術的に極めて優位なこの状況を活用しない手はない。

 すぐに全軍へ武装待機の指示が出され、軍議は進められた。

 ほどなく、一部の補給兵とともに、天幕などの戦闘に必需でない物資は、このまま野営地に捨て置かれることが決まった。

 油断の見える魔族を混乱させるため、工兵に破城槌を持たせ敵陣に突入させるという案が出た。

 その時、故エルテフォンヌ伯の遺児、アルセイドが面白いことを言った。


「あの伐採地の北側には、かつて父が国境地帯から引いた用水路が通っています」


 それは、アルストメリア候との協定によりせき止められ、今では()れた水路とかしていた。

 この発言により、ただちに多くの工兵と魔術師が送り出されることになった。


 ロマリア軍は混戦を望んでいたのだ。


 強力な魔法を扱う魔族相手に、態勢を整えさせることなく、数で押し切ろうと考えていた。

 逆にいえば、それしかないのだ。

 陣を組んで正面から向かい合えば、魔法による集中砲火を受け、近づく前に致命的な損耗を()いられかねない。

 さらに軍議は進み、夜が明けきる前に、すべての決議がなされた。そしてすみやかに行軍が開始される。


「先陣には、皇竜騎士団が立つそうです。さらに破城槌部隊がつづき、魔族の混乱を誘います」


 普段は荷馬車で移動するフレインが加わったことにより、車内は若干窮屈だ。そんななか、アルフラは新調した狩猟刀の柄に、滑り止めの布を巻いていた。雨の中での戦闘は、念入りな準備が必要とされる。


「戦いが始まれば、そう時をおかず咬焼(こうしょう)も前線に出て来るでしょう。それまで私達は待機です」


 アルフラは不満そうにフレインをにらむ。


「いいね。アルフラちゃん」


「……うん。わかった」


 しぶしぶ頷いたアルフラは、狩猟刀の重心を確認するように、軽く手首で振ってみる。車内ということもあり、鞘は付けたままなので少々勝手が分かりづらい。


「聞いてください。シグナムさま」


 みな等しく嫌な予感がした。

 なぜかジャンヌが、自信まんまんといった顔をしていたのだ。


「聞きたかないが……聞いておかないと後悔するような気がするな……」


「ふっふっふ。後悔などさせませんわ。実はわたし、治癒矢(キュア・ウーンズ・アロー)を習得したのです」


「……なんだそれ?」


「闘神ヘリオンの神官たちが得意とする、遠距離回復魔法ですわっ!」


 みな等しく嫌な顔をした。


「ヘリオン様の神官達が門外不出としていた魔術が、カダフィーから貰った魔導書に記載されていたのですっ」


「……そうか」


「これは治癒の光を矢のように飛ばし、離れている怪我人を癒すことが出来るのですよ。ああ、なんて素晴らしい!!」


 ジャンヌは闘神ヘリオンに感謝の祈りを捧げ、ついでにダレス神の聖句を唱えた。


「混戦になれば、いちいち負傷者に手を触れて治癒など出来ません。ですがこの魔法さえあれば――」


「いや、ちょっと待て」


「はい、なんでしょう?」


「お前、友軍誤射って知ってるか?」


「ふれんどりふぁいあ、ですよね。存じていますが……この場合に使う言葉ではないかと思います」


「……わかった。とりあえず魔族に試してみろ。相手は二千もいるんだから、一人でも減らせればめっけもんだ」


 むぅ、とジャンヌがうなる。


「ヘリオン様のご加護を疑われるのですか!」


「シグナムさんはジャンヌを疑ってるんだと思うよ」


 アルフラはブーツの編み上げ紐をしっかりと結い直しながら、あたしには絶対使わないでよね、と付け加えた。


「わたしは魔術理論を一から学び直したのですよ。今回は――」


「しっ――」


 ジャンヌの口をシグナムが押さえる。

 前方からかすかに、行軍停止の号令が聞こえていた。

 速度を落とした馬車が緩やかに止まる。車外をのぞくと、数名の伝令兵が軍後列へと命令を伝えに走っていた。


「魔族の野営地が近いようだな。いつでも出れるようにしておいてくれ」



 大剣を掴んだシグナムが、そう指示を出した。





 外はすでに朝を迎えていた。とはいえ夏の朝とは思えないほどのうす暗さだ。いぜん空をおおう雨雲は厚く、風の勢いも増してきている。

 アルフラ達は馬車から降り、ディモス将軍達の本隊と合流していた。

 周囲はおうとつに富んだ地形をしており、街道左手に見える小高い丘のあちら側に魔族の軍勢が野営中らしい。

 ロマリア軍は極力音を立てぬようにして布陣を組み立てていく。


「まだしばらくは時間がかかりそうだな」


 三万からの大軍である。後方の兵が追いつき、陣を敷くまでにはまだまだ時間がかかるだろう。


「おい、ジャンヌ」


 シグナムが、一個小隊――四十名ほどの騎士に護衛されたジャンヌへ呼びかけた。


「お前、さっき言ってた負傷矢(ウーンズ・アロー)ってのをやってみろ。ちゃんと真っ直ぐ飛ぶか不安だ」


「よろしいですわ」


 すこし不満げに、そしてちょっぴり自慢げにジャンヌはうなずく。


「とりあえず、あの木を狙ってみろ。もし真っ直ぐ飛ばないようなら、その魔法は禁止な」


 目にもの見せてくれる、といった顔でジャンヌは聖句を口ずさむ。


「治癒矢!」


 瞬間、ジャンヌの右腕が強く発光し、打ちつける風雨が弾かれ、狭い範囲に突風が巻きおこった。


「おぉ!?」


 樹木へ向けられたジャンヌの掌から、光の矢がふよっと飛び出た。


 ふよっ、ふよふよふよ、ふよよ……


 くすんだ光を放つ矢は、ゆっくりとゆっくりと進み、途中で静止した。

 護衛の騎士達が、それを指差してざわつきだす。


「おい、どうすんだよそれ」


「……ま、まだまだ射出速度に改善の余地がありそうですわ」


 とことこと歩みよったジャンヌが、むんずと回復矢を掴んだ。そしておもむろに投げつける。


「ていっ!」


 べちゃり、と見事に樹木へヒットした。


「ざっとこんなものですわ」


「……矢の意味あるのか?」


「ダレス神はこう言われています。結果良ければそれで良し、と」


 武神の聖印を握りしめたジャンヌの背後で、ばさばさと大量の枯れ葉が舞い散った。


「……あ」


「すごいな……植物も殺せるのか。なんていうかもう、攻撃回復魔法だな」


 まわりの騎士達が怯えていた。

 すくなくともこれで、ジャンヌに治癒して貰おうなどと考える命知らずも、いなくなったことだろう。


「ふんっ、もとより聖なる癒しを、邪教の輩になぞ与えようとは思ってませんわ。竜神の信者など、魔族と同じく赦されざる存在なのですから」


「そういうのは、あたし達が居ないとこでやってくれ」


 ジャンヌの固い頭に鉄拳制裁をくれてやる。そしてシグナムは、伝令兵へ忙しく指示を出しているアラド子爵へ声をかける。


「なあ、さっさと始めた方がいいんじゃないか? もたもたしてると逆に奇襲されるぞ。あいつら魔族は勘がいいからな」


「ええ、間もなく準備が整います」


 あらかたの指示を出し終えたアラド子爵がうなずいた。


「すでに先陣を任せた部隊は、丘の斜面に伏せています」


 アラド子爵が雨にけぶる丘陵を指さす。


「今後到着する騎士達は両翼に分け、順次投入する予定です」


 その言葉通り、後方の兵達が丘の斜面へ隠れるように、左右前方へ散開していく。

 先陣に立つ騎士達はいずれも下馬しており、徒士(かち)で移動していた。興奮した馬のいななきなどで、奇襲が気取られることを嫌った結果である。


「まだ、魔族の野営地に動きは見られません。この機を逃したくはないので、後続を待たず攻勢を開始します」


 どのみち軍勢の集結を待ったところで、三万の兵を一気に展開させられるほどに開けた空間は、この一帯に存在しない。


「……そろそろいいようですね。ディモス将軍、ご裁可を」


「うむ。皇竜騎士団第三、第四大隊、および第七から第九大隊へ前進命令を出せ。各大隊長達に、諸君等の奮戦を期待する、と言い添えてな」


「はっ!」


 すぐに伝令兵が走り、(つど)った騎士達が進軍を開始した。

 丘を鋼色に埋めながら、五千の軍勢がひそやかに野営地を包囲する。


「初めてだな……魔族相手に奇襲が成功するのを見るのは」


 丘の頂上に達した騎士達はそこで歩みを止め、身を伏せて突撃命令を待つ。

 やがて包囲が完了したと判断したディモス将軍が、ゆっくりとした大きな動作で采配を頭上に持ち上げた。


 そして、無言で腕は振り下ろされる。


 開戦の幕は切られた。とたんに地を揺るがす振動と、嵐にも負けない金属の擦れ合う音が響く。

 五千の先陣が、一糸乱れることなく突撃を敢行していた。


「……すごいな」


 シグナムのつぶやきには感嘆の色が混じっていた。傭兵ではどれだけ訓練を積んだところで、ああまで統率のとれた軍行動は難しいだろう。


「では、我々も戦況が見渡せる場所まで移動いたしましょう」


 両翼を各一個大隊、二千騎に守られた本隊も移動を開始する。

 しかし、魔族達の反撃も早かった。アルフラ達が丘を登りきる前に、魔法の行使を示唆する衝撃音や、大気の振動が伝わってきていた。

 騎士達から凄まじい(とき)の声が上がり、怒号が飛び交う。


 ディモス将軍率いる本隊は、戦場全体を見渡せる位置に立ち、眼下を見降ろす。


 ロマリア軍の先陣は野営地へ突入する前に、魔法による迎撃に晒されたようだ。丘のふもとには多くの屍が転がり、えぐれた地面や雨の中に燃え上がる炎が、その脅威を物語っていた。そして今も風の唸りを掻き消し、大気を揺るがす破裂音や閃光が届いてくる。


「これだけ有利な状況を作り出せても……さすがに一方的な戦いとはなりえぬか」


 ディモス将軍の声は、苦々しいものだった。


 数に勝り地の利を()、その上奇襲にまで成功してなお、有利に戦いを進めるには至らなかった。


 すでに魔族は陣を構築しつつあった。ロマリア軍に包囲されながらも、半円形に隊列を組みあげていく。一切の武具を必要としないぶん身が軽く、おそろしく対応が早い。そして、数百名にも及ぶ魔法での反撃はあまりにも苛烈だ。


 しかしそれでも、騎士達は圧倒的な数の利でもって野営地に肉薄していた。


「中備えの騎兵に伝令!!」


 戦場(いくさば)の喧噪に負けぬ大音声(だいおんじょう)でディモス将軍が告げる。


「敵中央を突破し、魔族共を分断せよ!!」


 すかさず伝令兵が駆け出す。


「ディモス将軍。魔族の陣右手がやや薄いように感じます」


 野営地を見下ろすアラド子爵が進言する。


「いま破城槌隊を突入させれば、敵陣中程まで食い込めるのではないでしょうか」


「よし! 破城槌隊に伝令!!」


 二人のロマリア軍司令官は、風雨により著しく視界が制限される嵐のなか、よく戦況を見極めていた。

 押しているとは言いがたいが、それでも互角に魔族の軍勢と渡りあえている。


「後続の展開を急がせろ。正面を抑えつつ、両翼を順次突入させよ!」


「このまま乱戦に持ち込めれば……」


 主に魔法を攻撃手段とする魔族に対しては、かなり有利に立ち回れるはずだ。しかし……


「おかしいですね」


 フレインがそうつぶやいた。


「これだけの激戦が繰り広げられているにもかかわらず、咬焼らしき魔族の姿が見えない」


「うむ……」


 うなずいたディモス将軍の顔も厳しい。

 出来れば消耗戦は避け、咬焼を討ち取り魔族を敗走させたいのだ。

 眼下では一進一退の攻防が続いている。


「野営地内における天幕の並びぐあいから見て、おそらく正面に見える小高い丘が魔族の本陣だと思うのですが」


 野営地自体はなだらかな盆地となっており、前後を丘に囲まれている。いまフレイン達が立っているのは、その内のひとつだ。

 戦況に注視していたシグナムが、ちらりとアルフラへ目を走らせる。


「あたし達も出るか? この状況で咬焼が出て来たら、戦線が一気に崩れるぞ」


「いえ、私達は――」


「アルフラちゃんを見てみろよ」


 フレインがそちらへ目を向けると――すでに抜き放たれた細剣が、青白い燐光を発していた。アルフラはうずうずと落ち着きなく、戦場を見下ろしている。

 呼んでいるのだ。

 戦いの喧噪と血のにおいが、耐えがたい誘惑をアルフラに感じさせていた。


「アルフラちゃんは、そう我慢がきくほうでもないしな」


 アルフラが飛び出して行ってしまえば、この場の誰も追いつけないだろう。

 単身先走られるよりは、背中を守りつつ、上手く(ぎょ)すことを考えた方が得策だ。

 アルフラが冷気を振り撒きはじめる前に、なんらかの行動を起こした方がいい。


「……仕方ありませんね」


「よし、アルフラちゃん」


 シグナムは手を伸ばし、雨に濡れ、頬にたれかかった亜麻色の髪を後ろへ流してやる。


「いいかい? 今から前に出るけど、あたしから離れちゃダメだよ。孤立して囲い込まれたら、いくらアルフラちゃんだって蜂の巣だ。常に自分とあたしの立ち位置を把握したうえで動いてくれ」


「うんっ、わかった!」


 はやく、はやく、と鳶色の瞳がせがんでいる。


「フレインとルゥは距離をとって後ろからついて来てくれ。ジャンヌ、お前は留守番だ」


 待ちきれないアルフラは、シグナムの手を掴みぐいぐいと引っぱる。


「おいおい、あわてなくても魔族は逃げやしないよ」


 それでもシグナムを引く手はゆるまない。最近のアルフラは、魔族からですら逃げられることが多いのだ。もちろん逃げきれた者もいないのだが。


「じゃ、行くか」


 嬉々として駆け出すアルフラを、ディモス将軍が眉をひそめて見送る。まるで、遊びに出かける子供のようにはしゃいだ様子に、ろくな働きは期待出来なそうだと思ったようだ。


「将軍。皇竜騎士団の精鋭を百騎ほどお借り願えますか?」


「それは構いませんが……」


「このままではこちらの被害も広がる一方だ。どこかで流れを変えなければならない――私もそろそろ出ましょう」



 ヨシュアが氷の魔剣を抜き、静かに一歩踏み出した。

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