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氷の滅慕  作者: SH
五章 絶愛
110/251

盲愛の澱



 夜へ紛れるように、女吸血鬼は“その場”へ忍び寄った。

 月のない暗い森の中で、片膝をついてうずくまるアルフラを認め、立ち止まる。


 辺りには焦げ臭い空気が立ち込めていた。焼けた地面の所々で燃える残り火が、少女を(あか)く朱く照らし出している。


――このガキ……


 アルフラは、自らの膝で寝かしつけるようにして、半裸の女をかき(いだ)いていた。

 魔族とおぼしきその女は、すでに死んでいるようだった。腰にはしっかりと腕が回され、アルフラは力無くのけ反った上体を支えている。その唇は、女魔族のあらわとなった右の乳房へ、吸い付くように押し付けられていた。


――血相変えて飛び出していったと思えば……とっくにお楽しみの最中かい……


 女の胸から唇がわずかに離れ、その下から綺麗に舐めあげられた傷口がのぞく。

 おそらく足元に転がる短刀で、右の肺に穴を空けたのだろう。

 肺は人体の中で、心臓と並んで多く血液が集まる場所だ。

 しかし、その血もほとんど(すす)り尽くされたらしく、傷からはわずかばかりの残滓がこぼれ出るのみだった。

 アルフラはさらに、女魔族の衣服を短刀で裂き、太ももの付け根に傷を作る。

 大腿動脈――親指ほどの幅がある、下半身において最も太い血管だ。


――えげつないねぇ……一滴残らず搾り取る気か……


 吸血鬼ですら、その手際には舌を巻いていてしまう。

 普通であれば、とてもではないが年端もゆかぬ少女に、()せるような(わざ)ではない。

 いったい、何がアルフラをそこまでさせるのか、カダフィーには想像もつかない。



 ――ただ、誰かの名を呼ぶような、かすかな声が聞こえて来ていた。



 闇夜の悪鬼は、女魔族の足首を無造作に掴み、乱暴に下半身を持ち上げる。

 性器の脇に付けられた傷に、アルフラの口が寄せられた。

 したたり落ちる赤い流れを、血色(ちいろ)に染まった舌がねぶり上げる。

 舌先が、傷口をこじ開けるように潜り込む。

 夜目にも鮮やかな白い喉が、ごくり、ごくり、と上下していた。


 その行為に魅入っていたカダフィーが、ふと気づく。

 血を吸い上げながらも、アルフラは向けられた視線を察知していたようだ。

 呼吸をせず、体温もなく、己の妖気すら押し隠していた女吸血鬼の存在を、アルフラは敏感に気取っていたのだ。

 女魔族の股間に顔を埋めたまま、舌と喉は休めることなく、鳶色の瞳が――じっとカダフィーを凝視する。


 思わず、一歩あとずさってしまったのも、仕方のない話だろう。


――な、なんて目ぇしてやがる……


 一瞬、カダフィーの脳裏に、獲物を一人占めしようと牙を剥き威嚇する、獰猛な肉食獣のイメージが想起(そうき)された。――しかし、いま目にしている“もの”は、そんな可愛らしい存在ではない。

 瞳の奧で蠢動(しゅんどう)する――(おり)のようによどんだその情念は、決して獣が持ちえるものではない。


 向けられた苛烈な悪意。体温のないはずの身体が怖気(おぞけ)に震える。

 同じものを“主食”とする者同士、この場に止まれば争いは避けられない。

 己の生存本能に従い、背を向けることなくアルフラから遠ざかる。

 視界から完全に姿が消えるまで後退し、カダフィーは来た道を引き返した。



「……まったく……あたしよりも吸血鬼に向いてるんじゃないかね、あの娘は」





 シグナム達は、ルゥの鼻を頼りにアルフラを追っていた。


「あっち! あの林の中だよっ」


 一行は足元を確認しながら進む。

 注意を怠ると、下生えに隠れた岩や木の根に足をとられてしまう。

 気の焦るシグナム達の前から、先行していたはずのカダフィーが走り寄って来た。


「……なんだよ。あんた、先に行ったんじゃなかったのか?」


「ああ、そうなんだけどね……とっくに終った後だったよ」


「アルフラちゃんは無事か?」


 女吸血鬼は肩をすくめる。


「相手はただの斥候だよ。そんな奴らに、あの嬢ちゃんがどうにかされるとでも思ってるのかい?」


「……そうか。そうだよな」


「むしろ嬢ちゃんに見つかっちまった魔族の方が、災難てもんさ」


 軽く息を吐いたシグナムが安堵の表情を浮かべた。そして、カダフィーを押しのけ雑木林の方へと歩きだす。

 もう急ぐ必要もないと思ったのだろう。

その歩調はゆっくりとしたものだった。

 しかし、シグナムの背に声がかかる。


「ちょっと待ちな。いま嬢ちゃんは食事の真っ最中だ」


「食事……? ああ、アルフラちゃんが血を飲んでるってことか」


「そういうことさ」


「…………なぁ、ふと思ったんだけど……」


 シグナムは言いかけて口ごもる。

 めずらしく歯切れの悪いその様子に、カダフィーが怪訝な顔をした。


「なんだい?」


「いや……あんたさ、魔族を“噛んで”さっきの奴らみたいに情報を引き出せないのか?」


「あぁ、そういうことかい。出来なくもないけど、大概の魔族は無理だね。あいつらときたら、そういったのにも耐性があるらしくてね。ほとんど成功したことがない」


「試したことはあるのか……じゃあアルフラちゃんに殺られちまった魔族をちょっと――」


 カダフィーはうんざりしたように首を振る。


「私に死体を噛めってのかい? 冗談じゃないよ。第一、屍を知性ある不死者へ変えるのは、すっごくむつかしいんだからね」


「そうなのか?」


 シグナムは、当のカダフィーにではなくフレインへ尋ねた。

 なぜか、死体の血を飲むことに嫌がるそぶりを見せるカダフィーが、嘘をついているのではないかと思ったようだ。


「私は死霊魔術に関しては門外漢ですが――死者の体から抜け出た魂魄を呼び戻すことは、非常に困難だと聞いたことがあります」


「そう。招霊専門の導師が居れば話は別だけど……ホスローですら魔導衣の力を借りないと、成功率は五分ってところだろうね」


「……ようするに、あんたには出来ないってことか」


「ま、そういうことだね。生きている人間なら十中八九は下僕に出来るけど、死体は無理さ」


 チッ、とシグナムが鋭く舌を鳴らす。


「使えない奴だなっ。面倒事は持ち込むくせに」


「ふんっ。だいたい、あの嬢ちゃんの後じゃ、私の分なんて残ってやしないよ」


「……しょうがないな。まずはアルフラちゃんを迎えに――」


「だから待ちなって。私の話を聞いてなかったのかい?」


 ふたたび雑木林へ向かおうとしたシグナムの肩に、カダフィーの手がかかる。


「今は近づかないほうがいい。……まぁ、怖いもの見たさってんなら止めないよ。お勧めはしないけどね」


 ルゥが何事かを思い出し、ぶるりと震えた。そんな狼少女をからかうようにカダフィーは言う。


「見物料代わりに、嬢ちゃんのデザートにされるのは嫌だろ?」


「胸糞悪くなる冗談言ってんじゃねえよ」


 険しく眉を寄せたシグナムに、カダフィーが微笑みかける。その顔は、面白そうに笑んではいたが、目は真剣である。


「…………とりあえず」


 シグナムは、すっと目を逸らし、声を落とす。


「馬車まで引き返すか……」


「それがいい。私も戻って“食事”にするから、あんたらも飯の仕度でもしてな」


「うん、そうしよ。ね、お姉ちゃん。早く戻ろうよ」


 ルゥは食欲とは別のところで、一刻も早くこの場から立ち去りたいらしい。口ぶりに切実さが感じられる。


「そうだね。飯の用意でもしながら、アルフラちゃんの帰りを待とう」


「嬢ちゃんの分はいらないと思うけどねぇ」



 シグナムはきつい眼差しでカダフィーを睨んだが、それ以上はなにも言わず、馬車の方へと歩きだした。





 ぱちぱちと爆ぜるたき火を囲み、アルフラを待つこと約半時。

 暗がりから音もなく現れたアルフラが、シグナム達のもとへ歩み寄った。


 すでにその接近を感知していたルゥが、おそるおそる、といった口ぶりで声をかける。


「お、おかえりっ、おそかったね」


 鼻のよいルゥには、アルフラのまとった濃い血臭が、かなり遠方からでも感じられていた。


「ちょっと、河で体を洗ってきたの」


 かなり入念に洗ってきたのだろう。アルフラの肌には汚れひとつなく、綺麗なものだった。しかし、革鎧には赤黒い(まだら)模様が出来ている。染み付いた血痕までは落とせなかったらしい。


「アルフラちゃん、おかえり。飯出来てるけど……どうする?」


「うん……」


 少し考えたアルフラが、首を横に振る。


「いい、あたしの分はルゥにあげて」


「今日は、干し肉をざっくり湯がいたんだ。ちょっとだけでも腹に入れとかないか?」


「……ごめん。すこしだけ吐き気がするの……」


 そっか、と一言だけつぶやき、シグナムは黙り込む。

 たしかにアルフラの顔色は白く、具合が悪そうだ。――だが、機嫌の方はよさ気である。

 口許にはうっすらと笑みが張り付き、濡れ光る瞳は充足感に満ちている。


 それまで、終始むっつりとしていたジャンヌが、木の(わん)に豆と干し肉のスープをよそい始めた。

 各々(おのおの)に食器を配り、アルフラへぽつりと言葉をかける。


「このスープはわたしが味付けしました。きっと口に合うはずです」


 むすっとしながらも、ジャンヌは空の椀をアルフラの前へ置く。


「ちゃんとアルフラの分も残しておきますので、具合が良くなったらお食べなさい」


 目も合わせず、無愛想な声音ではあったが、一応は吐き気がすると言うアルフラを気遣っているようだ。


「……うん、ありがと」


 軽くうなずいたアルフラは、シグナムの横に座る。


「よし、飯にしよう」


 シグナムは、寄り添うように肩を預けてきたアルフラへ、笑みをもらす。


「アルフラちゃんも具合がよくなったら、ちゃんと食いなよ」


 ディース神殿での戦いを知るシグナムは、かなりアルフラの精神状態を心配していた。しかし、少し甘えたような仕種を見せる普段通りのアルフラに、どうやらただの杞憂(きゆう)だったと感じたようだ。――もっとも、自らの口と舌を使い、直接魔族の体から採血するアルフラの姿を見れば、杞憂だなどと言ってはいられなかっただろう。


「お肉、いっぱいっ」


 気を取り直したルゥが、少し遠慮がちな声で喜びをあらわした。

 本来であれば、このまま和やかな食事の時間となるはずだったのだが……。

 間の悪いことに、カダフィーもちょうど食事を始めたらしい。

 荷馬車の方から聞くに堪えない男の喘ぎ声が聞こえてきていた。


「食欲が失せますわ……」


 ジャンヌのつぶやきには、たき火を囲むみなも同意見だった。



 一同はとても微妙な雰囲気の中で、干し肉を入れすぎた塩辛いスープに口をつけた。





 夜も日付が代わろうかという刻限。森の中に投げ棄てられた全裸の屍を、四人の魔族が取り囲んでいた。


「信じられん……いったい何者が穂純殿を……」


「ラザエル-エスタニア連合軍の本隊はまだ遠い。ロマリア軍の仕業であろうか?」


 彼らは主である男爵位の魔族、咬焼(こうしょう)により派遣された斥候の部隊である。

 その任務は、ロマリアの求めに応じ進軍してきたラザエル皇国とエスタニア共和国軍の、規模と進軍経路を特定することにあった。

 必要な情報を集めた彼らは、咬焼が本陣とするトスカナ砦へ帰還する途上だった。

 部隊の指揮官でもあり、足の早い穂純達二人が、他の者に先駆け帰路を急いでいたのだ。


 しかし、追いついてみれば二人は無惨な(むくろ)を晒し、あまつさえ全裸に()かれているといった状況だった。

 当初は、衣服を()ぎ取られていることから、人間達にその屍を辱められたのでは――という推測もあったのだが、どうやらそういった訳でもないらしい。

 穂純達の身体に残された無数の刺創(しそう)からは、ほとんど血が流れていなかった。

 おそらく血液を抜くために殺されたのだ、という結論に達し、四人の魔族は激しく憤慨した。


「人間ごときが!」


 怒気もあらわに言い捨てた男の隣で、仲間の一人が穂純の遺体へ外套をかける。


「しかし……()せんな……」


 周囲の状況を見るに、かろうじて抗戦の跡はあるものの、ろくに反撃の(いとま)もなく、穂純達は殺されたようだ。

 しかも、踏み荒らされた下生えの状態から察するに、相手はごく少数といった痕跡がある。


「人間どもにこのような真似が出来るとは思えん」


 低く囁き合う斥候達のもとに、付近の偵察へと出ていた魔族が駆け寄ってきた。


「南東の街道で二台の馬車を発見した。数名の者がたき火を焚いて不寝番(ふしんばん)をしている。おそらく、そやつらが穂純殿を殺したと見て間違いない」


「相手の数は?」


 短く返された問いに男が答える。


「正確には分からんが、十名前後だろう。明石(あかし)を見張りに残してきた」


「そやつらはロマリアの者達か?」


「それが……」


 男は首をひねり渋い顔をする。


「よく分からんのだ……感じられた気配はおそろしく雑多で、ほとんどの者が人間ではないのかもしれん」


「人間ではない?」


 不可解な状況に、しばしの沈黙がおりる。

 やがて、腕を組み黙考していた男が、穂純の亡骸(なきがら)を見下ろし、ひとつ頷く。


「……直接、我らの目で確かめるしかあるまいな。これをやったのがその者達ならば、仇を討たねばならん」


「だが、穂純殿を苦もなく倒したような相手だぞ。我々だけで……」


 腰の引けた物言いをする男へ、きつい口調で反論がなされる。


「ならばお前は、穂純殿を殺され、このままおめおめと咬焼様のもとへ帰れるか?」


「それは……」


「なんとしてでも、穂純殿を討った者の首を持ち帰らねばならん。でなければ、逆に我らの首が焼き切られてしまう」


 主の気性を(かんが)みれば、それが一番ありそうな結末だ。


「……仕方あるまい」



 こうして魔族の斥候達は、正体の分からぬ敵を相手に、あまりにも無謀な戦いを()いられる“破目(はめ)”となった。





 街道から、やや離れた草地に灯る炎がひとつ。

 たき火の番をしていたのは、なんとも奇妙な取り合わせだった。

 剣の手入れをするシグナム。手を組み祈りを捧げるジャンヌ。そして、シグナムの体を眺めてにやつくカダフィー。


「……おい。薄気味悪い目でこっち見るなよ」


「おや、失礼。本当にいい体してると思ってね」


 そう言いながらも、ねちっこい視線は依然、肉感的な体の輪郭へ絡むようにまとわりつく。


「見張りは私がやるから、あんた達は寝ててもいいんだよ?」


「あたしはお前を見張ってるんだ。吸血鬼のそばで呑気に寝てられるかよ」


 そのもっともな意見に、カダフィーは声を上げて笑う。


「いい心掛けだね。でも、ちゃんと周囲にも気を配ったほうがいい」


「あ?」


「気づかないかい? 気配を隠してはいるけど、私達を見張ってる奴が居るよ」


 カダフィーはシグナムから視線を外し、その後方の闇を透かし見る。


「……魔族か?」


 振り返ることなく問うたシグナムに、肯定の意が返される。


「たぶんね。馬車で寝てる子らを起こして来なよ」


「ああ」


 しかし、立ち上がったシグナムの前で、馬車の扉が静かに開かれた。


「おっ、アルフラちゃん。ちょうどいい。いま――」


「うん。わかってる」


 答えたアルフラは、すでに革鎧を身につけ細剣を腰に吊していた。


「もう気づいてたのか……ルゥは?」


「中で着替えてる。鎧着けるのに手間取ってるみたい」


「めずらしな。いつもは動きにくいって嫌がるくせに……あっ、今回は勝手をしちゃだめだからね」


 軽く眉を吊り上げて見せたシグナムへ、だいじょうぶ、との返事がなされた。

 そしてアルフラは、そのままたき火の前に座り込む。


「……ん?」


 てっきり、魔族目当てに飛び出して行ってしまうのでは、と思っていたシグナムが首を傾げる。

 妙に落ち着いた様子のアルフラに、満腹の獅子が獲物を見逃すかのような余裕を感じた。

 不思議そうな顔をするシグナムへ、アルフラがにっこりと笑う。


「一人ね。森の方へ向かっていったの」


「え……? あたし達を見張ってるっていう魔族のことかい?」


「うん。もう一人はこっちをうかがってるような気配があるから……森へいった方は、たぶん仲間を呼びにいったんじゃないかな」


 普段は物事に対して、あまり使われることのないアルフラの頭が、驚くべき働きを見せ、鋭い洞察力を発揮していた。


「……なるほど」


 満腹の獅子だなんてとんでもない、とシグナムはため息をつく。

 ただたんに、アルフラは知っていたのだ。(あぎと)を開いて待っていれば、勝手に獲物の方から飛び込んで来てくれると、知っていただけなのだ。


 シグナムががっくりとしていると、荷馬車の扉からフレインが出てきた。

 寝起き、といった感じではない。おそらく犠牲者たちの棺に囲まれ、寝付けなかったのだろう。


「ああ、やはり皆さんも気づいていましたか」


 やや遅れて、ルゥも馬車から降りてくる。

 狼少女はしっかりと革鎧をまとい、滅多に着けることのない肩当てまで装備していた。


「どうした? いつもはあんなに鎧を着るの嫌がってたのに」


「うん……今日はね、新月なの」


 内股でふるふると身を震わすルゥは、少し涙目だった。


「そういや月が出てないな……新月だったのか」


 星空を仰いだシグナムが、大きく夜気を吸い込んだ。


「やっぱり新月だと調子が出ないのか?」


「すごくでない……体おもいし。だるいし。――前に長老さまがいってたの。月に一度の新月の日は、ボクたち獣人は普通の人間と変わらないくらいひ弱だから、おうちでおとなしくしてなさいって」


「月に一度……生理みたいなもんか」


 シグナムのつぶやきに、フレインが軽くむせる。


「……しかし、獣人族は月齢が浅いと身体能力が落ちる、とは聞いていましたが……新月だとそんなにも弱体化するのですか?」


 フレインの問いにこくこくと頷く。


「たぶん転んだだけで死んじゃう(死にません)」


 ぽろりと涙を零したルゥの手へ、ジャンヌが自らの手を優しく沿える。


「大丈夫ですわ。ルゥは私が守ってあげます。魔族などには、指一本たりとも触れさせはしません」


「ジャンヌ……」


 なかなか頼りになる子分だと思ったルゥは、潤んだ瞳でジャンヌを見上げた。


 なぜか二人の間に漂いだしたいい雰囲気に、フレインはどぎまぎとしてしまう。


 しかし、どこか物騒な笑みを浮かべた神官娘が、ダレス神の聖印を力強く握りしめる。


「万が一怪我をした場合でも、私がすぐに癒して差し上げますわ」


「それはいや」


「やめて下さい」


「ルゥを殺す気か」


「人殺し」



 最後の一言には、それをお前が言うのか、というカダフィーの目がアルフラへと向けられた。

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