流星眼
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
先輩は、これまで流れ星をどれだけ見たことがありますか?
流れ星を前にして、消える前に願い事を三回いうことができると、願いが叶うという言い伝えがありますが、実物を前にするといかに難しいか思い知りますねえ。
流れた、と思った時にはもう消えちゃっている感じですし。口に出していたら少なくとも間に合いません。頭の中で超短く三連チャンしても、いけるかどうか……それくらい、自分の願い事とかは普段からはっきりさせておけ、というアドバイスかもしれませんね。
特に流星群のシーズンなどではない夜空で、人が一時間のうちに見られる流れ星の数は1個前後と聞いたことがあります。
数の多さは安心を招くでしょうが、その少なさは逆に緊張感を生むでしょう。前触れなきその光を、どのようにしても見逃すまいと……。
流れ星に関する、私の昔の話なのですけれど聞いてみませんか?
私は小学校を卒業するまで、流れ星らしい流れ星を見たことがありませんでした。
先に話した流星群のときなども、そうなんですよね。家族と一緒に見るときも、私は一向に流れ星を見ることがありません。
他のみんなは、見えた、流れたと指差してくれるのですが、そちらを向いてもすでに遅い。それでいて、私の視界の中に流れる星の光は一向に滑る様子を見せない。
みんなして、わたしをたばかっている。そう考えたほうが、確実なようにさえ思えました。みんなが見えると思い込んでいて、実は流れ星などないのではないか……とも。
なので私が、それまでに流星を見たのは映像の中だけの話。本当にそのようなものがあるのだろうか……と存在を疑い出すほどになっていましたね。
なので、中学生になってから、堰を切ったように流れ星が大勢で寄せてきたときは驚いたものです。
ひょいと空を見ると、10分や20分に1度は見るくらいの頻度がメイン。運がいいと、それこそ流星群シーズンじゃないか、というくらいでフィーバータイムですね。今度はまわりのみんなのほうが流星を確認できないほどです。
うっぷんの溜まっていた立場からの逆転。当初は気持ちよかったですねえ。困惑しているみんなに、得意顔してやるのは良いストレス解消になります。
とはいえ、数を重ねていくと、みんなと体験を共有できないという一抹のさみしさを覚えはじめましたけれど。なぜに、こうも流れ星にめぐり合えるようになったのか、私にはちょっと理解ができませんでした。
そんなある日のこと。
たまたま父が仕事から早く帰ってきて、一緒に流れ星を探さないかと誘ってきたんですね。
父が青年のころ、天体知識を少しかじっていた話は聞いていました。でも流星群の時期でもないのに、天体観測のたぐいに誘ってくることはめったにありません。
私も父のことは嫌いじゃないですからね。珍しいこともあるもんだと、我が家のお約束天体スポットである、二階からの張り出し屋根の上へ並んでごろりとしたんです。あらかじめブルーシートを用意してね。
「最近、お前がやたら流れ星を見るって話しだったな」
父にも少し前に伝えていたことです。正直にうなずきました。
「しばらく、流れ星が見えた方向を教えてほしい。光の色も込みでな。それによっては、このあとにお出かけすることになるかもしれない」
妙な流れになってきたぞ、と思いましたが、父にはさほど切羽詰まった様子が見られません。よほどの自信があるのか、あるいはよくわかっていないがために悠然と構えているのか。
いずれにせよ、ただぼんやり空を眺める時間で終わりそうにはないです。おもしろいかもしれないなと、私はそのまま協力することにしました。
寝転がってからほどなく、空へ光が走り出します。
「白、白、緑、白、紫、緑……」
私は流れた方向を指さしつつ、見えた光を告げていきました。どの光もあっという間に走って消えますから、色に関してはほぼ反射神経でしたね。
父は黙って、私の指さす方を次々にちらちら見るばかり。はからずも、流れ星に縁がなかったときの私が、みんなに対して行っていたことを、真似していました。
今日はとてつもなく多かったですねえ。1秒に1つくらいのペースで集中して、途切れたのが3分後くらいです。3ケタは数えたんじゃないかと思いました。
そこからもう5分くらいで、先ほどよりはのんびりした間隔だったものの、およそ100を数えたあたりで、父がひょいと起き上がりました。
「出かけることが決まった。ついてくるか?」
どうやら、父なりの基準はクリアした模様。まだおもしろそうなことが続くのかと、私も父へついていくことにしました。
出発するにあたって、父が用意したのはウォーターガン。数年前の水遊び用に買ったもので、夏が来るとときどき引っ張り出させるそれですね。
二丁ぶん、中へたっぷりと水を入れる父ですが、私へ渡す前にそれぞれの水の中へパラパラと粉末を混ぜました。父いわく、人がなめるのにはちょっときついレベルの辛い塩、とのことです。
「この水鉄砲を持って、地区公民館の裏へ向かう」
地区公民館は、我が家から500メートルほど道路沿いに進んだところにあります。その裏手となると、土がむき出しになった未舗装の駐車場あたり。
そして、観測していた中で最も私が指差した方向であり、最後の赤い光の星が落ちていった方でもあります。
日も暮れた公民館は、利用者がいるわけでもなく、暗く静まり返っていました。
その脇をまわりこんだ私たち二人は、件の駐車場へたどり着きます。停まっている車もまったくなく、それぞれの駐車場所を示すロープが渡されているばかり。ぱっと見ただけでは、おかしいところはありません。
「父さんは右半分を引き受けるから、お前には左半分を任せるぞ。水鉄砲の中身を軽く、まんべんなく吹きかけていけ。でも、全部は使うなよ。少なくとも半分は残すよう、セーブしておけ」
いうや、父は駐車場の右側へ寄ると、ウォーターガンの中身を軽くシュッシュと吐き出していきます。
熟練の技というやつでしょうか。普通に引き金を引いただけなら一直線に飛ぶだけの水が、父の小刻みな指の動きを受けると、霧のごとくスプラッシュしてあたりに散らばるのです。特に発射モードを切り替えられたりしないのですが。
私も私なりに、水の量をおさえながら担当区域を湿らせていきました。
すると、どうでしょう。
こちら方面へ散っていった、星々のそれを思わせる瞬きが、地面のそこかしこで放たれているではありませんか。
「ここはまるで磁石に似たような性質を持った土地だ。引き寄せるのは星ではなく、星の光だけどな。中には、尋常ならざるものが、こうしてある。処分しなくちゃいけない」
そう話し、父はウォーターガンの中身の残りを光へかけていきます。すると、みるみる光はその輝きをなくし、元の地面へ戻っていきます。
私も促されるまま、担当区域の光も同じように鎮めて、帰路へつきました。
父いわく、あの手の光が見えるときというのが、生涯に幾度かのタイミングであるようです。そのときには、やたら多くの流星を目の当たりにするのだと。
どうも私の普段の様子を父が見ていたところ、ビンゴだったらしくて。地理その他の環境も整っていたから、大事には至らなかったらしいですね。私が普通の流れ星を見られない期間があったのも、その前兆のようなものであったと。
それを証拠に、いまは私もみんなと同じ流星を見ることができますよ。やはり同じであると、落ち着くこともありますね。




