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かつての玉座、現在の泥濘

 銀竜の背に乗り、俺が辿り着いたのは北方の未開の地――「忘却の荒野」だった。


 かつての大戦で魔毒に侵され、草木一本生えないと絶望された死の土地。


「ここなら、誰にも邪魔されずに『庭』が作れそうだな」


 俺が地面に降り立ち、その掌を大地に当てた。


 瞬間、世界が震える。


$$Process: \text{World Tree Genesis}$$

$$Environment \ Overwrite: \text{10,000 sqm / sec}$$

 俺の心臓の鼓動に合わせ、紫色の毒沼が清らかな泉へと浄化され、乾いた砂漠から一夜にして巨木が突き上げる。


 それは魔術ではない。権限パーミッションの上書きだ。


 世界樹の根源である俺が「ここは生命の地である」と定義した瞬間、宇宙のことわりが書き換わる。


 数分後。そこには王都の王宮庭園すら色褪せる、瑞々しい「聖域」が誕生していた。


 俺を追ってきた銀竜が、心地よさそうにその木陰で目を細める。


 一方、王都のギルド裏。


 かつての「伝説の聖女パーティ」の姿は、そこにはなかった。


 正確に言えば、あまりの醜態に「パーティ」としての資格を剥奪され、借金の担保として奴隷商会へ売り払われていたのだ。


「ひ、ひいぃ……やめて……私は聖女なのよ……!」


 汚泥にまみれた檻の中で、老婆と見紛う姿のリリアーヌが、震える声で懇願する。


 かつて彼女を称賛した民衆は、今はただ、彼女を「若作りした不気味なババア」として、見世物小屋の珍獣を見るような目で見つめていた。


「おい、この女……鑑定したら、実年齢はまだ『十九』だぞ」


「冗談だろ? この皺を見ろよ。……ああ、そうか。こいつらが無理やり寿命を前借りして『聖女』を演じてたっていう噂、本当だったんだな」


「詐欺師め。俺たちが払った寄付金を返せ!」


 冷たい罵声と、投げつけられる腐った果実。


 リリアーヌは、自分の頬を伝うドロドロの液体を拭う気力もなかった。


 隣の檻では、勇者カイルが「聖剣」を取り上げられ、代わりに重い石臼を引かされていた。


 一歩踏み出すごとに、脆くなった膝の関節が悲鳴を上げ、鋭い痛みが脳を焼く。


(ああ……そうだ。アルがいた時は、この痛みも、この疲れも、すべて消えていたんだ)


 カイルは今さらながらに思い出す。


 戦いの後の宴。アルが差し出してくれた安酒。


 あの時、身体の芯から湧き上がった温かな癒やし。


 あれは「スキル」などという便利な言葉で片付けていいものではなかった。


 アル自身の存在を、削り取って分けてもらっていたのだ。


「アル……すまない……俺が悪かった……戻ってきてくれ……っ!」


 カイルが這いつくばりながら、虚空に向かって手を伸ばす。


 だが、その声に応えるのは、監視の奴隷商人が振るう冷酷な鞭の音だけだった。


「うるせえぞ、老いぼれ! 働け!」


 彼らはまだ、自分たちの「余命」がいくら残っているのかを知らない。


 アルという供給源を断たれた以上、彼らの身体は、一秒過ごすごとに一年分の生命力を消費し続ける。


 もはや、眠ることさえ、彼らにとっては死への加速に過ぎない。


 その頃、俺の「聖域」には、生命の芳香に導かれた森の民――エルフたちが、驚愕の表情で集まっていた。


「……あなたが、この奇跡を起こしたのですか?」


 跪くエルフの長に、俺は静かに頷く。


「ここは俺の家だ。礼儀を守るなら、誰でも歓迎しよう」


 俺の背後で、天を突くほどの世界樹の苗木が、黄金の光を放って急成長を始めていた。

著者の完結済代表作はこちら

「シャルンホルストとグナイゼナウ」

https://ncode.syosetu.com/n4871gn/

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