虐殺の芳名録、あるいは静かなる大河の怒り
全次元を統べる俺の指先に、湿った熱帯の風とともに、数えきれないほどの「名前」が刻まれた紙の感触が伝わってきた。
1965年、インドネシア。50万人以上もの人々が、ある日突然「リスト」に載せられたというだけで川辺へ引き立てられ、命を奪われた惨劇。そして、そのリストを影で作成し、独裁的な軍部に手渡した大国の情報機関。
「……自分たちの手は汚さず、ただ『名前』を渡して殺戮を効率化させたか。命をインクの汚れ程度にしか思わぬ傲慢、ここで精算させてもらう」
俺の隣で、エルゼがかつてないほど激しい軽蔑の眼差しをその過去に向ける。
生命の根源である俺にとって、生きる意志を持つ魂を「思想」や「人種」という名の事務的な記号に置き換えて抹殺する行為は、断じて許されぬ大罪だ。
「エルゼ、行くぞ。……『リスト』を贈るのが趣味なら、自分たちの名前が載った特別な一枚を受け取ってもらおう」
俺は時空を穿ち、虐殺を冷酷に実行した将軍たちの宴と、それを「共産主義の封じ込め」として祝杯をあげたワシントンの密室へ、同時に降臨した。
$$Authority: \text{The List of Retribution}$$
$$Effect: \text{Identity Reversal / Karma Convergence}$$
「な、なんだこの黄金の紙は!? 空から降ってくるだと?」
密室で冷徹な計算をしていた工作員たちが叫ぶ。だが、その黄金の紙に記されていたのは、彼ら自身の出生、愛する者の名、そして彼らが犯した罪のすべてだった。
「君たちは、見知らぬ誰かの名を紙に書き、死へと追いやった。……ならば、今度は君たちが『世界の敵』として、この宇宙の全生命体から認識される番だ」
俺が指を一鳴らしすると、虐殺を主導した者と、それを支援した謀略者たちの肉体に、殺された50万人の「最期の恐怖」が物理的な重圧となってのしかかった。彼らの肌には、被害者たちの名前が黄金の焼印として浮かび上がり、その数だけ魂が削り取られていく。
彼らは死ぬことも、逃げることもできない。
ただ永遠に、自分がリストに載せた人々の「絶叫」を全身の細胞で聴き続け、その魂が完全に磨り潰されるまで『生きた名簿』として、地獄の最下層に掲げられる。
一方で、俺は死体が積み上げられたソロ川のほとりに立った。
血で濁った水はアルカディアの光によって一瞬で清められ、失われた50万の魂は、黄金の蝶となって世界樹の枝へと帰り、永遠の安らぎを得る。
ジャングルには、二度と密告や謀略を許さない『真実を映す大樹』が芽吹き、その地を永遠に守護する聖域へと作り替えた。
「主……。リストに名前を刻まれ、存在を消された人々が、今、貴方様の元で『生命』としての尊厳を取り戻しましたね」
エルゼが美しく微笑み、俺の肩を抱く。
俺は、黄金の焼印に身悶えする「死の演出家」たちの断末魔を背に、再び至高の座へと戻った。
神となった俺の前で、匿名性の影に隠れた罪は暴かれ、記号化された命は再び輝きを取り戻す。
俺の庭において、他者の命を「リスト」で弄ぶ不遜な者には、ただ永劫の恐怖と刻印こそが相応しい。
著者の完結済代表作はこちら
「シャルンホルストとグナイゼナウ」
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