Oh…… 透明人間
途中で視点が変わります。
まさかと思っているのでしょうが、実は私、透明人間なのです。
ショック? ショック? ショック?
怖い? 怖い? 怖い?
私は怖いです。歌詞と被りの著作権が。
阿○悠さん、あくまでもこれはジョークです。お願いですので化けて出て来ないでください。透明人間でも幽霊は怖いんです。
でも、透明人間とあればこれは必然なことなんですし、曲の歌詞と被っているから著作権違反だなんて怒らんでください。
さて、些か古い昭和歌謡ネタはともかく、透明人間といえどやはり人間、冬ともなれば当然寒い。防寒具は必要だ。それにたとえ他者から認識されないとはいえ丸出しというのは尊厳に関わる。私は妖しい存在であっても怪しい存在ではないのだ。
だが、やはりな……。
父祖たちは代々人間の皮を纏うことでその社会へと溶け込み暮らしてきたわけだが、さすがにそれは非人道的というものであろう。
ホラー世界の住人としてはその在り方こそが正しいのではあるが、残念ながら人間というものはそんなに弱い存在ではなく、寧ろ下手をすれば我々の側が駆逐されかねないのが現実。最早人間を襲うなんて時代ではないのだ。
というわけで、現在私の纏っている物は等身大のぬいぐるみ、いわゆる着ぐるみというやつだ。
鏡の前でポーズをとってみるが実に可愛い。やはりくまさんは最高だ。
何はともあれ、着替えは済んだ。
それでは外出だ。
やはりこの格好は目立つのか、周囲からの視線が集中する。大人たちは奇異の目で見てくるし、子どもたちは純粋な憧憬で群がってくる。
う~ん、勘弁してくれ。
通りの電気屋のTVからは熊害のニュース。さすがに着ぐるみが猟友会や警察に撃たれることはないだろうが何とも皮肉だ。いずれく○モンが撃たれたなんてブラックジョークも出てくるのだろうか。
「ふ、やっと見つけたぞ」
そんなナンセンスなことを考えていたせいだろうか、私の前にこいつが現れたのは。ホラー世界の住人であるだけに言霊の概念くらいは弁えておくべきだったようだ。
赤いマフラーの仮面の男。改造された二輪に股がる姿は袴姿でなければどこかの特撮ヒーローを彷彿されるのだが、まあ最近はいろいろあるしなぁ……。
なお違和感が勝るのか、子どもたちはポカーンした目で彼を見ている。素直だ。
「とうっ!」
格好つけた掛け声と伴に跳躍する彼。やはりヒーローを意識しているのだろうが、そんな彼の行動も靡くマフラーがタイヤに引っ掛かることで台無しに。無様に地面との接吻を余儀なくされることとなった。
「くっ、やってくれたな怪人め。
だが、正義は決して悪には屈しないのだ!」
……アホだ。
自滅したくせにそれを他人のせいにする。物の道理も判らないというのは正義被れの悪癖だな。
シャキンと音をさせ腰の長柄の物を抜く。日の光に輝くそれは紛うことなき日本刀。
──って、ちょっと待てよ⁈ 冗談だろ⁈
「悪・即・斬!」
振り下ろされたそれが私を袈裟懸けに両断する。
いや、マジか?
こいつガチでヤバいやつだ。
平和な世の中になったはずなのに、何でこんなやつがいるんだよ……。
不条理の中私の意識は事切れた。
∵ ∵ ∵ ∵
「愚か者め。正義の刃を思い知ったか」
仮面の男が刀を一振し血糊を払う。
まるでつまらぬ物を斬ったといわんばかりの醒めた台詞だが、その実明らかに陶酔ぶりが窺える。
「……って、ちょっと待ってっ⁈
これは正義の執行だからっ!
正義の味方が悪の魔物を退治しただけだから、そんな凶悪な犯罪者を見るような目で見ないでっ!」
必死で弁明を試みる男だが、周囲の大人たちは泣き出した子どもを連れ、みんなしてこの場から逃げ出していた。
冬の冷たい風の中、犬の遠吠えだけが聞こえるばかり。
やがてサイレンが響き渡り、白黒の車がやってくることを伝える。
「マジかよ。正義のヒーローが警察の世話になるなんて洒落にならねぇって」
慌てて二輪に跨がる男。
だがその奇抜な姿と改造二輪では目立つことこの上なしと気付いているのだろうか。
残された現場には血塗れとなった着ぐるみの惨殺死体。透明人間という種族的特徴も死した現在では失われたのか、通常の人間と変わらなくなっていた。
世間を騒がす不思議なことの全てが透明人間の仕業とは限りません。
──って、今の世代にこのツッコミネタは解るのかな?(笑)




