観測開始
砦の中央、拳志とガルドの前に黒装束の兵がずらりと立ちはだかっていた。
「──数が多すぎるな」
ガルドが苦く唸る。拳志も唇を歪め、歯を鳴らした。
「チッ……こっちは2人しかおらんのに、どんだけ湧いてくるねん……!」
周囲を囲む黒装束の兵たちは、まるで感情のない人形のように、無言で刃を構えて迫ってくる。
その向こう、砦の屋根上。黒いフードの男が仮面越しに冷ややかな視線を投げ下ろしていた。
「排除、継続」
その一言で、兵たちが一斉に動く。
「来るぞ!!」
ガルドの叫びと同時に、再び戦闘が始まった。
拳志は拳で、ガルドは爪で、次々に敵をなぎ倒す。
だが、いくら倒しても数は減らない。倒れた傀儡の身体がピクリとも動かない一方で、次から次へと新たな兵が現れては包囲を狭めてくる。
「ラチがあかん……!」
拳志が一瞬、後退しながらガルドに叫んだ。
「おい、ガルド!」
「なんだ!」
「本丸を狙え! 上で操っとるヤツを!」
ガルドは咄嗟に屋根の上を見上げる。
仮面の男は淡々と魔力を発し続けていた。
「俺が行ったらお前が──!」
「ええから行け!! 道は俺が作ったる!!」
拳志の怒鳴り声が、砦中に響き渡った。
ガルドが迷いを振り払うように叫んだ。
「……借りるぞ、道!」
その言葉とともに、ガルドは地を蹴った。
拳志はすでに、敵の群れに正面から飛び込んでいた。
「オラァァ!! こっち来いッ!!」
咆哮とともに、拳志が左右から迫る兵を殴り飛ばす。
振るった拳が、鎧ごと敵を吹き飛ばし、砦の柱を叩き割る。
「どいつもこいつも、まとめてこいやぁあ!!」
拳志は暴れる獣のように、あえて敵の中央へと突っ込んでいく。
敵兵たちがガルドに向けていた視線が、次第に拳志へと集中していく。
「この先は通さん……!」
敵の進路を塞ぐように、拳志が両腕を広げて立ちふさがる。
周囲の敵が一斉に襲いかかり、拳志の体はついに地面に叩きつけられた。土煙が舞い上がり、骨が軋む音が響く。
「……っがはっ……」
だが、拳志は倒れたままでは終わらない。
地を踏みしめ、軋む腕に力を込める。
「へばってられるか……!」
血が滲む唇を吊り上げるように笑みを浮かべ、拳志はふらつきながらも立ち上がる。
「ガルドが通る道は……俺が繋ぐ……!」
再び拳を構え、今度は踏み込むように前へ──
だが、彼の身体にも確実に疲労は積もりつつあった。
「……クソ……しんどい……でも、止まったら終いや……!」
歯を食いしばり、息を吐くたびに立ち止まりそうになる足を前へ。
「立て……動け……まだ終われるか……!」
拳志は自分に言い聞かせるように、血まみれの拳をもう一度、振るい上げる。
その姿は、まるで一人で戦場を裂く獣だった。
その間に──
ガルドは屋根の端まで駆け上がり、操る者と対峙していた。
「……お前が、今回の誘拐事件の元凶か」
「抵抗、無意味。排除開始」
仮面の男が片手を上げると、空間がきしむ。
無数の魔法陣が空中に展開され、無数の魔弾がガルドを襲った。
「チッ、うっとうしい!」
ガルドが跳ねる。足元を光の魔弾がえぐり、背後からも追尾弾が殺到する。
鋭い閃光の雨を、ガルドは本能で読み、紙一重で回避する。
「回避パターン──解析完了。次段階へ移行」
仮面の男は、感情のない声で淡々と告げた。
再び魔法陣が増幅。空中に巨大な矢のような術式が現れ、雷光を帯びてガルドに襲いかかる。
「──くっそ!!」
咄嗟に防御するが、衝撃が全身を貫き、屋根瓦を削りながら数メートル吹き飛ばされた。
肩口から血が吹き出し、皮膚が焼け爛れていた。
「一撃……でこの威力か……!」
ガルドがよろめきながらも、屋根に爪を突き立てて踏みとどまる。
(こいつ……ただの操者じゃねぇ。個としても、強ぇ……!)
肩を焼かれた痛みが走る。
仮面の奥の無機質な瞳と、静かに睨み合う。
ガルドはふと、砦の中央で一人、敵の大軍と拳を交える男に目を向けた。
(……それでも、あいつの拳ほどじゃねえ)
瞬き一つ。再び、前を見据える。
「……やるしかねぇだろ、こんなもんよ」
「お前らだけは許さねぇ!!」
ガルドの身体が獣のようにしなり、爪が煌めく。
「うぉおおおッ!!」
真横からの回り込み。仮面の男の背後に回り、横薙ぎに斬りつける──が、空間が滑る。
「重力魔術……!? 攻撃が届かねぇ!?」
男の周囲には、目に見えないバリアのような力場が張られていた。
ガルドの攻撃は寸前で軌道を逸らされ、皮膚を掠めるだけに終わる。
「防御領域、正常稼働。反撃、開始」
風が止まった。世界の音が、一瞬で消えた。
仮面の奥で、誰かの声が重なった気がした。──『観測開始。外れた因子、確認』
次の瞬間、砦そのものがうねりを上げた。




