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沈む灯と、鳴る拳

砦の中央で拳志とガルドが激闘を繰り広げていたその頃、

レインとアリシアは別の通路を駆け抜けていた。

彼らの目的は、囚われた獣人たちの救出だった。


「この方角!捕らわれた人たちは、地下にいます。ここから少し北側、砦の裏手です」


「わかったわ」


アリシアが即座に駆け出す。その足取りには焦りよりも、確信があった。


砦の裏手、木造の外壁に手をかざすと、ゆっくりと魔力を流し込む。


「……ここね。隠し扉よ。魔術で封じられてるけど、構造は単純。少し古い結界……」


アリシアが振り返る。


「レイン、解除、頼める?」


「はい。……構造式、解析開始します」


レインが指先に魔力を集中させ、無言で印を結ぶ。

木の表面が微かに波打ち、空気が揺れる。


「解除、成功。開けます」


レインが指先で印を描くと、隠された扉のロックがカチリと音を立てて開いた。


中には、怯えた目をした獣人の女や子供たち二十数名の姿。


「大丈夫! 助けに来たわ!」


アリシアが駆け寄り、次々に魔力で拘束具を断ち切る。

小さな手がアリシアの袖をぎゅっとつかんだ。「……帰れるの?」震える声に、アリシアは強くうなずく。「帰れるわ。今すぐに」


「このまま外へ。走れる人は自力で。子供は僕が補助します!」


レインが軽やかに詠唱を唱えると、足元に淡い風の魔法陣が浮かび上がる。

その魔力は、子供たちの足元へと広がり、小さな浮遊の床を形成していく。


「大丈夫、動かなくていいよ。そのまま乗ってて」


床は空気のクッションのように子供たちの体を持ち上げ、滑るように前へ進み始めた。

まるで風が運ぶカートのように、揺れもなく、静かに脱出口へ向かっていく。


「すげぇ……浮いてる……!」


「こわくない……ふわふわしてる……」


アリシアとレインに導かれるように、獣人たちは次々に砦の外へ。


そのとき──


「アリシア!」


拳志の声が飛んできた。


振り返ると、拳志とガルドが黒装束の兵たちを蹴散らしながら、砦の中央に突き進んでいた。


「こいつら、なんか様子おかしいねん……!」


拳志が殴り飛ばした兵士の体が、衝撃で壁に叩きつけられる。


その身体は血も叫びもない。まるで壊れた人形のように、無音で崩れ落ちた。


「……これ、人間か?」


ガルドが眉をひそめる。


レインが砦の上空に向けて、指を突き上げた。


「拳志さん、あそこに核があります!」


拳志が視線を上げた先──屋根の一角、木の陰に、誰かがいた。

風が一拍止み、空気が冷たく沈んだ。近くの灯りが短く揺れる。


黒いフード、仮面のような装具。


まるで感情のない目だけが、じっと彼らを見下ろしている。


「侵入者を確認。妨害を排除」


機械のような声。


その瞬間、砦の外周に潜んでいた兵たちが一斉に動き出す。


ガルドが身構えた。


「……あいつが操ってるのか」


レインが魔力の流れを読み取りながら言う。


「間違いない。この砦全体の魔力が、あの男の核を中心に循環しています。あれが命令の発信源です」


「なら──」


拳志が、口元をわずかに歪めた。


「ちょうどええ。ぶっ飛ばしたる」


レインの分析に、アリシアが即座に判断する。


「あの魔力……普通じゃない。けど、あんたたちならやれるわよね」

「拳志、ガルド。託すわよ」


ガルドの肩がわずかに震える。


「絶対に許さねぇ。俺が、ぶっ壊す」


拳を強く握りしめ、唸るように言った。


声に濁りはなかった。ただ純粋な怒りだけが、その身から滲み出ていた。


「レイン、行くわよ。囚われてた人たちを里へ戻す。ここは……この2人に任せて」


「はい。拳志さん、ガルドさん、無茶はしないでください」


アリシアは小さく頷き、踵を返す。

レインとともに、まだ怯える捕虜たちを引き連れて駆け出した。


その背中を、振り返らずに──ただ信じて、戦場に残る拳志とガルド。


砦の中央、二人を囲むように黒装束の兵たちがじりじりと間合いを詰めてくる。

ざわめく足音。硬質な呼吸。風が唸りのように吹き抜けた。


上空では、操る者の視線が彼らを見下ろしている。

一触即発の空気が、地面ごと震わせていた。


拳志が一歩、前に出る。隣では、ガルドが無言で拳を握りしめていた。

怒気と闘志が交わる、その刹那。拳志の拳が、低く鳴った。――次の瞬間、砦が息を呑んだ。

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