声涙倶に下る
「そっか。あの子のこと、好きなんだ」
校舎の外れ。
体育館の外壁に寄りかかり、曲がり角の先で同じ様に寄りかかっている君に話しかける。君は「あぁ」と、小さな声で呟く。
そんな君の返事を聞いて、堪え切れない感情を誤魔化すように空を仰ぐ。放課後の秋空は、いわし雲が一面に広がっていて、遠くからは金木犀の香りも漂ってくる。
僅かな沈黙。その沈黙を破るように、君が「ごめん」とこぼす。
それは、何に対しての“ごめん”なのか。
好きな人が出来たことにか?私に伝えるのが遅くなったことか?私に──ずっと好きだと伝えていた私に、ちゃんと応えることもせずにこんな報告をして来たことにか?
次から次へと湧き上がる君へ向ける強い言葉。しかし、そのどれもが口から飛び出していくことはできず。代わりに出るのは、君を許す言葉。
「まぁ、君が誰を好きになるのは……自由なんじゃない。私、君の“彼女”でも何でもないし」
口にした瞬間、胸の奥で何かが崩れる音がした。それでも、笑うしかなかった。
『友達』からなら、と言った君に応えるためにずっと頑張った。君が、私を意識してくれるように。慣れない服装に、慣れない料理。そのどれもに苦戦し、でも、どれもが楽しかった。
君が、私の服を“可愛い”と言ってくれれば照れてしまい。君が、失敗してしまった料理を食べて“美味しい”と言ってくれれば喜んだ。
そんな楽しい半年間。
「明日、告白するんでしょ?クラスで話してるの、チラッと聞こえたよ」
本当にこの半年間は楽しかった。それが、結局、何の意味も成さない物になったしまったとしても。この、短いようで長い半年はとても輝いていた。
だから、君に強く言いたい言葉を無理矢理に飲み込んで“ありがとう”を伝える。
「明日、成功……するといいね。いや、私をこんな気持ちにさせといて“失敗しました”なんて言わせないからね?」
嗚咽にならないように、冗談を伝える。でも、涙までは抑えることができずに温かい物が頬を伝っていく。
でも、こんなカッコ悪い姿は曲がり角の先にいる君には見えていないと信じて。
「ほら、もういいからさ。わざわざ教えてくれてありがとね」
最後に、変わらす小さな声で「ごめん」と残していく君。
砂利を踏み鳴らす音が遠くなっていく。その音が、君との最後を知らせる音と錯覚し、慌てて角を曲がり君の背中を探す。しかし、そこにはもう誰もいなくて。
抑えきれていなかった涙は、その誰もいなくなった光景を見て抑えが効かず地面を黒く濡らしていく──。
【声涙倶に下る (せいるいともにくだる)】:『話しながら、涙を抑えきれず泣いてしまう』
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