心恋
授業と授業の間の短い休憩時間。その短い時間を使って、私は好きな人へと声を掛ける。
僅かな休み時間の中でも、少しでも遊ぼうとする男子達の騒がしい笑い声。そんな喧噪の中、我関せずとでも言いたげにノートと睨めっこをしている君。
そんな君の後ろから、こっそりとノートを覗き込む。直前の授業内容が写された綺麗な字で埋め尽くされたノート。そんなノートの片隅に書かれた『心』と『恋』の字。
「これ、何て読むの?」
わざとらしくないように、君の肩へと手を置き、もう片方の手でノートの字を指す。
突然触れられ、そして声を掛けられたことに驚く君の表情。そんな表情も、次の瞬間には赤い顔へと変わっていく。
声に出さないように、心の中で「やった」なんて思いつつ、君へと追い打ちをかける。
「ねぇ、聞いてる?」
グイっと顔を近付ける。君は、私が近付いた分だけ上半身を逸らす。
それが面白くて、私はさらに顔を近付けようとして──君が本気で嫌がっているのを感じ取ってしまい後ずさる。
「ごめん……やりすぎた」
先ほどまでの、どこか楽しい感情が急にしぼんでいく。
きっと、君と私は“キャラ”が違う。周りが言う言葉で例えるならば、私は“陽キャ”で君は“陰キャ”なのだろう。でも、“キャラ”と“好きになる人”は全く関係ない訳で。
「あ、その……ごめん!邪魔したよね!」
私の強がった声は、うるさい男子達の声にかき消されていく。徐々に空しくなっていく感情。そんな感情から目を逸らすにはどうすれば──と考えた瞬間、先生が教室へと入ってくる。次の授業を知らせる存在に乗っかるように、自分の席へと向かうために踵を返す。
君へと背を向けた瞬間、手首を掴まれる。今までは、私からしか触れることのなかった君の体温。触れられた嬉しさに、勢いよく振り返る。
振り向いた先には、真っ赤な顔。そんな君の口から伝えられる、ノートの端に書いてあった『心』と『恋』で作られた言葉の意味と読み。
初めて聞く言葉。
なんで知ってるの、とか。どこで知ったの、とか。そんな疑問なんかより、私が知らないことを知っている君への尊敬と恋慕。
私は、君への恋心をより強くする。
***
放課後。
先に靴を履いて駆けてった友人が、校庭から手を振っている。そんな友人に呆れを抱きながら、下駄箱から靴を取り出す。
「心恋、か……」
心の中で恋しく思う事。
まるで、今の私に向けられたかのような言葉。
「君は……私のこと、どう思ってるのかな。少しでも可能性が……あったらいいなぁ」
そんな、柄にもない私の小さな声が、放課後の静かな校舎へと消えていく──。
【心恋 (うらごい)】:『心(内面)で恋しく思うこと』
珍しい言葉。
一般生活の中では見ることのない言葉をテーマとした短編シリーズとして
最低でも、週1は作品を投稿していく予定です。
よろしくお願いします。




