97発目 これは過去のお話です
「くそっ!くそっ!くそっ!」
休憩スペースで思いっきり地団太を踏んだ。
本当にやばい。集中力が上がらない。奈々や望のことがどっかに引っかかっている。さらに、上昇が完全に追いつかなくなってきた。今日はぎりぎり大丈夫な気がするけど、明日は本当にやばいかもしれない。
「それでも……」
あそこまで知って引き返せなんてありえない。絶対に超えてやる。
「クリア、よ……」
ぎりぎりクリア。しかし、体のダメージは日に日にたまっていってる。
「……今日は休んだほうが……」
「いいから、見せなさい。」
体をいたわることも大事だが、このもやもやした感じをどうにかしないことには寝れない。
大和はため息をつきながらもちゃんとビデオの用意をしてくれた。
『どうしたらいいんだ……』
画面に映し出されたのは2人の大人。
男のほうは髪の色は黒で伸びた髪を後ろに縛っている。めがねをしている目は厳しそうな目だが、実際に厳しいのかはわからない。はっきりとわかり辛い人だ。歳はたぶん……40歳前後だろう。
女のほうは銀髪の長髪。こちらは髪を三つ編みにしており、顔は厳しいと言うよりのんびりした感じ。なんとなく文学少女っぽい感じがする。歳は……わからない。見た目ならまだ高校生で通じそうだし。
「これは?」
「俺の両親。ちなみにどちらも科学者で、このときの歳はどっちも29歳。」
……なんていうか、2人合わせるとものすごいバランスのいい夫婦ね、これは。
『どうにか破壊するってのは?』
『ここのマザーコンピューターを完全破壊するぐらいしか手は無いが、そこまでしようとしたら時間がかかるだろ。こんなことなら研究主任なんて無視して爆破しておくべきだったな。』
……なんなの、この状況?ついていけない。
どんっ!どんっ!
『おい!!ここを開けろ!!』
扉をたたく音とともに誰かの叫び声。
「本当にあんたの両親は何に巻き込まれてるのよ!?」
「ちょっとした事情で研究データを狙われてな。それの提出を拒んでたらこんなことになったらしい。」
こいつの親はどれだけ黒いところに……と思ったけど、今考えてみれば大和の持っている技術も下手すれば人間のレベルを大きく変えてしまうようなものだし、もしそれを親から受け継いだなら、それもおかしくない気がしてきた。
『こういうときは前向きに考えよー』
そう言って大和の母親が携帯電話を取り出した。
『もしもし、お姉ちゃん?うん、私。ごめんね、こんな時間に。……お願いしたいことがあるんだ。……いや、借金とか詐欺とかじゃないよ~。大和の面倒見てやってほしいんだ。たぶん私たち死ぬから。よろしくね~。』
笑顔のままさらっといいたいことだけ言って、大和の母親は電話を切った。電話を切る寸前に誰かの叫び声が聞こえた。
『さて、これで心おきなく自爆できますよ。』
『気付いてたのか、君も。』
大和の父親は厳しそうな顔のままで言った。
『当然ですよ。これでもあなたの妻なんですから』
『……君だけ置いて死にたかったが、無理みたいだな。』
2人は非常時とは思えないようなやさしい表情で見つめあった。しかし、それも外の扉を破ろうとする音で戻される。
『最後の気がかりといえば、大和ぐらいだな。あいつは俺らの研究を知ってるからな』
『大丈夫よ。頭いいし、あの子』
『そうだな』
そして、後ろにあった大きなパソコンに大和の父親は何かを打ち込んだ。そして、部屋の明かりが一気に赤色に変わる。画面には自爆まであと30秒と書かれていた。
外の連中の壁への攻撃が激しくなった。そして、扉をついに壊して入ったが自爆までの残り時間は5秒。
『この研究データだけは、絶対に渡さん!』
そして、そこでビデオは終わった。
「これが俺の両親の最後だ。」
大和の両親はもういない。何者かに脅されて、そして自ら死を選んだのだ。そして、大和はその何者かを、おそらく知っている。しかし、大和はまるで他人事のようにこのビデオを流した。
「あんたは、復讐とか思わないの?」
「あいにく、そこまで感情的になれる性格ではなかったらしい。それに、俺はちょくちょく勝手に親の研究データを閲覧してて、その時のデータがほとんど頭の中に入ってる。これで俺が捕まったら自爆した親の意味がなくなるだろ」
大和はありえないほど冷静だ。もしかしたら殺したい気持ちぐらいあるのかもしれない。しかし、大和は冷静にその気持ちを抑え込んでいる。
「……大和、聞きたいことがあるの?」
「何だ?」
「もし両親を殺した相手が出てきて、自分は相手を殺せる実力があったら、あんたはどうするの?」
大和は特に難しそうにしなかった。むしろ、何でそんなこと聞くんだという感じの表情だ。
「その相手が敵なら殺す。通りすがりの一般人ならほっとく」
その答えを聞いて思った。きっと大和は両親を殺されたことなんて過去のことになってる。大和はただ、今の状況しか気にしてない。だから、こんなに冷静で冷淡なんだ。
「……私は寝る」
「そうか。おやすみ」
私は布団に入って眠った。疲れていたんだろう。何かを考える暇もなく眠りに落ちた。