95発目 あのころ少女は見てしまった
「……今日はヤバかったな。」
私が飯を食べている時、大和はこう話しかけた。
「言われなくてもわかってるわよ。」
最初のほうは良かったが、最近は薬の効果が切れていく速度に、私の成長が追いつかなくなっている。今日は何発かかすって、その時の電撃で倒れそうにまでなった。
「大丈夫よ。明日には調整しておく。それよりも、今日はどんなビデオ見せてくれるの?」
大和は軽くため息をつくとパソコンとプロジェクターを起動させた。
『待ってよー、おじさーん!』
画面に出てきたのは赤っぽい色の髪を持った少女。笑顔がまぶしい、可愛い少女だ。
「これは奈々ね。」
「その通りだ。」
場所は普通の家。どこかはわからないけど、抄華みたいに外国ではないと思う。おそらく、奈々の家か親戚の家。画面の後ろまできれいに作られており、トロフィーや盾、メダルが後ろに飾ってあるのが見える。
「後ろのトロフィーは奈々が取ったの?」
「いや、あれは奈々の叔父が取ったやつだ。」
画面が動いて奈々の叔父が見えた。身長はかなり高い。しかし、とても優しそうな表情の父親だ。誰かを包み込むような顔。
「逢瀬の叔父は元、狙撃の日本代表で頂点に立ったこともある人だ。そのあとは大学で講師もしている。」
それにしても、あまりにも普通の、平和な風景だ。ここから奈々の過去に関することが起きるとは思えない。それくらい平凡な絵だ。
『ここに逢瀬 徹はいますか?』
「え!?」
突然、リビングに覆面の人間が現れた。ただ現れたなら私もここまで驚かなかった。しかし、そいつはまるでそこに最初からいたように立っていた。
『何だ!?』
『おとなしくしといてください。そうすれば命まではとりません。』
『い、のち?』
奈々は状況がいまいち飲み込めてないみたいだ。そして、奈々のおじさんは奈々のことを気にしてる。幼く、何もわかっていない奈々のことを。
『……わかった。』
『賢明ですね。』
奈々のおじさんは奈々を上の階にやった。そして、ゆっくりと壁の方向を向いて手を上げた。
『……てっきりあの子を逃がしてから私と戦うと思いましたよ。そんなにあの子が大事ですか?』
『お前に大事な人はいないのか?』
『……いませんね。』
『そうか。』
背中しか見えていないからどんな表情をしているかわからない。しかし、ため息をつくような動きをしたのが見えた。
『お前にもいずれわかるさ。』
『一生わからないと思いますよ。』
パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!
銃弾4発が奈々のおじさんの両手両足を撃ち抜いた。
『どうしたの、おじさん!?』
奈々が下りてきたときにはすでに覆面の男は消え去っていた。そして、いるのは両手両足を撃たれて動けなくなってる奈々のおじさん。
『い……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!』
それを見た奈々は悲鳴を上げた。そこで映像は途切れた。
「これが……奈々の過去。」
「この後、逢瀬の悲鳴を聞いた人間が家に駆けつけ救急車を呼んだ。逢瀬のおじさんは一命は取り留めたが、一生歩けない体になり、両手も前と同じように動かすことはできなくなった。」
奈々はきっと呪っただろう。自分があそこにいたことを。自分の無力さを。あれだけのトロフィーを持ってる人だ。自分さえいなければそこまではならなかったと。
「逢瀬は強い奴だ。あいつはこの時小2だったが、1日休んだだけで学校に行ったらしい。だが、もしかしたらあの明るい性格も逢瀬が無理して作ってるものなのかもな。」
「……寝るわ。」
私はベッドに入った。
すべてを忘れたがるように。