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SHOT GUN!  作者: ヒッキー
特訓!!
95/109

94発目 あのころ、少女は冷たかった

 特訓が始まって1週間が経った。この頃、共感覚が弱まってる感じがする。頭痛はなくなったのだが、いちばん最初ほどの力はない。だが、これでも十分対応できてる。


 「今日の特訓は18時終了か。1週間前から比べるとかなり速くなったな。」


 最初はどんなに頑張っても8時間ぐらいだったが、この1週間でそれも2時間縮まった。たぶん、慣れだろう。


 「さて、飯でも食いながら今日のご褒美といくか。」


 結局、ここ1週間のビデオの内容は一ノ瀬が言ってた事件や奈々との出会いとかで、特別重要なことが出てくることはなかった。


 「今日はこいつだ。」


 流れ出したビデオ。そこに映っていたのは……


 「抄華?」


 映っていたのは抄華。茶髪のツインテールを揺らす姿は前に合った姿と全く同じ。しかし、何点かおかしい。


 まず背景。ものすごい雪が降ってる。何か港みたいな場所も微妙に見えてるけど、完全に凍っている。たぶん北海道よりも北だろう。

 続いて服装。かなり寒そうで、分厚いコートを何枚も着ていることがわかる。抄華もコートに耳あて、さらに帽子までかぶっている(ツインテールはそこから下に出ている)。

 そして、抄華はかなり幼い。今でも身長はちっちゃかったけど、それよりもさらにちっちゃい。見た目からの予想だけど、たぶん小学校入学前ぐらいだろう。


 「ここってどこ?」


 「ロシアの東端に位置する都市、アナディリ。」


 「年齢は?」


 「10年前。桧木なら5歳の時だな。」


 よくわからないけど、ここはロシアで、抄華は5歳らしい。しかし、抄華の表情はあんまり良くない。下を向いており、周りの視線を気にしている気がする。


 『どうしてこんなところにいるの?』


 そんな抄華に女性がしゃがんで話しかけた。茶髪のロングヘアーに、優しそうな黒色の瞳。身長は平均より低いくらいで、体格はスレンダー。……たぶん、年齢は24,5さいだと思う。


 『……なんでもない。』


 『なんでもない、はないでしょ?ほら、話して。』


 なんか、子供っぽい人だ。特に笑顔が子供っぽい。しかし、それは全然嫌な方向に出ていない。子供のように知りたがって、子供のように心配している。


 『……お姉さんには関係ないでしょ。』


 消えそうな声で抄華が言った。その表情は、相手を不審に思ってるとか言うのが面倒とかいう表情ではない。巻き込んではいけない。自分のことよりも相手を心配している。そんな表情だ。


 『関係ないなら関係しちゃえばいいんだよ。ほら、カモン。』


 しかし、全然引き下がる様子はない。


 こんな問答をしているとだんだん視線が集まってきた。そもそも、ここがロシアなら抄華の見た目も、この女性の見た目もかなり異質。ただでさえ目立つだろうに、こんな問答を繰り返していたら余計だろう。


 『っ!!!』


 そんな時、抄華が突然、女性の手を取って歩き始めた。その表情は恐怖と不安が入り混じったような表情。この女性に対するものではなく周りに対するものだということもよくわかった。

 急ぎ足で歩き、その場所からある程度離れた路地裏に入ると、やっと抄華は止まった。表情はさっきよりましになったが、息は荒い。


 『大丈夫?』


 『はぁ……はぁ……』


 抄華はゆっくりと息を整えるときつい目で女性を見た。


 『なんなんですか!?もう私にかかわらないでください!!』


 抄華の、おそらく心からの叫び。しかし、女性は困ったような笑顔を浮かべただけで、そこから去ろうとはしなかった。


 『どうして……ほっといてくれないんですか……』


 『私も、あなたが笑顔ならほっといてどこかへ行くよ。でも、泣いてる子をほっといて、どっか行けるはずはないよ。』


 『え?』


 抄華の頬には涙が流れていた。抄華は、言われるまで気づいていなかったらしい。


 『話したらきっと楽になれる。だから……』


 『お?女がいる?』


 そんないいムードをぶち壊すように路地裏の奥から数人の若者たちがあらわれた。


 『お姉ちゃん、その見た目ってもしかして東洋人?』


 『うひょ!いい女じゃん。』


 『俺らと遊ばね?』


 かなりムカつく態度をとる奴らだ。私がその場にいたら問答無用でぶっとばしてる。


 『あ、あの……』


 『ガキはどっか行ってろ!!』


 若者は拳銃を取り出して抄華を脅した。抄華は逃げようとした。しかし、そんな行動よりも先に女性が抄華と若者たちの間に入った。


 『恥ずかしくないの?』


 『は?』


 『子供に命令して、あまつさえ拳銃まで向けて、あなたたちは恥ずかしくないの?』


 『なに言って……』


 メキッ!


 掴みかかろうと近づいてきただろう若者を回し蹴りで女性が吹っ飛ばした。若者たちはその光景をぽかーんと見ていたが、思い出したように全員が拳銃を構えた。


 『この女!なめやがって!』


 『お前らみたいなイエローモンキーが勝てると思ってるのか!?』


 何よ、あいつら!いつまで戦争引きずってんのよ!?


 「拳銃が世界中で持たれるようになって、拳銃が文化にあったアメリカや拳銃を扱う教育を重視したロシアとかは、拳銃の扱いだけなら整備の遅れてたアジアに比べて強かった。だから、それで勘違いする若者が多かったんだ。自分たちは黄色猿に絶対負けないと。」


 「なによ、それ!?」


 「今は日本も整備が完全完成したし、中国とかの国もほぼ終わってるからこういう風潮はほとんどなくなったけどな。だが、5~6年前まではあった風潮だ。」


 こいつらをミンチにしてやりたい!


 『黄色猿だから勝てる。女だから勝てる。……そんな理由で勝てると思ってるんですか?』


 女性の顔から、さっきの優しさが消えた。


 『は?』


 パンッ!


 抜き撃ち!女性の抜き撃ちは正確に一番前にいた若者の眉間を撃ち抜いた。しかし、銃弾は若者を貫通することなく、気絶だけさせた。おそらくゴム弾だったのだろう。


 『このやろう!』


 そこからは一方的だった。そもそも、射撃の精度もスピードも若者たちとはけた違いだ。拳銃を撃とうとした若者たちは一瞬でやられ、残ったのも倒れた仲間を抱えて路地裏に逃げて行った。


 『大丈夫だった?』


 さっきの戦士の顔からすぐに女性はさっき同じ優しい表情に変わった。


 『あの、あの……』


 『この辺も治安が悪いのね。ロシアは拳銃の普及を急ぎすぎで整備がまだなってないのよね。ねえ、あなたの家どこ?送っていってあげる。』


 『お話、聞いてくれませんか。』


 抄華の突然の言葉に女性は虚を突かれたような表情をしたが、またさっきの表情で『もちろん』と頷いた。


 『私、もともと日本人だし、ここはみんなもう拳銃を持ってる。弱いからいじめられるの。だから、お姉さん。私に戦いを教えてくれませんか?』


 抄華の必死な瞳。しかし、女性は軽く首を横に振った。


 『どうして!?』


 『強くなるっていうのは戦いで強くなっても意味ないの。本当の強さがほしいなら、その強さを知らなきゃいけないの。何も知らないで手に入れた強さは強さじゃない。それは自分を守るための盾じゃなくて、誰かを傷つけることしかできない矛にしかならないよ。』


 『だったら、私はどうすればいいんですか!?』


 抄華がまた叫んだ。さっきよりもより大きな声で、より感情をこめて。


 『私は弱いからこんなことになってる!誰かを傷つけるしかできなくても……力がないと意味ないんです!』


 パシンッ!


 女性は抄華のほうをたたいた。抄華はわけのわからないように頬っぺたをさすって、やっと自分がたたかれたことに気付いた。


 『なんで……』


 『それだけは言っちゃいけない。傷つける力なんて持っちゃいけないよ。……そんなの、大切な人ができたら悲しくなるだけよ。』


 『じゃあ、私はどうすれば……』


 女性はおもむろに抄華の手をとると歩き始めた。入ったのは拳銃のパーツの専門店。拳銃を買ってあげるのかと思ったら、おもむろにパーツを選び出し、各パーツ3個ずつ買って出た。そして、宿屋の部屋に抄華を連れ入った。


 『あ、あの……?』


 『これが拳銃。こうやってすると……』


 女性は手慣れた様子で拳銃を組み立てる。それはかなりの速さだ。


 『これで拳銃ができる。』


 もともと組み立てるだけでいいとはいえ、30分ほどで組み上げてしまった。


 『あの、これがなにか?』


 『あなたは拳銃の仕組みを覚えたらいいの。自分の力を知れて、拳銃まで作れるようになれる。まさに一石二鳥よ。』


 女性の笑顔に抄華はただ困惑していた。しかし、抄華は拳銃を作り始めた。


 『あなたのお名前は?』


 女性が笑顔で聞いた。


 『桧木……抄華。』


 『いい名前だね。私の名前は、都築 ゆめ。よろしくね。』


 「え!?」


 そこでビデオは切れた。


 「このあと1週間、桧木に拳銃の作り方を教えて、この人は帰った。」


 「大和、あれって……」


 「お察しの通り、翔の母親だ。」


 つまり、桧木は翔の母親の教え子だったわけだ。何という偶然。


 「……もう寝るわ。」


 「いいのか?質問が飛んでくると思ったんだが。」


 「これからはこんなビデオばっかりなんでしょ。だったら、全部終わってまとめて聞くわ。」


 私は布団に入った。明日の訓練のために。


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