93発目 放置された人々トーク
「……大和と茅海はどこで何やってるんだろ?」
「そんなこと言っても意味ないだろ。」
「沖川は気にならないの?」
「大丈夫だよ、ヤマくんがいるんだから。」
あの回答をした次の日から大和と茅海は学校を欠席している。欠席の理由は何でも、どちらも家庭の事情で長く家を空けないといけない、という理由だ。ジャッキーが言ってるのだから嘘のことが言われているわけではないだろう。
しかし、間違いなくあの2人は、いや、茅海が特訓をして大和はそれをサポートしている。ジャッキーが言うには帰ってこれる日などは分かってなく、来たらノートぐらい見せてやれというだけだった。
心配だ。特に茅海が。
「その顔、茅海ちゃんの心配?」
「……まあ、そうだね。」
大和と茅海なら絶対に茅海のほうが心配だ。
「あれ?ヤマくんはよくてチーちゃんは心配なの?」
「大和ならエメラルドマウンテンの頂上に投げ捨てられても大丈夫でしょ。」
「……エメラルドマウンテン?」
逢瀬が首をかしげて、沖川が苦笑いをしている。あれ?なんか間違えた?
「翔、エメラルドマウンテンは商品名で本当の山ではないから。」
「そうなの!?」
あの缶コーヒーはエメラルドマウンテンという山で作られたコーヒー豆を使ったわけじゃなかったのか!?
「でも、チーちゃんだって遭難したって生きてられるよ。」
逢瀬は笑顔で言うが、だからこそ茅海が心配だ。
「……茅海は無理しすぎるからね。」
茅海はいつも元気いっぱいで、疲れてても元気いっぱいで。だから、学校に来た時の茅海の様子はかなり違和感があった。そして、また元気になったのはうれしいけど、無理をするんじゃないだろうか。
「まったく、放課後になったらまた地獄の補習が待ってるのに、よく他の人の心配ができるよね。」
沖川は軽く溜息を吐きながらそう言った。そう。僕の補習はまだ残っていた。残り1週間らしい。
「あのね、補習が忙しくても気になるものは気になるんだよ。」
「そこまで言うなら補習で出した宿題はできているんだろうな?」
後ろからいやな気配。ふり向かなくても、間違いなくジャッキーだ。
「もちろんですよ。ちゃんとやってきたにきまってるじゃないですか。」
「ほう?わかっとると思うが、やってきたというのはちゃんと答えを出して、そして理解できとることを言うからな。やったけど分かりませんでした、はやったと言わんぞ。」
「先生。先生は空を飛べと言われて飛ぶことができますか?」
「不可能だな。」
「それと一緒ですよ。僕に宿題で答えを出して、そして理解してこいなんて。」
僕は最高の表情で振り向いた。しかし、そこにいたのはもちろん、切れかけ寸前のジャッキー。
「覚悟は、出来とるんじゃろうな?」
「できてません!!」
一目散に逃げ出したが、さすがに真後ろにいる人間から逃げれるはずなくあえなく捕まった。
さらに、もう1つ心配なことがあった。大和がメンバーの過去を茅海に教えると言ったことだ。
……過去を見ても、茅海は今まで通り接してくれるのだろうか。
わからない疑問が、ただ心の中にあった。