91発目 訓練場の定番と言えば地下だよね
ちょっと長いです。
「ここに来いって言ってたわよね」
次の日の朝、私は大和に呼ばれて学校の裏にある倉庫の1つに呼ばれていた。たぶん私の決意を聞くためだ。
「でも、もうすぐ授業も始まるわよ。」
「授業なんて気にするな。」
倉庫の2階から大和が下りてきた。背中には大きなリュック。そして、決意に満ちた目をしていた。
「大和、私の意志は……」
「わかっている。さっさと練習に入る。」
すべて知られていたようね。大和が地面をたたくと倉庫のそこが開いた。
「これは?」
「お前の力を覚醒させるための修練場だ。」
とりあえず下に下りてみた。最初、私の身長ぐらいの高さしかない道だったが、ちょっと進んでみるとすぐに広いところに出た。直径は私の身長の5倍くらいだと思う。
「ここは?」
「昔は武器庫だったみたいだな。埋められてたのを俺が発掘して、再度使えるようにした。」
「武器庫?」
なんで学校の下に武器庫なんか?
「ここでお前に受けてもらうのは練習だ。期限は2週間。それ以上はおそらく伸びないだろうからそこで終了。それまでに完成できたら成功だ。」
2週間。私があのメンバーと戦えるようになるまでたった2週間でなれる。そして、たった2週間で完成しなければ失敗。なんか驚かされてばっかりだ。
「わかったわ。なにをすればいいの?」
「今は光をともしているが、この光を消す。この状態で自走式の兵器と固定式の拳銃。この2種類を相手にしながらこの武器庫の奥までたどり着いてもらう。これを日に1回してもらう。」
「ちょっと待ちなさい!まさかそんな状態で戦えっていうの!?」
人間の目は暗闇を見るようにできてないことくらい私にだってわかる。
「それについてだ。これからお前に身につけてもらう力を教える。」
「!」
私はなぜか身構えてしまった。大和と同じような能力。これがどんな力かによって、私がどれくらい強くなれるかがわかる。
「お前には共感覚を手に入れてもらう。」
「共感覚?」
なんかものすごいかっこいいのを想像してたんだけど、何それ?
「文字を見たときに文字に色がついているように見える。相手の声を聞いたときにその声が色を帯びて見える。共感覚は五感を脳が結合した状態のことを言うんだ。」
余計にわからない。思わず首を傾げてしまった。
「そんな説明じゃわからないわよ。」
「難しいか?」
「難しいに決まってんでしょ!」
大和は困ったように頭をかいた。だけど、あんな説明で理解できる人間なんて早々いないわよ。
「体感してもらうのが一番か。」
大和はポケットの中から注射器を取り出した。
「そ、それは?」
「ちょっと脳細胞をいじる薬だ。これ自体で副作用が出る確率はかなり低い。俺の薬と違って脳細胞の一部をいじるだけだからな。」
「もし、出たら?」
「おそらくだが、五感と脳の連結が切れる。簡単に言えば視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚が完全に死ぬ。」
「!!」
とっくに覚悟なんてものは決まっていたはずなのに、そのリスクを聞いたとき、私は恐怖してしまった。決めていたはずなのに。
「どうする、やめるか?」
そんな言葉に甘い言葉に乗ってしまいそうになっている自分がいたが、それを抑え込んだ。京都で元会長に言われたこと思い出して。あの翔を思い出して。
「……やるわ。」
「わかった。薬を打った後は2時間ほど頭痛がする。たぶん睡眠薬で何とか寝れるはずだから寝ろ。」
差し出した右手に大和が注射を打つと、世界は暗転していって、真っ暗になる寸前に激しい痛みが襲ってきた。しかし、そんな痛みもすぐに意識が無くなった。
「う、うん?」
「起きたか?」
自分のいる場所を確認してみる。暗くてあまりいい環境じゃない。そして横には大和。そこで今までのことを思い出した。自分がどういう環境か。
「ええ。」
気付けば頭痛も完全になくなっていた。しかし、自分に変わった感じは無い。
「ねぇ、これってどうなったの?」
「この文字は何色に見える?」
大和が出したパネルには大きな文字で『あ』と書いてあった。
「……赤色。」
「よし、成功してるみたいだな。」
「これがどうしたのよ?」
なんで文字の色を言っただけで喜ばれてるの、
「これは黒色で書かれている。」
「へ?でも、赤色よ?」
「それが共感覚だ。」
意味がわからなかった。
「お前の脳は現在、五感が弱い連結をしている。」
「はあ。」
「それが共感覚。もちろん初期段階だがな。」
つまり、この文字が赤色に見えているのが共感覚。しかし、なんか気持ち悪い。大和や私の声もぼんやりとだが色のついているような気がする。
「もちろん、そのままじゃ使えない。ここからが特訓だ。」
大和がポケットから取り出したのは錠剤。かぜ薬と言われても信じてしまいそうな普通の錠剤。
「それは?」
「薬。この薬でお前の微妙に繋がってる中から視覚と聴覚の繋がりを強くする。」
「それをするとどうなるの?」
「実際に試してもらったほうが早い。こいつを飲んでみろ。」
これにも何かリスクがと思ったが、大和が「それは大丈夫だ」と言ったので、安心して飲んだ。
「っ!?」
私は薬を飲んで、その瞬間、大和が電気を消した。しかし、私の視界にはさっきよりもはっきり空間が見えていた。色とかはわからない、まるで超音波とかで世界を見ているような、そんな世界が。
「なに、これ?」
「空間がいやにはっきり意識できるだろ。それが共感覚を強くした結果だ。」
声を出したら遠くの地形まではっきりとわかった。しかし、それの全部を意識しようとしたら軽い頭痛と吐き気が来る。意識できる空間が広すぎる。
「共感覚っていうのは五感のうちいくつかをつなげる。原因はよくわかってないが、システムについては大分解明された。まあ、自然に起きる共感覚はそこまで凄くはないけどな。」
「……意識しなくても360度の風景がわかる。でも、頭が痛い。」
「これから2週間で達成してもらうことは3つだ。1つ目は共感覚を身につけてもらう。」
「?もう、十分身についてるわよ。これ以上、身につけろってこと?」
正直、今だけでも頭が痛くて、不機嫌な感じにしかしゃべれない。
「それは薬の力だろ。本来、薬っていうのは、ある程度の周期で飲むから効果を持続できるんだ。いろんな薬があるけど、これを1回飲んだら一生大丈夫ですって薬はないだろ。」
そういえば、病院で何回か薬をもらったことはあるけど、1週間分とかが絶対に渡されてた。
「だったら最初に注射器で打たれた薬もちょっと経ったら効果が切れるの?」
「いや、あれは問題ない。あっちは脳細胞を直接いじる薬だ。ゆえにリスクもあるが。」
つまり、ある程度は土台を作っておいて、その上に薬で効果を強めたってとこみたいね。……たぶん、危険性を低くするためにこんなことをしてくれたんだろうな。
「その薬は2週間、ゆっくりと効果が落ちてくる。落ちてくるのと同じ分だけ、薬以外の部分を強めていかないといけないぞ。」
1つ目は能力の強化。大和のことだから、この状態でぎりぎりのコースを組んでいるんだろう。それはつまり、少しでも追いつけなくなかったら失敗するってこと。
「2つ目はその状態に慣れてもらう。使うたびに頭痛や吐き気がしてたら意味ないからな。この2週間で、脳にその状態を慣れさせる。」
2つ目は脳を慣れさせる。これ自体については何も意識できないだろう。大和が作ったコースで手を抜くなんて不可能だろうし。
「3つ目は実戦経験を積んでもらう。」
実戦経験……
「お前の力を見る限り、それほど弱いってことはない。むしろ、身体能力とかだけならあの超人達と戦える。ただ、お前の場合、実戦経験の不足と自分の身体能力に五感がついていけてない。この2点が欠点になっている。」
自分の欠点。それは自分でもうすうす気づいていたところだ。
「だから、五感については共感覚でフォローさせあって、実戦経験については1対多を繰り返して、短期間での大幅レベルアップを狙う。」
3つ目は実戦経験。
しかし、こう考えてみると、大和の作ったコースを進む。その訓練だけで必要な3つの要素がすべてカバーされている。さすが大和だ。
「それじゃあ、俺は上の倉庫でカメラを見ながらチェックする。奥まで行って、そこにある石を持って帰ってくる。昼飯は携帯食料を持たせるけど、たぶん食う暇なんてない。晩飯はこっちでまともなものを用意してやる。ただし、日が変わるまでには帰ってこいよ。」
「当然よ。」
「最後に、その石を持って帰るごとにご褒美があるからな。」
「ご褒美?なによ、それ?」
「そうだな、お前の知らないこととだけ言っておく。」
大和は満足そうに頷くと、真っ暗で見えない道を手探りで歩いて、上に帰っていった。
「……いったい何なのよ?」
そっちも気になるが、今は目の前のことだ。
「さて……」
私は愛用のシャウトBK3を取り出して構えた。
「絶対にクリアしてみせる。」