90発目 少女はわかっていながら
放課後、僕は茅海に屋上に呼び出された。話したいことがあるらしい。
屋上の扉をあけると強い風が吹いた。夕方に近いとはいえ、日光がさんさんと降り注ぐ夏の屋上には1人の人影以外誰の姿も見えない。
「お待たせ、茅海。」
「待ってないわよ。」
そうは言っているが茅海はうっすら汗をかいているし、顔もちょっと赤い。結構な時間を待ったのだろう。しかし、それ以上に気になるのは茅海の表情が暗いことだ。自分ではいつも通りの表情と思っているのかもしれないが、いつもの覇気はない。
「とりあえず影に入ろう。そんなところにいたら日射病で倒れちゃうよ。」
そう言って茅海と中の踊り場に入った。
「あんたに聞きたいことがあるの。」
入ってすぐに茅海が口を開いた。
「今までの戦いで、あんたは私が邪魔だと思ったことはある?」
「ないよ。」
僕は即答した。どんな質問が来るかなんてわかってる。だったら、即答も簡単だ。
「どうしてそう言えるの?」
まさか理由まで聞いてくるとは。でも、僕は心の中を一つ一つ言葉にしていく。
「初めての、4月の誘拐騒動でも茅海は僕を助けたりしてくれた。5月にあった4校大会でもちゃんと一ノ瀬に勝った。そして、先月は超を倒してくれた。茅海が邪魔なんかになるはずないよ。」
茅海の表情は一瞬明るくなったが、それはすぐに影をひそめた。
「でも、あの前会長にはああ言われたわよ。」
「そんなの関係ないよ。茅海は僕らの仲間で、友達だよ。茅海だけ除け者にするわけない。大丈夫。茅海が危なくなったら僕が守ってあげる。」
「!!」
「約束するよ。」
僕は笑顔で手を差し出した。
「はは……ははは……」
しかし、茅海はその手を受け取らず笑い出した。まるで自虐でもするように。
「茅海?」
一通り笑うと茅海は僕のほうを見た。その表情は何か吹っ切れたような表情だった。
「そうよね。そうよね。あんたはそういう奴だ。あんたは大和よりも優しい。そういう奴だったわね。私は何を期待してるのかしら。」
「茅海、いったいどうした……」
「私ね、あんたを倒すとか言ってたけど、きっと本当の意味であんたを倒すことはできない。だって、私はあんたよりも何倍も弱いもの。」
「そんなことはないよ。茅海は……」
「ショウ、覚えときなさい。」
そう言って茅海は僕を指差した。その表情はいつもと同じように凛としており、強い表情だ。
「女って、男の嘘を見抜けるのよ。」
「!」
僕はなんかわからないけど、何かを感じた。茅海は階段を下りて行った。
「相談乗ってくれてありがと。おかげで吹っ切れたわ。」
突然、茅海は立ち止まってこっちを笑顔で見た。
「私、強くなるから。」
その笑顔は、僕の今まで見たどんな笑顔よりもきれいだと思えた。
ぶぶぶぶぶ、ぶぶぶぶぶ
ポケットの中の新しい携帯電話が振動する。僕はそれに出た。
「もしもし。」
『翔か?どうだ?』
「強くなる、って言ってた。」
『……そうか。』
「ごめん。」
大和に頼まれていたのに失敗してしまった。
『気にするな。俺が提示してしまって、あいつが選んだ道だ。』
「でも……」
『約束してしまったんだ。俺がどうにかする。だから、おまえは気にするな。』
そうは言われても気になるものは気になる。
「僕も、手伝うよ。」
『必要ない。』
大和は即答した。
『お前はいつも通り授業と補習でも受けてろ。こっちは、お前が受け持つのとは全然違う場所だ。』
大和の言うとおりだろう。そっちは僕の受け持つ場所とは違う。でも、僕だって……
「僕だって、できることがあるはず。」
『そう思うならさっさと補習を終わらせろ。』
そういうことをあっさりと大和は思い出させてくれるよね。
『大丈夫だ。俺を信じろ。』
「……わかった。」
ここは大和を信じようと思った。