89発目 生きたい死にたくはない
「茅海のところに行ってくる。」
昼休み。結局、朝から戻ってこなかった茅海の様子を見に行くことにした。沖川や逢瀬もついてこようとしたが、大人数で行くのは大げさすぎるだろうからと先に食事を始めるように言った。
それにしても茅海はどうしたんだろう。なんか、こっちの話を聞いてないみたいだったし、単に調子が悪いって感じじゃなかった。なんだろう?……寝不足?茅海に限ってそれはないか。
「あれ?」
なんかさっき、大和が保健室に入って行った。おかしいな。今日は休みだったはずなのに。僕は何となくこっそりと保健室に入った。
「寝不足か?」
入ってすぐに大和の姿は見えなかったが、影と声でカーテンに遮られたベッドのある場所に大和がいるのだとわかった。多分あそこに茅海もいるのだろう。
「気にしないで。」
「……すまない。」
「なんであんたが謝るのよ。」
軽い調子で入って行こうかと思ったが、話が重すぎる。
「俺が希望を残したからこんなことになってるんだ。当然だろ。」
「違うわよ!これは、私が弱いから。こうなってるのよ。」
どうすればいいか悩んでるうちにどんどん話が重くなっていってる気がする。
「私がすっぱりあきらめればよかった。上っ面でも友人関係を選んでいればいいのに、なんでかあきらめきれないのよ。自分でもどうするべきかわからないのよ。」
「……おまえは悩んでるだけ強いよ。でも、そろそろ回答をくれ。敵が来るまでとは言ったが、そろそろ始めないとやばい予感がする。タイムリミットは……明日の朝だ。」
「!!」
影で茅海が突然起きあがったのがわかった。
「突然すぎてすまないとは思う。しかし、これ以上悩むぐらいならすっぱり決めてしまったほうがいい。」
「……わかったわ。明日までには決める。」
「俺もこれから学校に顔を出すか。ということだ、翔。さっさと戻るぞ。」
「ふぇっ!?」
なんでばれたの!?
「そっちから影が見えてこっちからも見えてないわけないだろ。」
「しまった!!」
でも、ちょうどいい。大和や茅海には聞かなきゃいけないことがある。
「説明なら俺がする。神宮寺は今後の行動については自由。授業に戻るも、帰るのも、ここで眠るも自由だ。」
僕は大和に連れられて保健室を出た。
「大和、説明してもらえるよね。」
やってきたのは特別教室棟4階のトイレ。
「なんでここ!?」
「この学校で一番人が来ないのはここだからな。屋上は開放されてるし、体育館裏は練習場だろ。」
だからと言ってここはないでしょ。雰囲気的に最悪だよ。
「まず、神宮寺についてだ。とはいっても、なんとなくわかってるだろ。」
「一応、説明して。」
「修学旅行で前会長に言われたこと。確かに神宮時は足手まとい、不釣合いだ。沖川やお前のように才能があるわけでなく、俺のように特別な力を後付したわけじゃない。」
「でも、超とは戦えてたよ。」
「超は強かったか?小柄な体格に影野のような能力を開花させてない。そして、暗殺や進入が基本のあの部隊だ。正直あれはかなり弱い部類だ。それと同様に、一ノ瀬も強いは強いが才能より努力の男。さらに、本物の実戦じゃないからな。」
大和の言うとおりかもしれない。茅海は実戦の授業では強いけど、本物の実践の回数は少ない。乍瀬にいればもうちょっと鍛えられたのかもしれないけど、茅海は純粋に授業の実戦を鍛えてしまった。
「あいつは1対1しかできない。だからお前も1対1の状況にしてやったんだろ。自分が影野という強敵と戦うことになっても。桧木や神宮寺を狙わせないようにうまくフォローしながら戦わないといけないってわかっていても。」
「それは……」
否定できなかった。確かにあの時、茅海じゃ影野は厳しいと思ってしまった。
「……俺は神宮寺に可能性を与えてしまった。」
「可能性?」
「選択肢をやった。俺らと深いところでは付き合わずよい友人でいることと、俺のようなリスクばっかりでリターンのない力を手に入れるか。」
「!!!」
「俺もバカだったと思うよ。可能性なんて与えるべきじゃないってわかってたはずなのにな。」
大和は頭を軽く振った。表情はあまりいいものではない。大和はなんだかんだ言って優しい。しかし、それが裏目に出たと自分でも感じているんだろう。
「翔、神宮寺から相談か何か受けたらあきらめるように促してくれ。」
「え?いいの?」
「あいつをこれ以上苦しませてなんになる。……頼んだぞ。」
大和の表情は暗かった。今まで見たどんなものよりも。