88発目 何かが動き出そうとしている
よし、久々に学校に来れた。というか、疲れだけで1カ月の入院ってひどすぎるでしょ。まあ、入院費は警察が負担してくれたからよかったけど。これだけ久々だと学校も新鮮だよ。そして、僕が勉強していた教室。
「おはよー!!久しぶりの……」
「遅刻だな。」
入ってまずいたのはクマみたいな巨体。かなり久しぶりに見た気がする。そして、この展開もかなり久々な気がする。
「ジャッキー、僕は昨日まで入院していたわけなんだから、遅刻ぐらい見逃してくれるよね?」
「大丈夫だ。」
さすがジャッキー。見逃して……
「学校に来た時点でどんな生徒でも差別しない。それがわしだ。」
「それは絶対に嘘だ!だったらなんで僕にはいつも厳しいのさ!」
「それは差別じゃない。区別だ!」
ホント、ものは言いようだよね。
「というわけで、今日は廊下と教室の後ろ、どっちがいい?」
「いえ、退院したばっかりなんでそういうきついのはやめてほしいなあ、と。」
「大丈夫だ。どうせ病院でやることもなくて体力を有り余らせとるんだろ。その体力、ちょっとは使え。」
「むしろ入院生活で体力は落ちてるんですけど!?」
「そんなの知ったことか!」
こうして教室の後ろでバケツ持って立たされました。一体何十年前の体罰!?まあ、朝のホームルームの間だけだったから助かったけど。
「久々に来て災難だったな。」
いつものメンバーで集まっていた。なんでも逢瀬はひびだけだったから2週間ほどで退院。沖川は驚異的な回復力で、3週間で退院したらしい。
「そんなの自業自得でしょ。どうせ、久々の家だとか言って夜まで起きてたらこうなったんでしょ。」
「だって、入院生活ってつまらないんだよ。基本はベッドの上だし。やることはマンガ読むとか、テレビ見るとかだけ。正直、生きてる気持ちになれなかったよ。」
「そんなことなかったよ。私は勉強とかゆっくりできてうれしかったけど。」
勉強?なにそれ?おいしいの?
「ちなみに、お前は1ヶ月分遅れているということで、ジャッキーが補習を用意してくれてるらしいぞ。よかったな。」
「ノォォォォォォォォォォォォオオオオ!!!!」
いつの間にかもうすぐ夏休みになってしまっているのに、なんでここで補習!?ありえないでしょ!?
「落ち着きなよ。僕だって大変だったんだ。」
そうだよな。まじめに勉強していた逢瀬ならともかく、何もやってなさそうな沖川なら……
「大丈夫だってことを示すために1時間も勉強したんだよ。」
「お前はそういうやつだったよな!!」
ガタッ!
茅海が立ち上がった。これはあれだ。うるさいと言いながら僕に拳銃を向けてくるやつだ。よし、すぐさま逃げれるようにクラウチングスタートの準備を……
「ごめん。ちょっと気分が悪いから保健室行ってくる。」
「え……」
茅海が保健室?いや、そこじゃない!
「大丈夫!?一緒に行こうか!?」
「いい。」
「でも……」
「いいって言ってんでしょ!?」
「え?」
「っ!!ごめん。でも、気にしないで。ちょっと寝不足なだけだから。」
茅海はそのまま逃げていくように出て行った。
「……ねえ、僕が休んでた間、茅海に何かあった?」
「知らないよ。」
「私たちが来たときにはすでに茅海ちゃんはあんなふうになってたんだよ。」
いつもの茅海が持っている覇気が全然なかった。たぶん悩み事か何かがあるんだろう。こっちをちゃんと見てなかった。
「ねえ、大和……ってあれ?」
大和が、いない?
「ヤマくんも1週間に1回ずつぐらい休んでるらしいよ。」
僕の知らない間に何かが動いている。何かもどかしい感じが僕を包んだ。