84発目 少しずつ死んでゆく世界
上ってきたのは大和と沖川だ。大和はいつもどおりのたたずまいで、沖川は眠そうにしている。そして横になって仮眠を……
「そこ!!寝るな!!」
「まったく、うるさいなあ。」
本当にこいつは助けにきたのか?いや、もしかしたら大和たちが行くからって理由だけでついてきたのかもしれないぞ。……十分にありうるな。
「……あなたも日本人ならそれなりに心に思うところはあるでしょ。それとも、あなたは日本人じゃないというのですか?」
「確かに俺は日本人に見えないような見た目だが、これでも生粋の日本人だ。まあ、正確にはロシアのクォーターだがな。」
「大和!それはすでに生粋ではないよ!」
というか、その設定は僕も初耳だぞ!
「ならば生まれも育ちも日本だ。まあ、そんなわけだからお前がここを選んだ気持ちがわからないのか、といわれればわかる部分もある。しかし、戦いにおいて心なんてものは使うものじゃない。より冷酷に、そしてより強い信念を持つ人間こそ戦いにはふさわしい。そういう意味ではお前は戦い向きではないよ。」
「……こうなったら手段を選んでいられませんね。」
影野はトランシーバーを取り出した。どこかに連絡するつもりだろうか?
ばたばたばたばた……
「……ねえ、大和。」
「なんだ?」
「何の音だと思う?」
「人間じゃない兵器の音だな。」
ばたばたばたばた……!!
そんなことを考えてるとヘリコプターが飛んできてくれた。ボディの下にはマシンガン。
「避けろ!」
大和の声を合図にして、僕は桧木さんを抱えて、ほかのメンバーは一気に跳んで逃げた。そして、見事に清水の舞台が跡形もなく、なくなった。
「ねえ、あれって勝てるの!?」
「それよりも、影野を見逃すな。」
「え?」
後ろにいやな予感がした。振り向きざまで拳銃を振りぬいたら、銃弾が当たった。
「やはり、うまくいかないですか。」
影野の声だけ聞こえるが姿は見えない。あれだけの銃弾の中を、いや、あれだけの銃弾の爆音の中だからこそここまで隠れられたか。
「どうするの、大和!?ヘリコプターはやばいでしょ!?」
「ほっといたら京都府警がすっ飛んでくるが、そんな悠長なことしてたら全員蜂の巣だ。うまく逃れろ。翔は桧木を守れ。」
「了解!桧木さんはこっち!」
パンッ!
影野の気配を感じ取って、桧木さんの手をとってどうにか逃げ出す。しかし、ヘリコプターの音がうるさいせいで撃ってくるときのいやな感じしかしない。
「とにかくこっち!」
こうなったら、完璧にとらえられないように走り回るしかない。しかし、すでに桧木さんの息は上がっている。どうにか隠れる場所を……
「ここ!」
裏のほうにあった柱の影に桧木さんを隠した。
「ここで隠れてて。僕はヘリコプターのおとりと影野の相手をしてくるから。」
「そんなこと……」
「お願い。」
僕はそういって飛び出した。桧木さんのことを気にしないで戦えるから、さっきよりは影野の位置がわかる。ヘリコプターは邪魔だが大和たちのほうに行ってるみたいだし、ここは影野をつぶすことに専念する!
パンッ!
そう思ったら来たのでよけた。スピードならこっちのほうが上。だったら、逃げ出しながら桧木さんの場所から離れさせてもらおう。清水の舞台は二分化されているけど後ろを回っていけば大和たちと合流できるはずだし。
そんな感じで距離をとっていたが、さすがに部隊長。そう簡単には合流させてもらえない。それどころか、ぼろぼろの清水の舞台に誘い込まれていた。
「くそっ!」
「あなたの考えはわかっています。うまく合流して体勢を立て直しと同時に、向こうとの距離を離しておくつもりですね。」
どうやら桧木さんのことは完全にばれているらしい。しかし、どんな状況だろうとこれだけ距離を離していればそんなない関係はないはず。できれば、大和たちとこいつを倒してヘリコプターに集中できる環境を作りたかったが、こうなったらタイマンでつぶすしかない。
バンッ!
「くっ!」
しかし、後ろからの発砲が影野にかすった。一瞬、大和かと思ったが、この爆音は……
「桧木さん!?」
「はぁはぁ……」
そこにはまだまだ息を整えきれていない桧木さんがいた。
「なにやってるのさ!?早く逃げて……」
ばたばたばたばた…………
ヘリコプターの音がだんだん大きくなってくる。後ろを見るとこちらにマシンガンの照準を合わせたヘリコプターが向かってきている。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!」
ががががががががががががが……
しかし、容赦なく撃たれるマシンガン。僕は反射的に清水の壊れていないところを通りかわすことができたが、桧木さんは……
マシンガンの音がやんだ後の場所は完全に壊れていた。桧木さんの姿はいない。
「ひ、桧木さん?」
結局、僕は守れなかったのか?また、守れなかったのか?僕は、僕は、僕は……
「やはりよけてしまいますか。しかし、仲間が1人死んだだけでこんな状態ですか。あっけないものですね。」
僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は僕は……
もう、何もいらない。