69発目 戦いとは常に相手の2手3手先を読むものである
外に出て、来た道を戻ろうとする大和を僕と桧木さんが止めた。
「どうした?」
「何かいる……気がする。」
「はい。」
「……おかしいなあ。気配は完璧に消したはず……ってそこの女の子には気配なんて関係なかったんだっけ。隊長の言葉完全に忘れちゃってたよ。これじゃあ、後で怒られちゃうよ。」
ゆっくりと表れたのはワインレッドでショートカットの女の子。身長は茅海や桧木さんよりもさらに小さい。120cmもないかもしれない。
「逃げましょう!!」
突然、桧木さんは懐から手榴弾を取り出してピンを外し投げつけた。
ばんっっ!!!
激しい爆音が響く間、僕たちは来た道と逆方向に桧木さんに引っ張られるように走り出した。
「なんなの、あれ!?」
「わからないけど、僕たちの味方ってことじゃないみたいだね。あそこまで完全に気配を消せるって点からみても、どこかの特殊部隊ってところかな?」
「な、なんで!?」
「とにかく撤退だ!相手の戦略や布陣がわからない状況で戦闘したって勝てる見込みは少ない!」
僕たちは裏路地を桧木さんの先導で進んだ。
「逃がすか!」
そう思ったら上から迷彩服を着た人間が2人。
「くっ!」
パパンッ!
しかし、その2人は空中でけいれんを起こしたかと思うとそのまま地面に落ちた。
「え?」
「大丈夫?」
どうやら沖川が撃ち落としたらしい。
「大和からスタン弾をもらっといて正解だったよ。」
「沖川!大通りへ最短ルートで先導してくれ!さっきの布陣をみる限り、こっちが裏通りに詳しいとみてない!」
「面倒……とは言ってられないね。こっちだよ。」
沖川が先導、大和が最後尾で追撃を警戒する形になった。
「こっち!」
沖川は右へ左へとジグザグ曲がって大通りを目指した。
「それにしても、ここには敵がいないんだね?」
「配置ミスか、もしくは……」
「ストップ!です!」
曲がり道のない長い直線。そこにはいつの間に回り込んだのか、さっきの女の子がいた。
「く!」
「沖川、変われ!」
大和が一気に先頭に出てくる。そして、完全に静止したメンバーの1歩前に出た。
「あれあれ、私の相手はそこのお兄ちゃん?」
「……名前は何だ?」
「名前?そうだね……うん、追ってくる人間の名前知らないなんてなんかいやだよね。私の名前はチャオ ミン。よろしくね。」
チャオ?中国人かな?
「なるほど。面白い名前だな。まさに笑える名前だ。」
「そんなこと言ってすきを作ろうたって私には通用しませんよ。私はできる子だから。」
「そうか。」
大和が両手を挙げた。まるで降参するように。相手もそれを見て満足したように、誇らしげに、自分の成功に酔いしれるような顔をした。
「……ならば、その称号は捨ててもらおう。」
「え?」
カンッ!
突然上からの爆弾襲撃。
「目を閉じて突っ込め!」
パンッ!
大和の言うとおりに突っ込んだ。軽い音でわかる。あれは閃光弾だ。これで相手の視力は一時的に使えなくなるはず。
「それがどうしましたか!?」
声に目を開けてみると後ろに、目が見えないはずなのに見えてるように動く相手がいた。
「げ!?」
「私相手にその程度のなんて、バカにしてるですよ!!」
カンッカンッ!
「あれ?」
足元に手榴弾。
「なんのために沖川を最後列まで下がらせたと思ってるんだよ。」
バンッ!
走りぬけた後ろから爆発音。これで当分は追ってこれないだろう。
「ハァ、ハァ……」
「!!大和、桧木さんが!!」
息はすでに切れ切れである。これじゃあ、長くは持たない。
「それよりも、ここを通ってるのがばれてるんだから待ち伏せされない!?」
茅海の言うことも確かだ。ここは曲がり道のない一本道。間違いなく挟み撃ちにされる。
「ストップだ!!」
大和がその途中でいきなり静止をかけた。まだ表通りには到着していない。
「大和、ここじゃ狙われ……」
「いたぞ!」
うわさをすれば、前に1人、後ろに2人。挟み込まれた。
「おいおい、忘れたのか。俺らの表通りはここだろ。」
「え?」
パンッ!パンッ!
突然後ろの2人が倒れた。
「え?」
「な……」
驚いてスピードの落ちた前のやつもやられた。
「なんだなんだ?遅れるとは聞いてたけど、こんな理由で遅れるかじゃん?」
「やっぱり都築くんにとってはエンドレスバトルなのかな?」
「……意味不明。」
上から現れたのは……
「そういうもんだろ。一ノ瀬、佐鳥、小織。」
なつかしの乍瀬のメンバーだった。
「あ、あんたたちが何でここに!?」
「さて、さっさと店に入るか。あの様子だと2階か。」
「正解じゃん!」
「お前らも入れよ。」
「いや、だから……」
茅海の質問は無視されて中に入っていった。まあ、大和なら後で答えるでしょ。