54発目 幕間に流れる不安
『なんと、なんという幕切れ!絶体絶命と思われた状況!そんな条項を覆して勝ったのは逢瀬 奈々!』
実況って仕事してた?ていうかジャッキーの声がぜんぜん聞こえないんだけど。
「誰か逢瀬を助けにいってやれ。」
「え?」
「ゴム弾とはいえ腕と足にくらったんだ。うまく歩けないと思うぞ。」
「さっさと行くわよ!」
「えっ!?茅海、早いよ!」
僕と茅海はあわただしく出て行ってしまった。
「さて、努力の天才、滝川 大和はあいつに勝てると思ってる?」
「情報が少なすぎる。こっちの持ってる情報だけでは勝ちに傾いてるか、負けに傾いてるかすらわからないな。だが……俺の感覚ではこっちが不利な気がする。それでも精一杯はやってやるけどな。」
「逢瀬をつれてきたよ。」
扉を開けると沖川と大和は何かを話してたみたいだ。
「なら、俺は行ってくるとするか。」
「はは。ヤマくんもがんばって。」
「……わかってるさ。お前の戦いっぷりは見せてもらったからな。」
なんとなく大和の背中にはやる気と不安のオーラがまとわれていた気がした。
「ところで、最後の何をやったのよ?」
やっと逢瀬をベンチに座らせて治療を済ませたところで茅海がそう聞いた。僕も不思議だった。やったことはなんとなくわかってるんだけどそれが事実だということを信じれなかった。
「拳銃に弾が1発しか残ってなくてこれで決めなきゃ、って思ってできるかわからなかったけどセイちゃんの撃ってきた弾にぶつけてセイちゃんの心臓あたりを狙ったんだ。」
「ありえないでしょ!」
僕もそう思う。普通ならそんなこと狙ってできるわけがない。
「試合前にヤマくんが言ってたんだ。」
「「?」」
「『小織は確かにすごいスナイパーだ。でもお前とは違うタイプのスナイパーだ。お前の勝てるところで勝て。』って。言われたときはぜんぜんわからなかったけど戦ってみてなんとなくわかった。たぶん、セイちゃんは完全に私の弾を狙ってなかった。」
「え?」
「大体のルートを予想して撃ってるだけ。後は感覚が大きいと思う。だから、私は唯一勝ってると思う狙撃能力で戦ったの。勝てたのはヤマくんのアドバイスのおかげだよ。」
そういわれている大和は今、チェックが終わった拳銃を受け取っていた。その腰には最初から堂々と2丁。相手の能力はわからないといっていたが、最初から2丁じゃないといけないと感じたのだろう。
それに対して、敵も2丁。長い金髪は片目を隠しており、かなり戦いにくそうに見えるが特に髪を上げることなくそのまま戦うつもりのようだ。
「よろしくお願いする。いい戦いにしよう。」
「わかっています。」
不良かと思っていたが目つきの悪いままで握手を交わしている。あの目つきはもともとなのかな?
「見た目で人を決めるなら、あんたは間違いなく雑魚キャラよ。」
「……そろそろ心の安息地がほしい。」
2人はゆっくりと離れていった。
このときはあんなことになるなんて思ってもいなかった。ただただ大和が勝つことを信じており、このメンバーで負けるはずなんてないと思っていた。それだけだった。