53発目 秘める想いと強き心
「え?なんで?」
「お互いに結構な数を撃ってるからそろそろ弾切れのはずよ。」
茅海の言ったとおり、どちらも構えるだけ構えてでとまった。会場の空気が一気に重くなった。
「そういえば、大和がさっきよくわからないこと言ってたんだよね。」
向こうの空気がこっちにまで感染するのが耐え切れなかったので口火を切った。
「変なこと?」
「そう。理想は音のずれがないとか。」
「?大和、それってどういうこと。」
大和はゆっくりとこっちを向いた。
「銃撃で相殺するときは銃弾の発射音がほぼ同じであることが理想的だ。しかし、逢瀬が銃撃で相殺するときと小織が相殺するときの音を聞いたとき逢瀬のほうが少しずれている。つまり、反応速度を見ると逢瀬のほうが間に合ってないってことだ。」
「?」
なんか大和の説明にいつものキレがない。次は自分の試合だから集中力を高めているのかな?
「ってことは……やばい気がする。」
「え?どうして?」
「つまり奈々の銃撃のほうが相手の銃撃よりも遅いってこと。それならやばいのは奈々のほうでしょ。」
なるほど。速度がって……え?
「それってかなりやばくない!?確か大和は同じような能力なら自力の高いほうが勝つっていってなかった!?」
「落ち着きなさいよ!そこだけが負けているだけかもしれないでしょ!」
そ、そうだよね。逢瀬が負けるわけないよね。
パンッ!
逢瀬が1発打ったが完全に相殺された。
「……」
「……」
なんか、逢瀬負けてる?
「そろそろ用意しておく。」
「え?」
大和が突然、画面から離れて後ろのほうに行ってしまった。これはさっきのシーンを見てどっちが勝つかを確信したということだろうか?そしてさっきのシーンは逢瀬がやられている。つまり……
僕は信じ続けて画面を見た。
相変わらず空気は冷たいままだった。
「あ、ちゃんと挨拶してませんでしたね。こんにちは。」
「……こんにちは。」
なんか2人の口が動いてる?でもやっぱり声は聞こえない。
「今度はもうちょっとゆっくり会話したいですね。」
「……時間稼ぎ。」
抑揚のない声でそういった。逢瀬はまじめな表情のままだったが少しだけいつもの笑顔を見せた。
「もしかしてもう勝てるって思ってますか?」
「……思ってない。でも、自分、有利。」
「そうですか。」
今度はまたまじめな顔に。
「でも私も負けるわけにはいきませんから。」
「……負けても後ろがいる。」
「違うんです。後ろがいるとか、チームとか正直どうでもいいんです。でも……」
ゆっくりと観客席を見た。
「チーちゃんは自分の活躍でこの会場を沸かせました。それなのに友達の私ががんばらないで負けちゃうなんていやですよね。」
「……本気ならば。」
「わかってます。きっと許してくれますよ、みんな。でも、私は足手まといでなんかいたくない。みんなと同じ場所でみんなと笑いながら進みたい。だから……負けるわけにいかないんです。」
そこにあったのは逢瀬の本気の表情だった。
「……わかった。」
何かを小織がつぶやいた瞬間に銃弾2発が空を飛んだ。軌道を見るとおそらく右腕と心臓を的確に狙っている。逢瀬のファスティックは連射向きではないから落とせても1発。心臓側を打ち落とさなかったら負け。右手側を撃たなかったらあの反動に耐えれるはずがない。
バンッ!
「……え?」
逢瀬が撃った弾はもちろん心臓側の弾を狙った。しかし、それは当たりきらずにお互いの銃弾の軌道をずらしたのみだった。そして小織の弾は逢瀬の右手と左足に。そして、逢瀬の弾は小織の胸に突き刺さった。
「勝者。四十万高校 逢瀬 奈々!」
うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!!
本日最大の歓声が上がった。