52発目 こういうムードを待っていた!
「沖川が……負けた。」
「こうなったか。……こうなったらおれが勝つしかなくなったか。」
思った以上に大和はあっさりしている。
「どうしたんだよ、大和!?お前は沖川が負けて悔しくないのかよ!?うちの実戦1位が向こうの1位に負けたって言うのにそんな反応でいいのかよ!?」
「それよりも現状把握だ。これ以上の負けはあまりうれしい状況じゃない。」
「やま……」
「そこまでだよ。」
沖川が帰ってきた。
「大和をそこまで責めるのは間違ってるよ。」
「でも……」
ギュッ!
突然柔らかい物質で視界をおおわれた。
「ダメだよ、ショウくん。」
上から聞こえたのは逢瀬の声。
「ヤマ君だって負けたのは悔しいはずだよ。それでもチームが勝つために考えていてくれるんだからそれを責めるのはダメだよ。それに……」
逢瀬がゆっくりと離れた。
「私が勝ってくれば問題ないんだよね?」
僕は初めて見たのかもしれない。あれほど本気の逢瀬の顔を。
「あのさ、大和……」
「なんだ?」
「さっきはごめん。」
「お前が鈍くて暴走しやすいのは昔からだ。気にしてない。」
「でも……」
「正直言うと沖川が負けるのは何となくわかってた。というか負ける確率が低い組み合わせだったがそうするしか手がなかった。」
「え?なんで?」
「後半の2人は嫌な予感がするからだ。」
「……いつもの勘で?」
一応そう聞いてみたが大和の表情を見てわかった。自分でも気持ち悪い感じがしているような、そんな顔。多分、大和の珍しい100%感覚で考えていることなんだろう。ただ、僕もわかる。後ろの2人は、おかしい。
「よろしくね。」
そんなことを話しているうちに逢瀬は拳銃チェックを終えたようで小織と話をしようとしている。
「……よろしく。」
ものすごく明るくのんびりしている逢瀬に無口で冷静な小織。まったく違う性格だがどちらも銃撃のスペシャリスト。こういう戦いはどうなるのだろう?
「それでは、四十万高校、逢瀬 奈々 対 乍瀬学園、小織 聖華。ファイット!」
パンッ!
ほぼ同時の銃撃。しかしそれは2人の間につぶれた銃弾を2つ作っただけだった。
「おおっ!」
これがスペシャリスト同士の戦いか!
「基本的に戦い方が違う者同士の戦いの場合、お互いに自分の有利な状況、リーチに敵を引っ張り出そうとする。しかし戦い方がほぼ同じの場合、状況もリーチもかなり似かよってくる。」
「つまり実力が上のほうが勝つ。」
大和と茅海がそんなことを話している。でも、それだとどっちが強いんだろう?
「で、どっちだろう?」
「そんなのに決まってるわよ!」
パンッ!
もちろんわかっている。逢瀬が負けることなんて考えられない。しかし、胸騒ぎがする。
パパンッ!
またほぼ同時に発砲。そして空中でぶつかって地面に落ちる。
「……」
「……」
不思議な空気が2人の間に流れる。冷たくも暖かくもない、ただそこに漫然と存在している、わからない空気。
「……やばいかも。」
「え?」
大和がぼそっとつぶやいたのを聞き逃さなかった。
「それってどういうこと?」
「あ?ああ。一番理想的なのは音のずれが感じれないくらい同時に発砲音が聞こえること。そういうことだ。」
「???」
なんか、今回の大和は優しくない。
パパンッ!
異様なほど静かに試合が進んでいく。観客もこの空気を呼んでか誰も騒いでいない。しかも小織だけでなく逢瀬の表情もほとんど変化しない。まるで機械の戦いを見ているような気分になってきてしまった。
「……そろそろ終わるわね。」