36発目 瞳に映る世界は
ぎりぎりセーフ!!(2日連続)
試合が始まった。逢瀬はいつものように1か所に止まって拳銃を構えた。
パンッ!
逢瀬があいさつ代わりに1発撃ち込んだが相手はうまくよけて逢瀬と距離をとった。
『あれはどういうことなのでしょうか、松村先生。』
『話を聞くとどちらも実戦より固定銃撃のほうが成績が高いらしい。だから距離をとって相手の出方を見ているふりをしながら隙を狙って撃ちこむ体制をとっているのだろう。』
中に実況は聞こえないようになっているらしいからいいけど、これを聞いたら中では戦法を変えるんだろうな。
パンッ!パンッ!
「おおっ!」
観客席から歓声が上がる。どうやら逢瀬が相手の銃弾を自分の銃弾をおとして無効化したらしい。
「いくよ!」
パンッ!
いつもとほぼ同じような銃声が聞こえる。同じタイプとの戦闘で逢瀬が負けるはずが名よね。
カランッ、カラン
その刹那、聞きなれない音が聞こえた。
「ええっ!」
観客席からまた歓声が上がる。しかし、今度のはさっきの歓声とは違う。何かがっかりしたという感じだった。それもそうだ。3発目の銃弾を撃った瞬間に逢瀬の拳銃がばらばらに壊れてしまった。
「しょ、勝負あり。武器破損により勝者は仁徳学園、杉田 陽。」
主審の先生もこんな幕引きは予想してなかったのか対応に一瞬戸惑っていた。それもそうだ。武器が壊れて試合終了なんて前代未聞だろう。
「奈々!」
「……チーちゃん。あはは……、ごめん負けちゃった。」
逢瀬は精いっぱい強がってはいるが笑顔が弱々しすぎる。確かにこんな終わりはおかしすぎる。実力で負けたのではなく、こんなふうに負けたのが悔しすぎるんだろう。
「逢瀬、こんなときにすまないが壊れた拳銃を見せてくれないか。」
「……うん。」
ばらばらになってしまった拳銃をゆっくりと確認するように大和が見ていった。
「どうしたの?」
「俺は朝にお前らの拳銃を全部チェックした。逢瀬のパーツにダメージが来ていたのもあったがそのときにそれは全部変えておいたんだ。なのに3発で終わるのはおかしすぎるからな。」
僕には言っていることがよくわからなかった。
「……パーツの接合部がゆるくなってる。」
「まさかそれって……」
「え?どういうこと?」
「逢瀬の拳銃は誰かが意図的に緩めたんだ。数発撃ったらばらばらになるようにな。」
「な、なんだって!?」
「そしてこんなことができるのは……」
「相手の教師だけだね。」
「沖川!」
寝ていた沖川も目を覚ました。いや、こいつならもともと目が覚めてたとも考えれる。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!確かに私だっておかしいとは思うわよ。でも、主審がチェックするのよ。そんな拳銃が通るわけないでしょ!」
「だから2発は耐えれたんだ。主審がおかしくないと思わせるぎりぎりまで緩めてただけだからな。」
「え!ちょっと待って!それって僕たちの拳銃も危なくない?」
僕たちの拳銃も向こうの教師がチェックしてるはずだ。
「それについては大丈夫だろ。俺らの拳銃は逢瀬のほど威力はないからあまり意味がないだろうし、何よりほかの銃まで緩める時間はなかったろうしな。」
「そうなっちゃうと奈々ちゃんを最初に持ってきたのは失敗だったね。最初の時点で相手が何かを仕掛けてくるのがわかってたら対応策もあっただろうに。」
「ううっ。ごめんなさい。」
「いや、僕は君が悪いって言ってるんじゃ……」
その通りだ。順番なんて運でしかない。悪いのは改造を勝手にしたあっちだ。
「顔をあげなさい、奈々!!」
茅海が小さな身長をめいいっぱい伸ばして逢瀬を見た。
「まだ1敗しただけよ。負けが決まったわけじゃないわ。私がここで勝てば問題なしよ!だから、顔をあげて、私の応援して。」
「チーちゃん。」
「茅海の言うとおりだよ。僕たちは負けてない。だから前を向こう。」
「ショウくん。……そうだね。私がんばるよ!」
「次鋒は準備してください。」
「じゃあ、いってくるわ。」
「がんばれ、チーちゃん!!」
逢瀬は大きな声で茅海を応援した。
「……沖川、まだ何かを仕掛けてくると思うか?」
「わからないね。ただ、この1回だけで済んでくれるとは思えない。」
『さて、1回戦はすさまじい終わり方をしてしまいました。しかし、まだ終わりというわけではありません。松村先生、次の試合はどう見ますか?』
『両者とも実践の成績はかなり高い。この戦いで勝敗を分けるのはおそらく集中力になるだろう。』
そんなことを言っているうえが聞こえる。そういうわけなら茅海の方が有利だと僕は思う。なんせ、僕と1時間以上試合を行っていて大丈夫だったんだから、そんなやわな集中力なわけがない。
「それでは、四十万高校、神宮寺 茅海 対 仁徳学園、榊原 努。ファイト!!」
これからここでは大和くんにこの世界と40年ぐらい前との違いを説明してもらう予定。ということで次回から予定!予定!!