13発目 ありえないは空想に許された特権
勝負はいっしゅんだった。相手は男だったが、茅海のスピードを知ってかゆっくりと下がった。しかし、茅海はスタートする、と見せかけてその場で銃を撃った。どこに来るかを警戒していた相手にとってあまりにもいきなりだったため、その場で撃たれて終了。こういうのが1番評価が低いから相手はかわいそうだ。
「次は私だね。」
いきおいよく逢瀬が立ちあがった。
「がんばるよ、チーちゃん!」
「私はチーちゃんじゃない!!」
そんなやり取りをとりあえずやって、逢瀬は入った。
「そういえば、奈々はそんなに強くないって言ってたけど、本当なの?」
「えっ?確かそうだよね?」
僕は1回答えているので大和に聞いてみる。
「そうだな。実践の成績はそれほどじゃないから強いって印象はないな。ただ、すごいって印象はある。」
「すごい?」
「ああ。あいつの固定銃撃はすごすぎるからな。」
それに僕も茅海も不思議そうな顔をした。
「それはおかしいんじゃないの?あなただって固定銃撃2位のはずでしょ?」
「その通りだが、それだけだったら上とどれくらいの差があるなんてわかりゃしない。俺があいつの固定銃撃を見た時は鳥肌が立ったよ。」
「ファイト。」
そんなことを話しているうちにジャンキーのめんどそうな声が聞こえた。
「いくわよ!!」
相手は女子。手には反動の軽い拳銃を持っている。
「えい!!」
パンッ!
「わ!」
手始めに1発相手の女子が撃ったペイント弾は逢瀬の足元に赤色を作った。
「あぶないよー。」
「当たり前じゃない。試験よ!」
パンッ!パンッ!
2発のペイント弾が飛んだ、のだがそれは2人のほぼ真ん中で赤色の液体となって散った。
「え?」
茅海にも何が起きたのかうまくわからなかったらしい。
「ねえ、奈々は何をしたの?」
なんとなくしか僕もわからなかったので大和のほうを見た。
「単純に相手の撃ったペイント弾に自分のペイント弾をぶつけただけだ。」
「へ!?」
茅海は驚いているようだが僕はそれほど驚けない。僕だってたまにうまくいくことがあるし。
「ど、どうやって!?」
「相手の拳銃のほぼ直線軌道上に合わせるように銃の位置をとって撃ったんだ。ちなみに、微妙なずれは撃つときに補正している。」
「そんなことできるわけないでしょ!!」
「ま、まあ、茅海、落ち着いて!」
そもそも、僕にはなんでこんなに茅海が動揺しているのか分からない。
「相手の撃つのを確認してから撃つのよ!その上あそこまで完璧に当てる!?そんなの人間業じゃないわよ!!」
そうらしい。よくわからないけど。
「そもそも、そんなことしたって失敗したら当たるじゃない!」
「ああ。お前の位置からは死角になってあいつの使ってる拳銃が見えないんだな。」
「え?それが……」
「あいつの使ってるのはスフィア社のファスティック06-3だ。」
「は!?え!?」
そんなに驚くのも仕方がない。スフィア社といえば、一般人が使いやすいように安定感のある拳銃が主流となっている中で、唯一といっていいほどの威力重視の拳銃を作っている会社だ。法律の最大威力ぎりぎりながらも形さえしっかりとれば女子供でも打てるらしいが、安定感がないので好まれていない。
「まさか、それであの精度!?」
「そうだな。しかも、固定銃撃ではあれを使ってターゲットのど真ん中を完璧に当ててくる。もし全弾完璧に当てても俺たちの銃ではあれには勝てない。」
ダッ!
そんなことを言っているうちにあっちにも動きがあった。このままじゃ埒が明かないという判断を相手の女子はしたのか、突撃に変更してきた。
「ああ、これで終わりだな。」
「そうね。」
相手が飛び込んできた瞬間、逢瀬は動きながら打つ体制をとった。その瞬間……
ツルッ、ドテッ!
「……え?」
パンッ!
逢瀬は足を滑らせて、あっさりと負けた。