108発目 束の間の波乱
中は相変わらずの盛況。学生服の人間もいくらかいる。
「お、大きいですね……」
桧木さんはその規模に圧倒されている。
「本当に何でもあるわよね。そして、相変わらず無駄に広いわね」
茅海は内部図を睨むように見ている。どうも、茅海はこういう広い建物は苦手らしい。僕も得意ではないが、ここはたまに来るのである程度分かっている。
「僕は適当に音楽をチェックするよ。茅海たちはどうする?」
「私も適当に歩き回るわ」
「じゃあ、私もそうします」
「それじゃあ、1時間後にここに」
僕たちは別れた。
「……けど、どうしようかな?」
せっかくだから視聴とかで時間をつぶそうと思うが、好きなアーティストの新曲とかって出てないんだよね。出てたとしても、お金がないから買わないだろうけど。
「しょうがないし、適当にぶらつこうか」
もしかしたら、知らなかった発見とかできるかもしれないし。
そう思って歩いていたら出てきたのはアニソンのコーナー。そして、その中にいたのは桧木さん。
「桧木さん」
僕は桧木さんに声をかけた。
「あ、都築くん」
ちょうど音楽を視聴し終わったところだった。
「ここにいたんだ」
アニソンのコーナーは、僕もたまにきたりする。アニメもときどき見るし、結構いい音楽があったりするから視聴をしたりもする。
「はい。よくわからないんで歩いてたらここに出て。それにしても、このごろのアニメソングっていい歌が多いんですね」
桧木さんも同じことを思ってくれたようだ。
「そうだね。聞いてみると意外といい曲が多いんだよね」
「でも、たまに歌詞の意味がよくわからない曲があったんですけど。なんか、支離滅裂みたいな?」
……多分、それは電波ソングというやつだろう。僕も詳しくは知らないけど。
「都築くんはどうしてここに?」
「いや、ちょっと暇になっちゃって」
自分で提案しておきながらなんとも恥ずかしい話だが。
「じゃあ、一緒に回りませんか? 私もここについてよくわかってませんし」
「じゃあ、茅海も誘おうか」
そう言って携帯で電話をかけてみた。しかし、全然反応がない。
「……? どうしたのかな?」
「音楽を聴いてるか、周りの音がうるさくて電話に気付かないんじゃないでしょうか?」
僕もそうだとは思うが、茅海は仲間はずれにすると後から怒るんだよなあ。
「ちょっと探してみようか」
「わかりました」
桧木さんにはわるいが、ちょっと探してみることにした。とは言っても、J-POPのコーナーだけ見て、いなかったら桧木さんと一緒に回って、いたら声をかけるようにしよう。
「あ!」
桧木さんが小さく声を上げた。視線の先には茅海がヘッドホンをして音楽を聴いていた。
「いたいた」
僕は近づいてヘッドホンをはずした。
「え?」
「茅海。一緒に回ろう」
「バカ……」
? ヘッドホンをはずした茅海の様子がおかしい。なぜか頭を押さえてる。
そのまま茅海は寄りかかるように僕に倒れてきた。
「……え?」
一瞬、状況把握が出来なかった。頭を押さえていた茅海がいきなり……
「茅海さん!? どうしたんですか!? 都築くん、何があったんですか!?」
僕がヘッドホンをはずして、それでいきなり……どうして……
「……ごめんなさい」
パンッ!
頬に痛みが走った。何かと思ったら、桧木さんが思いっきり手を伸ばして僕の頬をたたいていた。
「落ち着きましたか?」
「……そうだ! 茅海は!?」
僕は茅海を見た。相変わらず頭を押さえている。
「と、とりあえず大和に電話!」
大和ならどうにかしてくれるだろうと信じて電話をかけた。
『もしもし、どうした?』
大和はすぐに電話に出てくれた。
「大和! あの、茅海がヘッドホンを取ったら頭を押さえて倒れて、それで顔色もよくなくて、とにかくおかしくて……」
『落ち着け。今どこにいる?』
「えっと、タワーレコード!」
『なるほどな……とりあえず外に出ろ。そうだな……極力静かな場所に連れて行ってくれ。場所はどこでもいい。俺はGPSでお前らの位置情報を頼りに追いかける』
そこで大和からの電話が切れた。
「どうでした?」
「とりあえず、静かなところに行けって」
僕は茅海をおぶりながら言った。さっきよりは僕もだいぶ落ち着けてて、すぐに外に出た。