104発目 事の真実
遅れてすいません!! そして今回は長いです。覚悟して読んでください
パンッ! パンッ!
体育館に近づくと発砲音が何発か聞こえてくる。
「やっぱり!」
狙いは教師たちか!
「それにしても、狙いの教師は誰なんだろうね。抄華ちゃんもここにいるし、僕たちが狙いというわけじゃない。まさか、教師全員を狙ったわけじゃないんだろうしね」
そういえば誰なんだろう? 考えてなかった。
「大丈夫ですか!?」
パンッ!
そのとき、銃弾が撃たれ、最後の1人が倒れた。最後の黒タイツが。
そして、それを撃っていたのは予想外なメンバーだった。
「やっときやがったじゃん。遅いじゃん」
「ふふふ……まさかの増援に言葉もありませんか? なんていう妖艶キャラを押して見たかったりして!」
「……お久しぶりです」
そこにいたのは金髪のつんつんグラサンにピンク色の派手な髪のツインテール、そして紫色のショートカット。
「なんでここにいるの!? 一ノ瀬、佐鳥、小織!」
そこにいたのは乍瀬高校のメンバー。そして、ジャッキーやジャンキーもいる。他の先生がいないところを見ると、すでに逃げた後なのかもしれない
「あ、あんたたちが何でここに!?」
「なんか先月にも聞いた言葉じゃん」
軽く茶化すように一ノ瀬が言った。それに茅海は反応して、ものすごい勢いで文句を言い始めてる。
「先月ぶりだね」
「先月はあわただしい出発だったけど、また会えたね、マーちゃん、セイちゃん」
「やっほー! たった1ヶ月ぶりなのにものすごい久しぶりな感じがするよ」
「……お久しぶりです」
みんなが笑顔でおのおののあいさつをした。
「それにしても、何でここに?」
「そうよ! 私もそれを聞きたかったのよ!」
茅海と一ノ瀬が戻ってきた。
「それについては俺が説明しよう」
そんな声が入り口からした。大和だ。
「実は、こいつら3人に神宮寺の試験を担当してもらう予定だったんだ」
「そうなの?」
一ノ瀬のほうを向いて聞いてみる。
「そうじゃん。実は、乍瀬は昨日から夏休みだったんじゃん。そこで大和に頼まれたから全員で行くことにしたじゃん。朝の便に乗って来てみれば、なんか中で争ってるみたいで、一番騒がしかったところを確認してみたらあそこの2人だけで戦ってたから、助太刀したというわけじゃん」
「そうなんだ……」
周りを見てみると、30~40人の黒タイツに混ざって、20人ぐらいの黒服が倒れている。……あれ? これって?
「こいつら、あのときの!?」
茅海も気付いたみたいだ。4月ごろにあった茅海の誘拐騒動。そのときに、裏で本当に茅海をさらおうとした奴らだ。
「こいつらも国連警察につながってたの!?」
「いや、今回は私怨と依頼がうまく重なったから動いただけだろ」
それにしても、体育館は本当にすごいことになってる。黒タイツやら黒服やらの黒ばっかりの人間が軽く50人以上は倒れている。死んではないみたいだけど、今さっきからジャッキーとジャンキーがチェックして回ってるし、大丈夫だとは思う。
「それにしても、誰が狙いでこんなことになったの?」
「それについては本人に説明を求める」
大和がそういってジャッキーたちの方を見た。
「え? どういうこと?」
そんな疑問を大和にぶつけてたら、ジャッキーとジャンキーがこっちに戻ってきた。
「お前ら、大丈夫……みたいだな。お前らがあの程度に遅れを取るはずないか」
「全部説明してもらうぞ。国連警察レッドラインアジア支部元隊長、松村 源内、元副隊長、中島 美香子」
大和の言葉に耳を疑った。「冗談でしょ?」と聞こうと思ったが、大和の表情がうそでも冗談でもないことを物語っていた。ほかのメンバーも、国連警察、という言葉にかなり驚いていた。乍瀬のメンバーはリアクションに困っている。
「……知っとたんか」
「ああ。結構前にな」
「大和、レッドラインってどこなんだい?」
沖川がそう聞いた。
僕も記憶を探ってみるけど、国連警察でレッドラインという組織を聞いたのは始めてのはずだ。今まで出たのは影野がいたグリーンクロス、今日襲ってきたブラックポイントだけ。僕たちは、そこを知らない。
ほかのメンバーも同じようで、大和の答えを待っている。しかし、桧木さんだけはなんか違うような気がする。
「……レッドポイントは対外対策を基本としている国連警察の部隊だ。ここに麻上、高尚、六車が所属している」
やっぱり、あの人たちは国連警察のメンバーだった。とっくにわかっていたはずなのに、こうやってはっきりと言われるとダメージがでかい。
しかし、大和の表情はこれで終わりでないという感じだ。しかし、これ以上続けようとはしない。
「あの、対外対策ってどんなことをしてたんですか?」
桧木さんがおずおずと聞いた。
「……それは……」
「滝川、全部言え」
答えにくそうにしている大和にジャッキーがそう言った。
「いいんですか?」
「かまわん」
大和は一応もう一回確認したが、意思が固い様子だったからか何も言わずこっちを向いた。
「こいつらのすることは対外、つまり国連警察以外の組織とかに対して動く。主に将来的に脅威となる可能性が高い人間を国連警察に取り込むこと。脅威となる可能性が高い組織や個人を調査して、危険と判断された場合は抹殺することなどをしている」
その説明を聞いて思い当たることがあった。そして、桧木さんの方を見た。
「前者はほとんどの人間がわかってると思うが桧木のだ。そして後者は……」
大和は言いにくそうにしたが、覚悟を決めたようにこっちを見た。
「俺らの親を再起不能にしたことなどがある」
「……え?」
僕はまた「冗談でしょ?」と聞きそうになった。しかし、大和の真面目な表情がうそではないことを物語っていた。
「この2人は俺らの親が殺されたときのレッドラインアジア地区の実働部隊で隊長をしていた」
つまり、この2人は間接的ではない。本当の親の敵だ。
パンッ!
そんなことを考えていたら1発の銃声が聞こえた。一瞬の出来事で何がおきたかわからなかった。そして、ワンテンポ遅れて気付いた。
沖川がジャッキーを撃った。
しかし、ジャッキーの体は傷つくことなく、銃弾のほうが弾かれてしまっていた。
「ちょっ! 何してるのよ!?」
「神宮寺、やめろ」
茅海は抗議をしようとしたが、それをジャッキーが止めた。そして、ジャッキーはさらに一歩前に出る。
「俺を殺すのはかまわない。ただ、中島やほかのレッドラインへの復讐はやめてくれ」
まっすぐとジャッキーは沖川を見た。
「復讐なんて、ここで終わりにしてくれ」
「……」
沖川はお得意の早撃ちをせず、ゆっくりと銃口をジャッキーの胸の位置に持っていった。
「沖川!」
「……なんか、嫌だよね」
沖川はそうつぶやいて拳銃を下ろした。
「もっと悪者だったら僕が殺したって悪くない感じになるけど、これじゃあ僕が悪者みたいだよ」
「いいのか?」
「僕は殺さないよ。それに、ジャッキーを殺したって死にそうにないもん」
沖川は笑顔で言った。
「生意気な口を利きおって」
よかった。本当によかった。
「……私は、聞きたいことがある」
茅海が前に出た。その表情は沖川のように殺そうみたいな雰囲気はない
「本当は私のお母さんを殺したのは誰って聞きたかったけど、大和に映像つきで見せられたからだいたい予想はついてる。だから、なんでこんなことをしたの? なんで国連警察はこんなことを指示したの?」
それについては僕も気になった。僕たちの親は殺された。それがなぜなのかがよくわからない。大和の親みたいに有名だったわけでもなく、特別な人間だったわけじゃないと思う。
「……それについては、今は言えん」
ん? ジャッキーが一瞬、大和を見たような……気のせいかな。
「ジャッキー、本題だ。何でこいつらがお前を襲ったんだ? あんたは確かに、国連警察にとって脅威となる存在だろうが、そのためだけにここまでの動きをしようとしてるのか?」
大和がそうジャッキーに質問した。
言われてみれば、国連警察は桧木さんを危険と考えて追いかけていたみたいだけど、実際にここまでたいそれた行動をしていない(京都のヘリは影野の独断らしい)。そう考えると、学校全部を占拠してまでやるのはあまりにもリスクが大きすぎる気がする。
「……国連警察は戦力増強を行っているようだ」
「戦力増強?」
どういうこと?
「近年、傭兵集団やテロ組織の巨大化。そして、動きが活発になっているということがある」
「つまり、敵が強くなってきたからこっちもさらに強くなろうとしたってこと?」
「それであってる」
つまり、ジャッキーやジャンキーは戦力増強のために襲われた、と。……あれ?
「なんで襲う必要があるの? 仲間にするなら戦っちゃだめでしょ」
「自分たちの味方にならないなら殺せ。敵の戦力になる可能性があるなら殺せ。それが方針だからです」
僕の質問の答えはジャッキーやジャンキー、大和からではなく、全く違う方向から出てきた。
「誰!?」
声のした方向を見てみると、そこにいたのは僕らと同じくらいの年に見える女の子。夕焼けのような鮮やかな髪と瞳、身長は女子としては高めの170ぐらいだと思う。かなり、きれいな子だ。
「はじめまして。国連警察レッドライン所属、姫里 楓と呼ばれております」
レッドラインという言葉を聞いて全員が構えた。
「そんなに警戒しないでください。今日は失敗したブラックポイントの回収に来ただけですから。まったく。いつからレッドポイントは敗戦処理を行う集団になってしまったのでしょうね」
その話し方はかなり独特だった。虚空に話すような、まるで独白しているようにも聞こえる不思議な感じがする。
「いきなり出てきて何言ってるのよ!」
「やめろ、神宮寺」
突っかかろうとした茅海を大和が手で制した。
「敵の戦力がどれくらいいるかわからない。下手に動いたら俺らだけじゃなくて、学校のやつらまで危険に巻き込むことになる」
四十万のみんなは乍瀬のみんなと違って、戦闘狂に近いようなやつらはほとんどいない。たしかに、これで教室にマシンガンを乱射されたら大半の生徒は対応できないだろう。
「さすが。話のわかる方は大好きです。今なら特別に国連警察を入ることを条件につきあってあげてもかまわないですよ」
本当に不思議だ。おかしいと言ってもいい。こっちを見て話してるはずなのに、こっちに向かって話してるはずなのに、そんな感じが全然しない。
「残念ながら俺はお守があるんでな。そうじゃなくても、お前なんかお断りだが」
「これでも容姿には自信があるんですけど、残念です」
そして、手で合図すると何人も人が現れて気絶したブラックポイントや黒服を回収していった。
「終業式前に失礼しました。それでは、楽しく安全な夏休みになることを心から願っています」
まったく心のこもっていない風に言って消えていった。
「帰ったか」
「いやはや。お前らは何でこんな大変そうな事に巻き込まれてるじゃん?」
そう言って乍瀬の3人が近付いてきた。
「僕たちは悪の組織に狙われるべき星の下に生まれた、ってことだよ」
沖川はああ言ってる。確かに、正確な理由は分かってない。昔の因縁か、それとも偶然かこうなってしまったとしか言いようがない。
「さて、神宮寺」
「なによ」
大和は茅海に近付いて行くと、一枚の紙を取り出した。そこに書かれているのは合格証書。
「え?」
「残念ながらおめでとう。お前はその技術を自分のものにした。俺の特訓で、お前は合格だ」
大和は少し不機嫌そうに、少し嬉しそうに合格証書を渡した。
「え? 合格?」
「その力を使って複数の敵を撃退した。合格に値するだろ」
「でも……」
茅海はすぐに後ろに拳銃を構えた。そこでは沖川が速打ちで茅海を狙っていた。
「あれ? なんでさっき……」
「無意識でそこまでのエリアを判別できるんだ。まったく。できれば完成してほしくなかった技術ではあるが、残念だよ。これでお前はこっち側の人間だ、神宮寺」
茅海は信じられないような感じだったが、だんだん実感がわいてきたらしい。
「やった!」
「やったね、チーちゃん!!」
そして、逢瀬に抱きしめられた。
「奈々!?」
「よかったよ! まだチーちゃんと一緒にいれるんだね!!」
茅海と逢瀬が楽しそうにしているのを僕は遠目から見ていた。本当によかった。
「よし、お前ら。感動の出会いはそこまでだ」
ジャッキーが大きな声を出して止めた。
「ここで起こった事実は全部、なかったことにしてもらう。今日あったのは、システムの誤作動による事故。問題ないな」
どうやら、ジャッキーはこの事件を事故扱いにするつもりらしい。確かに、証拠も残ってない(全部回収された)から事故扱いにするのは難しくないだろう。
「了解した」
「わかったわよ」
「はーい!」
「しょうがないね」
「えーと……はい」
「わかったよ、ジャッキー」
「ジャッキーと呼ぶなと……まあ、今ぐらいはいいじゃろ」
そんなわけで、この後、終業式を行って、普通に、何事もなかったように終わった。