表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/13

チャーハンと過去からの便り

夢の世界に、それは届いた。


 一枚の、紙の手紙。

 あまりにも古風で、今の文明から見れば“非効率”な媒体。けれどそこに書かれていた言葉は、まっすぐで、温かくて――懐かしかった。


 「君がどこにいるかは、もうわからない。でも、君が何を食べると笑うのか、僕は知ってる」


 添えられていたのは、油でしっかり炒められたご飯、刻んだハム、玉子、ネギ、そして焦げ目の香ばしさ。


 ――チャーハンだった。


「……送った覚えはないけどな」


 モニターを見つめるアキラは厨房の中で苦笑いしながら、パラパラに仕上がったチャーハンを皿に盛りつけた。


 「冷蔵庫の中で余ってた具材と、思い出だけで作ったんだけど……まさか、夢の中にまで届くとは」


 AIミレイが淡々と告げる。


 《記録者ID023の夢内にて、“父親からの手紙”と“チャーハン”の記憶を再構成。現実の料理が触媒となり、記憶が活性化された可能性があります》


 「過去の記憶に、俺のチャーハンが作用したってことか」


 《はい。記録者の精神状態、安定に向かっています》


 夢の中。

 青年は古い書斎で、父親の筆跡らしき文字を何度も読み返していた。


 「これ……チャーハンのレシピじゃん」


 玉子は先に炒めておけ、とか、強火で一気にいけ、とか。

 それだけのことで、なぜか涙が出た。


 なぜ父は、料理の話ばかり書いていたのか。

 答えは、最後の一文にあった。


 「君がどこにいるかは、もうわからない。でも、君が何を食べると笑うのか、僕は知ってる」


「誰かの想いが、料理を通して夢に届く。そんなの……もう“奇跡”じゃなくて、“日常”なんだな」


 アキラはチャーハンをかき込む。

 ごま油の香りとともに、どこかで誰かが笑っている気がした。


《記録者ID023、感情安定化処置完了。夢内での精神ブロック解除成功。》


 「次は誰に、何を届けようか」


 アキラの“厨房”は、今日も稼働する。

 電力と燃料と食料が続く限り、彼は食事を作り続ける。


 誰かが、誰かを思い出せるように。

 そして、忘れたくない何かが、ちゃんと夢の中で生き続けるように――。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
良作の予感。 続き期待
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ