表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

ナポリタンと反逆のレジスタンス

赤――

 それは、夢の中では異端とされる色だった。


 統一された夢世界の中で、民は“神のレシピ”に従い、慎ましく生活していた。だが、ある日、南方の都市に現れた一人の少年が“赤い麺”を炒めた瞬間、すべてが変わった。


 「これは……“ナポリタン”と呼ばれていた料理だ。忘れ去られた世界の、反骨の味だ!」


 炒められたケチャップが香り、スモーキーなウインナーとピーマンの香ばしさが立ちのぼる。

 それを食べた者は口々に言った。


 「うまい……!でも、これは“神のレシピ”ではない!」


 ――それがすべての始まりだった。


 夢の中に生まれた“神聖な秩序”に対して、“味覚の自由”を叫ぶ者たちが現れた。彼らは「レジスタンス」を名乗り、既存の料理法から逸脱することを信条に掲げた。


 その中心にあったのが、ナポリタンという料理だった。


 一方、現実のシェルターでは、アキラが皿の中のナポリタンを無言で見つめていた。


 スパゲティは乾麺からゆでたもの。保存用ウインナー、冷凍ピーマン、そしてケチャップ。

 材料は最小限だが、味には自信がある。なぜなら、これは彼が幼い頃、まだ地上に陽があった時代に食べた「母親の味」だったからだ。


 彼はそれを一口すすりながら、AIミレイの報告に耳を傾ける。


 《記録者ID103、コードネーム“カノン”、夢内にて“レジスタンス”を結成。彼らは“神のレシピ”に反し、独自の調理を展開中》


 「反乱か……。でも、それって悪いことじゃないよな」


 《“反乱”ではなく、“創造”の兆候とも解釈可能です。夢世界における“自己の確立”として》


 アキラは思わず吹き出した。


 「はは、ナポリタンが革命の象徴になるなんて、誰が予想した?」


 甘く、酸っぱく、どこか懐かしいこの味には、確かに何かがある。

 形式に縛られない、自由な発想。

 「うまけりゃいいじゃん」という、どこまでも人間らしい感覚。


 《補足:ナポリタンを食した夢の住人たちに、共通して“個の輪郭”を認識する兆候あり》


 「つまり、個性が生まれ始めたってことか」


 シェルターにおける人類維持システムは、「共通の夢」によって精神を安定させる設計だった。だが、ここに来てその均衡が崩れはじめている。


 だがアキラには、これは“進化”に見えた。


 食べることで、人は生きていた時の記憶を思い出し、

 記憶から、感情が芽生え、

 感情が、意志を生む。


 そして意志は、世界を変えていく。


 「……いいさ。ルールを破るくらいが、ちょうどいい」


 アキラは残りのナポリタンをすする。

 その味は、誰にも管理されない、自由の味だった。


その夜。

夢の世界では、カノンたちレジスタンスが「神の神殿」への突入作戦を始めようとしていた。


 「俺たちの料理には、“想い”がある。それは誰にも止められない!」


 仲間たちがフォークに巻き付いたナポリタンを掲げ、赤い湯気が夜空に広がる。

 それはまるで、遠い地下の現実から立ちのぼる、希望の煙のようだった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ