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3.エルフの森

「これは何だ?」

 がっしりとした体格の高身長の男が家の玄関口を見下ろしていた。

 そこには、ふわふわとした小さな生き物が横たわっており、その真白な体は赤く滲んでいた。


「…おい」

 男はしゃがみ込みその小さな生き物に顔を近づける。


 男の手のひらの3分の一ほどしかない白色の生き物。羽も生えているしクチバシもある。小鳥だろうか?

 その生き物は身体中に血が滲み、右羽と左足が明後日の方向に折れ曲がっている。


(あーあ、こりゃ長くないな)

 小鳥の口元に耳を近づけると微かな息があり、胸も上下している。


「何で俺の家の前にいるのかね」

 男は大きなため息をつき、そっと小鳥を持ち上げ両手で抱える。


(あいつの家に行くか)


 この家から村を抜け南へ徒歩3時間。そこには大きな森がある。さらに1時間森を歩き進めると魔法使いの友人の家がある。


 彼ならどうにかしてくれるだろうと男は考えていた。


(しかし4時間の道のりを今にも死にそうなこの小鳥は持つのか?)

 ほんの一瞬疑問が胸をよぎったが、考えることより行動を第一とする男は瞬時に歩き出していた。

「ちび助、死ぬんじゃねえぞ」


 ---------


 男は森の入口に到着し、そこから1時間歩みを進めていた。


 森は鬱蒼としているが空気が澄んでいる。飛翔している月光虫がぼおっと淡い光を放って辺りを照らしており、何とも幻想的な雰囲気だ。


 ここは森の守護神であるエルフが守る土地。


 辺りを見渡せば森は様々な気配で満たされてる。


 頭上では三つ目ガラスの群れの鳴き声が響き、男の足元を一角うさぎが横切る。

 森の所々には木や葉に擬態したスライムも見受けられた。


 森の奥から何やら月色の光が2つ近付いて来る。小さな小さな光だ。


(月光中ではないな)

 立ちどまり目を細める。段々と2つの光の正体が見えてくる。

 そして彼の顔の前で止まった。


 ――2匹の森の妖精だ。


 エメラルドグリーンの大きな瞳に長い耳と触覚。男と女が1人ずつ、大きさは男の人差し指位だ。


 2匹の羽は淡く光り、羽の羽ばたと共に月色の鱗粉が宙に舞っていた。


「………」

 女の妖精が男に話しかける。しかし彼は妖精の言葉を理解できない。

「悪いな。俺はお前たちの言葉が分からねえんだ」


 男の妖精がシマエナガを指差し、女の妖精が男の手の平に近付いて行く。


 女の妖精はシマエナガを抱えている彼の手のひらに指をかけ小鳥を見つめた。


「こいつ死にそうなんだ。今から友達に助けてもらってくるんだよ」


 妖精は顔を上げ男を見つめた。

「………」


 青年の前で話を聞いていた男の妖精はシマエナガの元へ向かい、女の妖精の横でシマエナガを見つめた。


 妖精同士何か耳打ちをした後、再度彼に向かって女の妖精は話しかけ、小鳥の体にそっと触れた。

 そしてその頬に口付けをした。


 妖精の口付けはある意味を持つ。新しく生まれた命への祝福だ。


「おいおい、こいつは死にそうなんだぞ」

 2人の妖精は青年に向かいにこりと微笑み、そっと小鳥の頬に触れてから去って行った。


(妖精のキスなんて珍しいこともあるもんだ)


 ここからあと30分程歩けば友人の家に着く。

「チビ助、頑張れよ。後少しだからな」


 手のひらを広げ小鳥を見つめる。

 小鳥は口を開けて洗い呼吸をしているが、先ほどの体の震えは小さくなっていた。


(さて、先を急ごう)

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