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参の巻「古狸」
「へへっ、旦那さんも隅に置けまへんな」
「寝覚め悪いから仮住まいさせてやるだけだ。誤解するな」
物置になっている経蔵の前に居るのは、文字通り肩の荷が下りて休んでいる馬と、文字通り鬼の形相でこちらを睨んでいるお得意様。
はやりの役者に似せた若い色男に化けているのに、古狸だ腹黒だと吹き込むものだから、横のお嬢さんは自分のことをすっかり訝しんでいる。
出来る事ならお嬢さんと対面させたくなかったらしいが、着替え終わって出てきたところに鉢合わせてしまったのだから仕方ない。
「まぁ関係性は何でもよろしいけど、いとはんを世話するってなったら、なんぞかんぞ入り用でっしゃろ?」
「……否定はしない」
「ほな、適当に見繕って、また明日にでも来ますわ。今後とも、どうぞご贔屓に」
「早く立ち去れ、守銭奴」
へいへい、言われなくても長居しませんよ。
馬の背中で、預かった着物を夜市で何と取り替えたら喜ぶかの胸算用でもするとしましょ。