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二か所ほど別視点が入ります。
一部英語表記となってます。
チャイムが鳴るとすぐに次の授業が始まった。
私は相変わらず教材が届かない清水くんと机をくっつけて教科書をシェアしていた。
清水くんは何かにつけてちょっかいを出してくる。私が書いたノートを貸してといわれて渡してみると字きったねえとか、昨日にあげたウサギのシャーペンも今は使ってないだとか。
だから私は仕方なく今日も違うウサギのシャーペンを貸してあげた。
だけどそれ以上に気になることがあった。
清水くんは何の前触れもなく、突然に私の耳元五センチの距離で囁いてくるのだ。
「ねえ。ここの問題を教えてよ」
「ひやあ!」
――も~! 息がかかってるから~!
「ひや……? おいどうした一年?」
「あ、いえ先生……何でもありません……」
出会ってまだ二日目だというのに、清水くんは昨日よりも積極的になっていたのだった――。
◇
「ということがあったのよ~。翔子ちゃんこれどう思う?」
昼休み、私はお弁当を食べながら清水くんや夏月くんのことを話した。
「脈ありじゃない? メイプル王子は暦のことが好きなのかも。ほら、好きな子にはいたずらしたくなるっていうし」
「え~! さすがにそれはないよ~。それに……昨日の今日であんなことされても、私困っちゃうだけだよ……」
「確かに困るね。夏月くんこと再会王子も現れたんじゃ、いったいどっちを選ぶべきか……」
「そういう意味じゃないってば~」
「なんだ、違うのか」
「違うよ~! それに、夏月くんは私のこと忘れちゃってるみたいだし……。きっと他に好きな人でもできたんだよ。夏月くん、幼稚園の頃からモテてたし……」
「本当にそうなのかな」
◇
教室に戻る時、廊下できょろきょろとしている夏月くんを見かけた。何か困っているようだった。
「ほら、いってあげなよ」
「え!? でも……」
「でもじゃないでしょ。それに助けてあげると何かを思い出すかもしれないよ?」
「そうかな……? うん、わかった」
私は夏月くんに近づく。「夏月くん、こんなところでどうしたの?」
「暦か。美術室に一組分の色紙を持っていってくれって頼まれたんだ。今日の日直は俺らしいから」
一組の日直は席順で決まる。そこに転校初日などの理由は関係なく、先生は日直だからと夏月くんに仕事を振ったのだ。
「美術室は別の校舎にあるから、こっちからいけるよ」
「ありがとう」
そうして私と夏月くんは二人で美術室へと向かった。
◇
美術室では美術の先生が授業の準備をしていた。夏月くんは色紙を先生に渡し、私たちは教室へと戻る。
――夏月くん、教室では私のこと覚えてないっていってたけど、でもさっきは私のことを暦って呼んだ。ほんとは覚えてるのかな……。
「ね、ねえ夏月くん」
「……何?」
不機嫌な反応だった。
「ううん、何でもない。あ! 私やることがあるんだった! ごめんね。先に教室に戻ってるね!」
ほんとは用事なんてないのに、そういって私はわざと夏月くんと離れた。今の夏月くんと、どういう気持ちで接すればいいのかわからなかったからだ。
廊下を抜けて階段を上がろうとした時。
「一年さん、ちょっと」
振り向くと、横松さんたち三人組がいた。
「横松さんどうかしま――」
「ちょっとあんた。家風くんと二人して歩いてるだなんてどういう関係なの!?」
「どういう関係なの!」
「い、いや! た、たまたま困ってるところ見かけたから声をかけただけだよ」
「そう、まあいいわ。伊子がね、家風くんに一目惚れをしたのよ。もしあんたが家風くんについて何かを知ってるなら話しなさいよね!」
「話しなさいよね!」
恋竹さんは顔を赤らめたまま黙っていた。
「わ、私は何も知らないよ! ごめんね。ほんとに美術室の場所を教えてただけだから」
「本当でしょうねえ!?」
「でしょうねえ!」
――どうしていちいち疑うのよ……。それと、夏月くんは忘れてるみたいだし幼馴染のことはいわなくてもいいよね。
「ほんとだってば……あはは……」
「そう、ならいいわ。何か家風くんのことがわかったら私に教えなさいよね! あーそれと! くどいようだけども、私の清水くんにも気安く話しかけないでよね!」
「そうよそうよ!」
そういって三人組は去っていった。
――はあ……。なーんか相手にすると疲れる……。
◇
昼休みが終わり五限目の授業が始まった。このときも清水くんは積極的に距離を縮めてきた。
遠くの席からものすごい圧の視線を感じた。
――横松さん……。
「ねえ、この文章の意味を教えてよ」
そういって清水くんは私のノートに『I forget to say something』と書いた。
「それは、『何をいうのか忘れちゃった』って意味だよ」
「へえ。じゃあさ――」
そういって清水くんは私の耳元五センチの距離でこういった。
「『I forget to say something"I love you"』は、どういう意味?」
「ふえあっ!?」
自分でも驚きのかん高い声がでた。
――だから息がかかってるんだってば!
黒板に英文を書く先生の手が止まり、何事かとクラスを見回す。他の生徒もきょろきょろとしていた。
私は立てた教科書に隠れながら小声で、「ちょ、ちょっと! 急に何するのよ!?」と清水くんを問いただす。
「暦は最初にいったよな? わからないことは何でも聞けって。だから聞いただけだけど?」
唇三十センチの距離で清水くんはそういった。
――もう近いってば! 清水くん私のことからかってるのかな? それにいつの間にか暦って呼んでるし……。
「……えっと、その意味はね、『いい忘れてたんだけど……あ、愛してるよ』……だよ」
「聞こえない。だからもう一度いってみて。今度は俺の目を見ながら」
――ほえええ~! もう、清水くんはいったい何を考えてるの!?
「き、聞きとれなかったんなら私がノートに書いてあげる――」
と、清水くんのノートに書こうとするとガシっと腕を掴まれた。
「俺は、書いてほしいなんていってない。いってほしいんだ。暦に」
鼻先が当たってもおかしくない距離で清水くんはそういった。
ぷしゅ~。
――もう何なの!? 何をさせたいのこの人はああ!?
「ほら、早くいえよ。暦」
――もう知らない……。
私は清水くんの顔を見る。そして――。
「その意味は……『い、いい忘れてたんだけど、愛してるよ……』」
すると清水くんは私の耳元に顔を近づけ、「俺もだよ」といい、そのまま耳にキスをした――。
「ふわあ~~」と、空気の抜けるようなかん高い声と共に私は開いたノートの上に顔を落とした。
◇
「あ、気づいた? 暦大丈夫?」
私はゆっくりと目を開ける。どうやら私は保険室のベットで寝ているようだった。
「翔子ちゃん……? 私、どうしたの?」
「……説明する前に今の具合を聞いておきたいな」
「ほえ? 今は大丈夫だけど……」
「そう。ならよかった。それじゃあ心して聞いてね」
◇
<翔子視点>
「……先生」
「んん? どうしました?」
メイプル王子が立ち上がる。「俺、保健室にいってきます」
「体調がよくないのか?」
「ええ。俺のプリンセスが意識を失いました。至急つれていかないといけません」
「何ですと!?」
教室がざわつく中、メイプル王子は暦をお姫様だっこすることで更にざわついた。私の隣に座る横松は小刻みに机を叩いていた。
――これはまた暦にとばっちりがいきそうだ。
メイプル王子が暦を抱きかかえて教室を出ると、そのすぐ後に、「……先生。俺も体調がよくありません。だから保健室で休んできます」と再会王子がいい、先生の返答を待たず教室を出ていった。
廊下側最前列の私の席からは教室を出ていく再会王子の顔がよく見えた。どちらかといえば体調を崩しているというよりは怒っているような表情をしていた。
「大丈夫かな、家風くん……」
「時差ボケかなんかでしょ? きっと大丈夫よ」
後ろに座る恋竹の心配に横松はそうこたえた――。
◇
パタンと。
私は布団に顔をうずめた。
――お姫様だっこされてたなんて……も~! 清水くんは何をやってるのよ~!
「……あれ? でも、じゃあどうしてここに翔子ちゃんが?」
「話しにはまだ続きがあるの――」
◇
<翔子視点>
私が異変に気づいたのは、再会王子が教室から出てすぐのことだった。
ぱりーぃぃぃん!
突然、廊下からガラスの割れる音がした。
私は窓を開けて見ると、割れたガラスの辺りでメイプル王子と再会王子が揉めていたのだ。
これはまずいと思った私は、「先生、私も持病の『今すぐにいかないと病』が悪化してきました。保健室にいってきます」と、正直に伝えて教室を飛び出した。
そして、私たちは校舎の屋上にきた。授業中とはいえあの場所は目立つからな。
メイプル王子と再会王子は向かい合う。タイマンする流れだ。そんな二人を私は気絶したままの暦を支えながら見守った。
だけど、ここで私はふと思った。暦は暴力を好まない。まして自分のことで人が傷つくのは見たくないはずだと。だから私は殴り合いをしてほしくなかった。
そこで二人に提案してみた。
「暦は暴力にトラウマがある。殴る男は生理的に無理になる」と伝えると、彼らは意外にもすんなりとファイティングポーズを解いた。
決闘の手段を「だるまさんがころんだ」なのか「じゃんけん10回勝負」なのかで少しは揉めたけど、結局じゃんけんになった。
その結果、再会王子が勝った。そしてメイプル王子は黙ったまま屋上から消えていった。
再会王子は暦をお姫様だっこでここまでつれてきた後、私に「後は頼んだ」といい授業に戻ったという――。
◇